春の選抜大会が終わって、早1ヵ月。
新チーム最初の全国大会で、順位が付いた。スタート地点における自チームの位置付けが分かったことで、冬に向け歩むべき道のりがより鮮明となった学校も多い。
そのうちの一つが、昨年度の花園覇者・東海大大阪仰星高校である。
今年の仰星が描くロードマップはこうだ。
2月から4月までの3ヵ月間で、まずは基礎を固める。
具体的に言うと、2月がボールゲーム要素の習得。3月に格闘技要素を身につけ、4月には新しく入ってきた1年生に対し自分たちでボールゲーム要素をコーチング。応用力を身につけながら、陣地取り合戦の訓練を行う。
5月でそれら3要素を使ったゲームメイク術を学び、6月にはゲームをコントロールする段階へとステップアップ。7月になるとセブンズのトレーニングに打ち込み、8月の夏合宿ではそれまでの学びがどれ程蓄積されているのか、全国の学校と再び対戦し確認する。
そして菅平で見えた「今出来ること」を踏まえた上で、9月の4週間と10月の4週間で更に積み上げるべきことは何か、どう過ごすべきか、どうピーキングを持っていくか、を判断する。
「例年であれば、このサニックスワールドユースは海外選手たちと交流し、文化としてのラグビーを捉える場、と位置付けていました。しかし今は海外チームが出場出来ないため、今年に限っては2~4月の3ヵ月間で取り組んできたことを確認する場、3月からどれくらい積み重ねられているかを計る場としています。」
教えてくれたのは、東海大大阪仰星を率いて今年で10年目。湯浅大智監督だ。
予選リーグ1日目に戦った佐賀工業と、2日目の京都成章。タイプも違えば、快晴に暴風雨とグラウンドコンディションも大きく異なった。
しかも2日連続での試合で、なかなか満足に準備は出来ていない。そんな状況下でも試合に対応する片鱗を見せてくれた、基礎的な所を確認出来た、と湯浅監督は話す。
「ゲーム中の対応力はまだまだ。そこが出来るようになれば伸び率も上がると思いますが、それは来月以降です。」
ゲームメイクは、相手や環境云々ではない。自分たちが3要素(ボールゲーム要素、格闘技要素、陣地取り合戦要素)をどう使うのか。そしてゲームコントロールは、3要素を使ってどう自分たちのゲームに引き込んでいくか、ということ。
「1週間泊まりの大会なので、夜もミーティングが出来ます。その中で、生徒たちにどういう声掛けをしたらいいか僕たち自身も気付くことが出来たらいいな、と思っています。」
試合中も学びの場。松沼キャプテンは、試合中にも湯浅監督と密なコミュニケーションをとった
ジャージを着て何をするか
1日目の試合後、湯浅監督は生徒たちにある問いを投げかけた。
「今ジャージを着ていること、去年優勝したジャージを着ていることに満足していないか。」
ジャージを着て、何をするのか。その先が重要であり、その先を求めているんだ、と。
「知っていることが増えると、知らないことが増えるんです。ひとつ知ってしまうと、その裏側にある自分の知らないことに気付いてしまう。知っていることが増えれば増える程、知らないことが倍以上に増えてくるんですよ。
だけどそれは、良いことなんです。そこに気付くことが出来たら『知らないことが増えるから先にもっと調べよう、探求して勉強して、知らないことを潰していこう』となります。知らないことに気付けていないこと、それが成長を妨げるのです。」
自分は知らない、ということを知った方が良い。哲学的ですけどね、と笑った。
「自分は知らないことがいっぱいあるな、と気付いている子の方が、夏越えた時にレギュラーになっているんじゃないですかね。」
だから選抜の時から何度も繰り返し話した「現在地を知ること」が重要になる。
現在地を知ることで、行き先に向け正しい努力が出来る。「ジャージを着て何をするか」が、見えてくる。
「君たちは選抜で優勝していないでしょ、と。優勝していたら『あれしよう』『これやろう』となりますが、優勝はしていないんだ、と。ベスト8なんだ、と。東海大大阪仰星のジャージを着ることに満足してしまうと、井の中の蛙になってしまうんです。」
少しかみ砕く。
縄跳びをしている男の子がいるとしよう。まだ、前回り飛びがやっと出来るようになった状態の小学1年生の男の子。
彼には1つ年上のお兄ちゃんがいて、お兄ちゃんは二重飛びが出来る。そして最近、三重飛びも出来るようになった。
お兄ちゃんと常に一緒に遊んでいる弟は、自分も二重飛びが出来ると思い込んで三重飛びに挑戦する。しかしもちろん出来るはずはない。なぜならば三重飛びの前に二重飛びを習得しなければならないからだ。二重飛びが出来るようになって初めて、三重飛びを攻略するために必要なトレーニングがひとつ、ふたつと出来るようになる。
――そのことに気付くことがまず大前提。それが自分の、チームの現在地を知る、ということなのだ。
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