終わりの選手と、始まりの選手。「勝たせてあげることが出来た」優勝の安堵は埼玉ワイルドナイツ。「サンゴリアスがサンゴリアスらしく勝つために」田村熙の決意|NTTジャパンラグビー リーグワン2022 決勝

埼玉ワイルドナイツ

これが、ワイルドナイツ初先発。舞台は、リーグワン初代王者を決める決勝の場。

緊張しない、わけがない。

藤井大喜選手、24歳。専門はスクラムの王様・タイトヘッドプロップ(3番)。

岩手県・黒沢尻工業高校から大東文化大学へ進学し、この4月で埼玉ワイルドナイツに加入し丸2年が経った。

ワイルドナイツ初キャップは、昨季第5節・NECグリーンロケッツ戦(当時)。今季は第8、15節の2試合に出場し、昨季からの3試合合計で87分のプレータイムを得ていた。

しかしいずれも、リザーブからの出場。

ロビー・ディーンズ監督から「決勝戦で先発を任せる」と伝えられたのは、試合が行われる週の火曜日。

まさかの抜擢に手も足も震え、四六時中決勝のことばかり考える日が2日ほど続いた、という。

ファーストスクラムで奪ったペナルティ。笛が吹かれると、あちらこちらから選手たちが藤井選手の頭を叩きに寄った。

しかし本人は満足していない表情のまま。

「あのスクラムは、稲垣さんの方で組み勝ったことによるペナルティでした。個人的には正直、当たれていなかったので・・・。」

それでも戦う中で修正していき、次第に良いスクラムが組めるようになる。

満足したスクラムは、1・2本。「押されたスクラムも、最初は良い感じに組めたんです。でもそこから前に出ようとした所、隙を突かれました。そういうスキルも、これから磨いていきたいです。」

試合後メディアに囲まれていると、先にインタビューを終えたジョージ・クルーズ選手が笑顔で声を掛けた。

「Good boyね!スクラム、スゴイ!」

選手入場した後、国歌斉唱までの緊張する時間帯。隣に並んだクルーズ選手は、しきりに肩を組み、諭すように声を掛け続けた。

「ジョージは声を掛けてくれるし、本当にいつもサポートしてくれています。スクラムも(藤井選手が3番、クルーズ選手が5番と)後ろからの押しが凄く強いので、そういう意味でもとても支えられていました。(藤井選手)」

そしてクルーズ選手は去り際、こう言葉にする。

「ジャパンのコーチ、ジェイミーにも言っといてね。藤井のスクラムが、2023年のワールドカップファイナルでジャパンを勝たせるよ。ヤマ(山沢拓也選手)とリキ(松田力也選手)がキックしてね!」

イングランド代表45を有する先輩からのアドバイス、そして賞賛は、何物にも代え難い財産となった。


この試合がプロラグビー選手としてのキャリアラストゲームとなったジョージ・クルーズ選手。肩を組むは、これが初先発の藤井大喜選手。終わりと始まりが、ファイナルの舞台で融合した

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藤井選手のこの1週間を支えた、2つの存在がある。

1つは、ナイツ。埼玉ワイルドナイツのノンメンバーのことだ。

「この1週間、ナイツメンバーにはすごく助けてもらいました。自分の中で『めちゃくちゃ頑張ろう』という気持ちになれたのも、ナイツのお陰です。」


試合後、ナイツがスタンドを下りるとホッとした表情で駆け寄った。「試合前、ミスしないか本当に不安で。もちろんミスもありましたが、なんとか戦えたことにホッとしました。」

そしてもう1つは、スクラムを指導する木川隼吾スクマムコーチ。

「木川さんには大学の時から指導してもらっていて、今週も1対1でメンタルケアをいっぱいしてもらいました。緊張と不安でいっぱいだった自分のメンタルを整えてくれた、頼れるコーチです。」

木川コーチも「想像通りの活躍。やってくれると思っていました。いや、想像以上かな。出し切ってくれました」と褒め称える。

来季は、決勝戦の舞台に立ったプレイヤーとして。フィールドプレー、スクラムともにより上のレベルを目指す己との戦いが始まる。

「コンスタントに試合に出られるような選手に成長していきたいと思います。(藤井選手)」

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「大変でしたけど、楽しかったです。」

ディフェンディングチャンピオンのスクラムを指導し、1シーズン目。

木川隼吾スクマムコーチは、安堵した表情を見せた。

選手時代に優勝した時には、ただただ嬉しかった。それがコーチ業となると、安心感が強くなった、と言う。

「『あー、よかった。みんなを勝たせてあげることが出来た』という安心感ですかね。」

その言葉が、コーチとはどれほどの重責なのかを物語る。

何を隠そう、埼玉ワイルドナイツのフロントロー陣には日本代表が揃っている。自身のコーチングスキルが足りているか、自信はなかった。

だがスクラムリーダーたちと話し合いながら、今年のスクラムをともに完成させていった。

来季は「ワイルドナイツのスクラムの底上げをしたい」と未来図を描く。

日本代表キャップを持っていないコーチだからこそ、若手選手たちへの感情に寄り添いながら成長を促せることが強み。

来シーズンは、より多くの選手たちの、もっと強いスクラムが見られるはずだ。

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