もう一度、チームとして一つになる。
石見智翠館らしいラグビーを取り戻すための今年の夏合宿だった。
岐阜県ひるがの高原での4校合同合宿を終え、菅平に上ったのは8月9日。翌10日に、慶應義塾高校と初戦を戦った。しかしチームとしてのまとまりは影を潜め、同点で終了。
続く12日の茗溪学園戦では1トライ差で敗れはしたものの、ディフェンス・アタックともに自分たちのやりたいことを出来たゲームだった。
山あり谷あり、な夏の強化期間である。
菅平最終戦となった13日。相手は、毎年國學院栃木高校と決まっている。
國栃戦の前半は、互いに譲らぬスコアレス。「今までどおり、いや今まで以上にディフェンスで体を当て相手にプレッシャーを掛け続けることが出来ました。」
しかし後半に強さを見せたのは國栃。4トライを許し、引き離された。
「相手にしんどいプレーをさせていたにも関わらず、自分たちがエナジーを上げきれなかった。後半トライを重ねられてしまったことが反省点」と石見智翠館・大沢櫂キャプテンは話す。
試合終了後、試合メンバーはグラウンドの隅に集まり、しばらく言葉を交わした。
ボリュームのある、熱い言葉が交わされた直後に突然響く笑い声。
「自分たちが思ったことを言葉にしていく。それでお互いがすり合わせる、というのが僕たちの代には合っているのかな、と思います。」
なんとも石見智翠館らしい光景だった。
ターニングポイント
8月11日に行われた、春日丘高校戦。その試合直後「実は、とある選手と本音でぶつかり合ったんです」と大沢キャプテンが教えてくれた。
心をぶつけた相手は、AチームとBチームの狭間に身を置く同級生。
「本音で話し合いました。正直、悩んだんです。今現在彼は伸び悩んでいる状態で。そんな時に僕が言ってしまったら、余計落ちるんじゃないか、って思って。
でも僕は元々の彼の性格を知っている。目の色が変わった瞬間、バチバチ行く彼を知っています。だから、今の彼自身が悩みに対してどう対処していいのか分かっていないのであれば、僕も覚悟を決めてぶつかり合おう、って。」
お前はAチームに居続ける存在だと思っている。
今、ここで泣いている場合ではない。
今からでも練習して、Aチームに上がってこなあかん。
心からの言葉を、大沢キャプテンはいくつも投げかけた。
「そしたら『俺の気持ちなんか分からんやろ』『上辺だけの関係や』って、率直な今のストレスを僕にぶつけてくれたんですよね。
だから僕、覚悟を決めて『なら、どつき合いしようや』って。『上辺だけじゃないことを証明したるから、どつき合いしようや』って返して。」
新チームになった春先から、監督もキャプテンも一貫して「今年のチームはおとなしい」と形容してきた。
「内気な子が多いからどうしても言えない、言い切れないシチュエーションを感じていて。そういう所が、トライを取り切れない所に繋がっているんだろうな、って夏合宿中に感じました。」
ゆえに大沢選手は、キャプテンとしての覚悟をもって、チームとしても個々人としても壁を破れるきっかけを自らで生み出したのだ。
「僕自身、殴り合おうがシバき合いしようが、口喧嘩しようが僕は良いと思っているんです。ただ、そこで終わってしまったら、単なる破壊になってしまう。」
だから、一度壊した関係性をもう一度立て直していく。そこまでがセットだ、と17歳の少年は知っていた。
覚悟をもって向き合ったからこそ、仲間もまた、キャプテンの覚悟を感じ取った。
狂
キャプテンを務めて9か月。4月には新入生も加わり、100名を超える大所帯になった。役職上周りの目を気にすることも増え、仲間からは「八方美人になっている」と指摘されることもあったという。
でもそれは、仲間である部員一人ひとりに合った接し方を模索してきたゆえ。
「そんな中で、僕自身は強く言わないといけないタイミングを失ってしまったんだと思います。僕だけではそのことに気付けなかった。チームメイトがいたから、素の自分を出していく覚悟を決めることができました。」
正直に言えば、今夏の合宿が3年間で1番辛かった。
体重も、少し落ちた。
だけど、その分成長することも出来た。
「悩んだ分だけ成長出来る、とポジティブに捉えられるようになったと思います。」
相談相手はFWコーチ。大人にも悩みを打ち明けながら、チームを作っている
キャプテンの苦悩と覚悟を、他の部員も見て感じ取った夏。
「どんなに凄い人でも、継続することが一番難しい。僕にだって魔が差すこともあると思います。そんな時には僕に対しても厳しく言ってくれる仲間がいるので、全員で繋がり合って残りの日々を乗り越えていきたいです。」
チームスローガンである『Stay Connect』。
昨年度から引き継いだスローガンに加え、数か月前に新たにモットーとして設定した言葉がある。
『狂』。
「これまでに僕たちが感動を与えられた試合は、1人ひとりが狂っていた。上の代の試合を見ていてもそうでした。
狂いまくってるな、って。
石見智翠館ってそういうスタイルなんですよね。だからこそ『狂』を伝統として受け継がなきゃいけないんです。」
いろいろあった、いろいろありすぎた菅平での最終戦。
何度もタックルに入って、ディフェンスに行って、狂いまくった前半だった。
「今日はそれが60分間継続できなかったことが敗因です。繋がりきれなかった。」
誰にも止められない、頭がおかしくなったと思われるくらいの『狂』プレーをしたら、例えミスをしたとしても絶対に落ちることはない。
「僕たちは、自分たちのために試合をします。自分たちが勝つために試合をする。でも狂った姿でラグビーが出来れば、見ている人たちに感動を与えられるチームになるだろうし、愛されるチームになるとも思っています。」
昨日の自分たちを超えていく
今夏の合宿は総合評価で50点。
「自信を持つことも出来たし、今後に繋がる良い反省も見れた。でもやっぱり負けている。そこは絶対に、タフに50点を詰めていかないといけない秋・冬だと思っています。」
やり切るしかない。
全力で、先のことは考えずに、毎日昨日の反省を超えていく。
「昨日の自分を、昨日の自分たちを超えていく毎日を積み重ねていきます。」
毎日超えていけば、絶対に50点は埋まる。
力強く、ただ真っすぐ前だけを見て、背負う100名の部員たちと過ごす残り3か月への覚悟を見せた。