小雨降る、お盆の菅平。
石見智翠館高校との試合を控えた國學院栃木高校・吉岡肇監督は「飛車角揃いましたよ」と笑顔を見せた。
飛車角のうちの1人が、菅平で試合復帰を果たしたフルバック・青栁潤之介選手である。
花園決勝戦で大怪我を負い、長いリハビリを経て再びのラグビーだった。
「とは言っても、復帰したばかり。自分自身でも思うようにプレー出来ていないだろうし、まだ『完全に揃った』という感じではないですね」と言葉を紡ぐはチームを率いる伊藤龍之介キャプテン。彼もまた、飛車角を担う選手である。
「あいつが出来ない分は、こっちが引き受けないと。」
飛車と角のバランスを自分たちで取りながら迎えた、夏の菅平だった。
石見智翠館との一戦は、互いのミスと好守備に阻まれ前半をスコアレスで折り返す。
それでも前半0-0という状況について「そんなに悪い状態じゃない」と話すは伊藤キャプテン。
「数日前に行った天理戦でも、前半は0-0。後半は流れを持ってくることができたので、今日も同様に、後半は國栃のゲームにできる自信がありました。」
言葉通り、フォワードのモールトライ、そして伊藤キャプテン自身の縦への仕掛けで得たトライで、ゲームを掌握する。
相手の猛攻を抑えきり、無失点で勝利を収めた。
課題も見つかった。
「今年はフォワードのチーム。その中でいかにバックスが前に出るか、ということが今の課題になっています。」
試合中、象徴的だったシーンがある。
相手ボールスクラムで、ディフェンスの陣形を布いていた時。上がり気味の立ち位置でスタンバイしていたウイングの裏を狙われ、深くにボールを蹴り込まれる場面があった。
スタンドオフである伊藤キャプテンは、ウイングの選手に対して「下がるべき理由を考えろ」と言葉を掛ける。
「実は今日ウイングに入った選手は1年生で、元々はBチームのスタンドオフ。それぐらい、バックスのポジションが固まっていないんです。」
その分がチームとしての伸びしろだと認識するが、同時に「その分フォワードにも苦労をさせてしまっていると思う」と司令塔としての気持ちを口にする。
前日には報徳学園と対戦。「名前にビビッてしまったというか。敵陣に入ってもミスで終わってしまう。だけど相手はしっかりと敵陣ではトライまで繋げる。報徳がトップレベルである理由が分かりました。」
今合宿のテーマは、櫻井瑛太バイスキャプテンと話し合って決めた。
「どれだけ個人が考え、プレーに対して探求し、いかに具体的な良いコールを出せるか。効果的な声を出せるようになるか、ということがこれから鍵になると思っています。
去年の花園決勝で東海大大阪仰星と戦って感じたのは、仰星の選手たち一人ひとりの判断やそれに対するコールの多さ。
だからこそこの菅平合宿ではそこを強化しないと間に合わないよ、という意味を込めて『考えて喋る』にしました。」
結果として、チームメイトの意識の変化を垣間見ることはできた。しかし、それをプレーに繋げるまではあともう一歩、だという。
この日試合を見に来ていたのは、昨年度12番を背負い、もう一つの頭脳となってSO伊藤選手と2人体制でゲームをコントロールしていた1学年上の田中大誠選手(現・法政大学)。
試合後、伊藤キャプテンは長いこと田中選手と話し込んだ。
飛車と角だけでは将棋はできない。同様にラグビーも、15人揃わなければゲームはできない。
「青柳まで良い状態で回せること、あいつが前に出るためにも他のバックスの所で前に出ること。やっぱり今まで以上に青柳もマークされると思うので、かっちりはまってくるバックスがいれば、多分もう1段階成長できるかなと思います。」
だからこそキャプテンとして個人的に声を掛け、それぞれが自覚をもってプレーできるよう促していきたい、と矢印を自らに向ける。
ピッチにいるのは15人。
残り3ヵ月、描かれたロードマップを、急ピッチで駆け上がる。