遡ること6年前。
大阪府枚方市立楠葉中学校で、2人のナンバーエイトは出会った。
きっかけは、よくある「部活動の勧誘」だった。
中学校に入学したばかりの林慶音選手(現・同志社大1年、No.8)は、2歳年上のラグビー部の先輩から誘いを受ける。
「一緒にラグビーしてみないか?」
声の主は、奥井章仁選手(現・帝京大3年、No.8)。
小学生まではサッカー少年で、体も大きかった林選手を、奥井選手は迷わずに誘った。
ひとたび楕円球を握れば、その魅力に引き込まれるまで時間は掛からなかった。
「中学ではラグビーをしたい。」
サッカーのコーチをしていた父に、林選手はそう打ち明けた。
快く送り出してもらった。
高校も、奥井先輩を追って大阪桐蔭へ進学した林選手。
だから、お互い別のジャージを着て試合をするのはこの日が初めて。
初めての対戦が、大学選手権の準々決勝。
奥井選手は、先輩として、そして帝京大学として「『差』を見せつけたかった」と打ち明けた。
そんな『差』が現れたのは、前半、帝京がゴールラインを背負った時。
同志社がアタックを継続すると、ボールは林選手の手に渡った。
対面に立っていたのは、赤いジャージの8番をつけた奥井選手。
「8番対決で(奥井)章仁くんにしっかり勝ちたい、と思った。前に出よう、と思って当たった」と、林選手は迷わず力強く体を当てる。
しかし、圧倒したのは奥井選手。「ちょうど対面に立ったので、相手(林選手)も僕のことを意識してファイトしてくれると思った。自分もしっかりと受け取って、返してあげないと」と、重量のあるタックルで前進を許さない。
「一発目の重たさ。まだまだだな、と感じました。(林選手)」
良い所を出し切れず、完封負けを喫した。
左手首には、『Battle』の文字が。「前日ミーティングで、監督から『最後はバトルやぞ』との言葉があって。今日のキーワードだな、と思って腕にしたためました。(林選手)」
林選手には、この一戦を経て変わったことがある。
これまでは、尊敬し、背中を追う存在だった『憧れ』の章仁くん。
だがここ秩父宮で「背中を追うのではなく、同じ土俵に立ちたい。それよりも上に行きたい」と願うようになった。
『尊敬する先輩』から、『勝ちたい相手』へと変わった目線。
奥井選手は言う。
「No.8はフォワードの要であり、難しいポジション。1年生で試合に出続けたのは、すごいと思います。
だけどきっと彼自身、今日の試合で学んだこともきっと多いと思う。今日の経験を活かしてお互いに頑張って、また対戦できたら嬉しいです。」
林選手にとって初めての秩父宮は、苦い思い出と、涙と。そして、新たな覚悟が決まった舞台となった。
目指すは「チームにはこいつがおらなあかんな」というNo.8。
今秋全ての試合で8番をつけたが、しかしまだ道半ば。「もっと求めていきたい。」
来年も、大学選手権の舞台に。そして、帝京大学にリベンジを。
強くなって帰ってくる。
高校ラグビーと大学ラグビーの差をとにかく感じた1年だった。「高校では通用していたフィジカルが、まだまだでした。」
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