東福岡
ピッチインする選手たち一人ひとりと握手を交わし、送り出した藤田雄一郎監督。
笑顔で声を掛けた相手はNo.8藤井達哉バイスキャプテン。力強い音の響くハイタッチを交わしたのは、15番・石原幹士バイスキャプテン。
円陣を組み、いつも通り呼吸を合わせ、60分はスタートした。
試合開始1分で見せた、今年の東福岡らしいプレー。
接点で相手にプレッシャーを掛け、ボールをこぼさせると10番・高本とわ選手がダウンボールに飛び込んだ。
すると前半4分、早速チャンスは訪れる。
佐賀工業が自陣22mに入り込めば、FB石原選手が足に絡みついて出足を遅らせた。
一気にプレッシャーを掛け、ブレイクダウンでターンオーバー。12番・西柊太郎選手が大外にキックを蹴り上げ、14番・馬田琳平選手がキャッチし右サイドを駆け上がり、内側でサポートについた9番・髙木城治選手へ託せば先制のトライを決めた。
だが、次のリスタートキックオフで、直ぐに取り返される。
自陣深くでのオブストラクションから佐賀工業に5mラインアウトの機会を与えると、そのままモールを押し込まれた。
少し慌てる時間帯。
だからこそ、自分たちが1年間かけて積み上げてきたものに立ち返った。
SO高本選手らの好タックルでラックを作ると、またしてもブレイクダウンでターンオーバー。
一気に外へ展開すれば、12番・西選手、11番・上嶋友也選手、15番・石原選手と繋げてトライを奪った。
前半16分、この試合最大となる9点差をつける。
このまま波に乗るかと思われた。
しかし、嵩んだハンドリングエラーとペナルティ。ラインアウトも、2本連続で落とした。
前半19分・29分には2つのPGを許し、3点差に詰め寄られ前半を終えた。
ハーフタイムを終えピッチに戻ると、6番・大川虎拓郎キャプテンは真っ先にレフリーのもとへ赴いた。
丁寧にプレーの確認をしていると、続いて近寄ったのは13番・永井大成選手。「すごい楽しいです!」と、ラグビーができる喜びを噛みしめた。
だが、後半も続いた佐賀工業の時間帯。
後半10分、佐賀工業にラインアウトからのサインプレーを完璧に決められ、逆転を許す。
4点のビハインド。
5番・舛尾緑選手は、両手で『落ち着いて』のポーズをとり、はやる気持ちを落ち着かせた。
「自分たちのミスで攻め込まれたので、精神的にきていた。自陣の時が一番辛かった」と、SH髙木選手は打ち明けた。
後半20分まで、スコアをリードしていたのは佐賀工業。
少なからず、ピッチ上から焦りも感じた。
だが、自らの役割を遂行し続けることができたのは、これまで積み重ねてきた自信があるから。東福岡高校ラグビー部143人を代表して、グリーンのジャージを着ているから。
12番・西選手は何度もゲインラインを切った。
8番・藤井選手も、何フェーズも連続で体を当てる。
スクラムを組めばペナルティを奪い、序盤は苦戦したモールDFを止めきった。
ガッツポーズを決めた21番・生島拓海選手。両ロックもハイタッチを交わした
我慢を重ね、迎えた後半21分。その時はやってくる。
9番・髙木選手、5番・舛尾選手、12番・西選手と細かく繋ぎきると、7番・中川一星選手が右手を伸ばした。
再度の逆転となる、値千金のトライ。
中川選手は「最高の一言です」と笑みを浮かべた。
3点のリードに変わった、後半ロスタイム。
敵陣でペナルティを得ると、東福岡はペナルティショットを選択した。
残り時間を確認しながら、キッカーである9番・髙木選手のもとへ近寄り言葉を掛けるはSO高本選手。
外したら、相手にボールを確保されカウンター攻撃を受けるリスクもあった。
だから髙木選手は、思いっきり右足を振り抜く。
ボールは左側のポールに当たり、そのままポールの間へと吸い込まれていった。
振り向き、ベンチの方を向いて俯きながら見せた小さな、だけど力強いガッツポーズ。
「自分が足を引っ張った分、取り返さないとと思っていた。結果的にキッカーとして取り返せて良かった」と、SH髙木選手は安堵の表情を見せた。
初めての花園第1グラウンドは「やっぱり緊張しました」
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1月5日。
チームがスタートした当初から、監督・選手たちはこの日に特別な思いを抱き続けてきた。
5年連続ベスト4止まりという歴史を打ち破るには、絶対に乗り越えなければならない1月5日の壁。
「1月5日は特別な日です。この日を越えるために準備してきました。勝ちに来たので、どんなゲームでも自分が判断してやっていこうと思います。」
この1年間で最も引き締まった、そして少しばかりの緊張も交えた表情で、大川キャプテンは誓った。
藤田監督も、キャプテンと同じ言葉で選手たちに託す。
「ここを越えるために1年間準備してきた。勝ちに来た。この山を越えていきます。」
チーム東福岡、いざ、乗り越えるべき一戦へ。
京都成章との準決勝は、1月5日 14時30分にキックオフを迎える。