スクラムハーフ
15 髙木 城治
「猪突猛進」
高校:東福岡高校
大学:京都産業大学
即席チームにおいて最も大切なことを教えてくれたのが、髙木選手。
人に好かれる力。コミュニケーション力。自我。
嬉しいことは嬉しい。嫌なことは嫌。それを顔に出せる強さは愛嬌となり、コーチ陣からの信頼をも勝ち取った。
そうしてセレクションの最後の最後に滑り込んだスクラムハーフは、気付けばこのチームの正スクラムハーフとなった。
試合前は常にハーフ団で腰を揃え、互いにサインを確認しながら左手首に小さな文字をいくつもしたためた。
最も運動量を必要とするポジションの一つでありながら、プレイスキックも担当。
信頼と、責任。2点の重み。
第2戦目でその痛みを誰よりも感じたであろう髙木選手は、きっとこれから妥協をしない選手になっていくはずだ。
16 田中 景翔
「協心」
高校:常翔学園高校
大学:明治大学
間違いなく世代ナンバーワンのスクラムハーフ。
その技術を疑う余地は微塵もない。
だからこそ、ここアイルランドでは苦しい時間を過ごしたのではなかろうか。傍らには、いつも松沼選手の姿があった。
2戦目の後、ともに肩を組みながら会場を後にする姿。練習中も、相手チームのハーフとして笑顔で言葉を交わすシーンが見受けられた。
テストマッチ1戦目では後半18分から出場し、未体験のフィジカルを体感した。
「もっと僕たちも頑張らないといけない。」
この悔しさは、必ずや次のステージの肥やしとなるだろう。
スタンドオフ
17 伊藤 利江人
「dynamic」
高校:報徳学園高校
大学:明治大学
テストマッチ第1戦目。17分間の出場を終えた伊藤選手の表情は晴れなかった。
「全然良くない。」
苦しむ姿があった。
「殻を破りたい」。そのために必要な『ダイナミック』だったのだろう。持ち前のランスキルでアイルランドを翻弄するシーンもたくさんあったが、ミスを避けたい時間帯・エリアでのミスもあった。渋い表情の一因であることは間違いない。
1年生の頃から、花園では『10番』だった。
だがアイルランドの地で学んだのは、ラグビースキルだけでなく代表レベルでのコミュニケーション力が必要なこと。そして、短期間で自らを適応させながら表現する方法。
試合中、ベンチにいても表情を緩めなかった姿。何度も目を閉じ、息を吐き、来るべき時に向け備え続けたその姿勢は、間違いなく伊藤選手を次のレベルへと押し上げるはずだ。
「殻を破る兆しは見えました。」
18 伊藤 龍之介
「楽しもう!」
高校:國學院大學栃木高校
大学:明治大学
アイルランドとのテストマッチを2日後に控えた夜。伊藤バイスキャプテンは、他のリーダー陣とともに髙橋監督へ、今チームにとって必要なことを伝えた。
「自分たちで練習をコントロールしたい。」
なかなか言えることではないだろう。
それを言える強さ。言ったからには、やらなければならないプレッシャー。すべてを理解した上で、それでも自分たちが勝つための策を自分たちで選択した。
バイスキャプテンであり、司令塔という役職を務め上げるために、必要なことだった。
國學院栃木高校では1年次から10番を背負う。「高校は3年間花園に出場させてもらいました」。貴重なことだと理解する。
そして3年次には、人生で初めてキャプテンの座に就いた。「この先、自分の軸になることを学んだ高校生活でした。その結果として日本代表にも選んでもらえて、バイスキャプテンという立場にもなれた。」
チームに起こっていることを冷静に言葉にまとめる力は、スタンドオフとして間違いなく最大の武器。
クレバーで熱く、だけど笑顔の愛らしいお茶目さを兼ね備えるバランス感覚優れた司令塔は、これからもきっと桜の近くにいる。
センター
19 飯岡 建人
「謙虚」
高校:流通経済大学付属柏高校
大学:筑波大学
2戦目で掴み取った先発の座。そして期待に応えた、先制トライ。
だが自らがトライを取ろうとも、大きく笑うことはなかった。
しかしその後、仲間がトライを重ねると、満面の笑みで駆け寄る。
まさしく『謙虚』にラグビーを楽しんだ。
対戦相手は背丈も体重も上回る中、生命線となったのがセンター陣の活躍。その一翼を担った。
だからこそ、この1点の重みを次につなげるために。学んだのは、アウェーでの戦い方と個のスキルアップだ。
「もっともっと努力して、これから頑張っていきたいと思います。」
20 上田 倭士
「全力」
高校:大阪桐蔭高校
大学:帝京大学
直前に足首を負傷。テーピングを巻きながらの調整が続いた。
それでも練習では鋭い出足を見せる。コーチ陣からは何度も「ヤマトいいよ!」の声が飛んだ。
2戦目の前日練習でのこと。途中で座り込み、テーピングを外した。
「どこか痛めたか?」と心配する髙橋監督に「いや、取っているだけです」と明るく返した。
「そうか、いつでも準備できてるよ、ってことか。」
監督は嬉しそうに笑った。
140分間、ピッチの外から見て感じた、世界とのフィジカル差。
「日本代表に選ばれたことは嬉しかった。でも試合に出られなかったことは悔しかったので、これから今まで以上にトレーニングに励んで、U20に選ばれるよう頑張ります。」
21 エロニ・ナブラギ
「BEST TACKLE」
高校:大分東明高校
大学:京都産業大学
アイルランドの監督が挙げた、「1戦目で最も印象に残った選手の1人」がエロニ選手。
攻守に渡る運動量は、敵将の目にも留まった。
ハードなラグビーを見せる一方、御多分に漏れずフィジー人らしいシャイな姿は愛らしい。
重たい荷物を持っていると「大丈夫ですか」と声を掛け、代わりに運ぶ優しさも持ち合わせる。
遠く離れた地・日本で、親元を離れラグビーをすると決めてから早数年。
父親を失っても、フィジーに帰ることはなかった。
その覚悟が桜となり、3年生の終わりに美しい花を咲かせた。
22 西 柊太郎
「努力に勝る天才なし」
高校:東福岡高校
大学:近畿大学
チームからの信頼は『バックスリーダー』という役職で表された。
9番・10番のハーフ団。そこから一番ボールをもらう、12番。常に一緒に行動した。
決して大きくはない3人が、アイルランドよりも大きな絆で信頼を作り上げたからこそ、ミスの少ない48期のラグビーは完成したのだろう。
髙木選手とのニンニン2兄弟は、いつの間にか率先してエナジーの4文字を腕にしたためるようになった。
まさしく唯一無二のセンター。
対戦相手の懐に入るタックル、ボールを離す絶妙なタイミング。針の穴を通すようなキックパスに、面白いように相手ディフェンスを搔い潜るロングゲイン。
満足のいくプレーができたからこそ感じた、世界の強さだった。
これでは足りない。
1年ぶりに人前で見せた涙を、エネルギーにして。足りない何かを探す旅が、始まる。
ウイング/フルバック
23 青栁 潤之介
「エナジー」
高校:國學院大學栃木高校
大学:帝京大学
ナチュラルに自分の役目を変えることができるカメレオンプレイヤー、青栁潤之介。
当たり前に巧いプレーの数々。ボールを持たない時に、最大の存在感を発揮した。
そして円陣でのエナジー三唱をリードし続けたのも青栁選手。
彼ほどの選手が、ムードメーカーになれること。このチームで活かされた、最大にして最も重要な強みであった。
アイルランドで感じたことがある。
「フィジカルとスピードのレベル差」。ここを鍛えないと、世界では戦えないと肌身で感じた。
より強く、より速く。
世界で勝つために、進化し続ける。
24 竹之下 仁吾
「積小為大」
高校:報徳学園高校
大学:明治大学
1戦目は後半9分に、2戦目は後半23分に出場。2試合合計で38分のプレータイムを得た。
戦術ゆえ得意のハイボールキャッチが披露されることはなかったが、1戦目では右へ左へと奔走し体を張る。あらゆるブレイクダウンの2人目・3人目の選手となり、多くの写真に写り込んだ。
初めて胸に刻んだ、桜のマーク。
世界を知った竹之下選手は、「世界に出て国内のライバルに勝ちたいと思うようになった」と話した。
「まずは日本のライバルに勝ちたい。」
一歩先の未来を見据えたチャレンジへ、歩みを進めた。
大川キャプテン曰く「ありすぎて思い出せない」程の天然エピソードを今遠征でも残した。当の本人は「思い出せないってことは、ないっていうこと」と一言
25 トゥリマファ・トゥポウ
「ぶっとばす」
高校:日本航空高校石川
大学:天理大学
強くて速い。最も嬉しいサプライズが、トゥポウ選手の取り切る能力だったのではなかろうか。
1戦目からバクハツした。何度もチャンスを得ていた、左サイド。3度目の正直、チームに勢いを与えるファーストトライをもたらした。
世界でも対等に戦えることを証明すると、2戦目でも2トライ。
今テストマッチ最多となる計3トライをマークした。
「I’m happy!」
笑顔で話すその横には、常に日本人選手たちがいた。
明るい性格で、壁を作らずに誰とでも馴染むことができる能力。それもまた、トゥポウ選手の憎めない魅力であった。
26 矢崎 由高
「初志貫徹」
高校:桐蔭学園高校
大学:早稲田大学
果たして、この選手のことをどれだけの人が正しく理解できているだろうか。
アイルランドの地で、矢崎由高という人間を知った。
類い稀なラグビーセンスを持ち合わせ、幼き頃からスーパーエース。試合は戦いの場。どうしたって一人の戦う男としてピッチに立つのだから、表情は険しくなる。
だがグラウンドを離れれば他の高校生同様、好きな食べ物も、趣味も、好きなラグビーチームも友人との時間も、やっぱり一人の高校生なのだ。楕円球と戯れ、フットボールを楽しむその表情は、たくさんの笑顔で溢れていた。
「ちゃんとしっかり(高校日本代表に)選ばれたい」と話した日から数日後。日本代表入りを伝えられると「やっぱり嬉しかったです」とはにかんだ。
この年にして、世間から捉えられる矢崎由高としての姿をコントロールできるのも、スーパーエースゆえ。しかしアイルランドでは自らを知る人はおらず、自由にプレーできて嬉しかったと目を細めた。
「アウェーの方が合っているのかも。2年生の時の(花園準決勝)國栃戦なんて、すごいマークだったじゃないですか」と笑った。
高校生になったら、何かしら海外に行く機会があるのではないか、と中学生の頃に取得していたというパスポート。このアイルランド遠征で、初めて出国スタンプを押した。
ようやく開いた、世界の舞台。世界に出たら、もっと世界を知りたくなったという。
「アイルランドは世界の一部。もっと他の国のことを知りたいし、行きたくなりました。」
一つドアを開いたら、無限の世界が広がっていることに気が付いた。だからこれからも、地に足をつけ、世界へと繋がる一歩を重ねる。