全国から高校生ラガーマンが集結する、8月中旬の長野県・菅平高原。
花園優勝5回を誇る大阪府の強豪・常翔学園は、今年も同地で夏合宿を行った。
初戦の相手は、前年度の花園優勝校・東福岡。3月末に行われた全国選抜大会では、準決勝で対戦し敗れた相手でもある。
「負けたその日から、菅平での再戦をターゲットにしていました」と話すは、今年の常翔学園を率いる岩本有伸キャプテン。フッカーを中心に、必要あればNo.8など第3列もこなすパワフルなプレイヤーだ。
今季2度目の対戦は、キックオフから常翔学園が攻めた。勢いを掴んだ時間帯もあった。
だが試合終盤に引き離される。19-38。残念ながら、またしても東福岡に軍配が上がった。(試合の模様はこちら)
グラウンドで体を当てた選手たちは、しかし春とは異なる感触を得て試合を終える。
「1人1人の当たりで、今日は前に出られていました。常翔らしいプレーの再現が出来ているのかな、と。手応えは感じています。(岩本キャプテン)」
その要因の一つに、強化したフィジカルがある。
全国選抜大会で東福岡との圧倒的なフィジカル差を感じると、帰阪後すぐに選手たちで自主的なミーティングを開いた。「ご飯の食べ方からウエイトトレーニングまで、全てを変えよう、と。」
覚悟の成果はしかと表れる。
8月上旬の時点で、FWの平均体重は102㎏。
岩本キャプテンも選抜大会時から比べ7㎏増量し、全国で戦う下地を作り上げてきた。
また、7月にはチームの希望者がニュージーランドへと渡った。
ラグビー王国でコーチングを受ければ、その学びを活かし、これまでとは全く違う新たな常翔学園の形を作り上げようと模索を始める。
チーム全員で『New常翔ラグビー』に取り組み始めて、まだ1週間。やりたいラグビーの30%しか、完成はしていない。
加えて夏合宿では、5人いるリーダー陣のうち2人しか出場していなかった。
リーダーの不在ゆえ、バックスが思ったように機能せず「下手くそな、見られて恥ずかしいラグビーでした」と岩本キャプテンは笑った。
「それでも今日は僕たちのベストプレー。40%ぐらいの満足度」だというが、「監督には『まだまだや』って言われました(笑)」
ある意味、納得のできる敗戦だった。
チームとしての振り返りは、冷静に。
だが、岩本有伸としての感情は大きく異なる。
「僕、キャプテンやから試合終わったらチームに話さなあかんけど、悔しすぎてブワー泣いてもうて。なんも喋れなかったんですよ。(本人の発言ママ)」
3月29日に東福岡に敗れてから、この日を絶対的なターゲットとして鍛錬を積み重ねてきた岩本キャプテン。東福岡に勝とう、と人一倍の気持ちを作り、挑んでいた。
だからこそ溢れた涙。
「すごく悔しいです、ほんまに。」
人目をはばからず、ベンチ脇で声を上げ、大粒の涙を零した。
自他共に認める負けず嫌い。
「結果が全てなんで、こういう世界は。勝つ以外、興味ないです」と断言する。
たとえ練習試合であっても。新しいことに取り組み始めたばかりの、不完全な状態であっても。
勝ちは勝ち、負けは負けなのだ。
「男なんで。負けられる試合はない、です。」
岩本キャプテンには、思い描く理想的なチーム状態がある。
Aチーム対Bチームの部内マッチをすれば、他チームと試合するよりも強度が高い。どちらが勝つか分からない、帝京大学のような姿を常翔学園でも作りたい。
「正直、今部内マッチをしたら、これだけリーダー陣がいない中であってもAチームが圧倒してしまうんです。」
選手層の薄さが、冬に向けての課題であると認識する。
「僕は2番でキャプテンなんで、60分間走り切るんですけど。少なくとも1・3番は替えてあげたいですよね。」
ここにも、他者への優しさと自らの負けず嫌いが入り混じる。
聞けば、自分が出場していない試合を見ることが耐えられないのだそう。
「僕は絶対に(途中で)替わらないです。味方が目の前でラグビーやっていることに、耐えられないです。出続けたいです、絶対に。」
岩本キャプテンの負けず嫌いさを表すエピソードを一つ紹介しよう。
昨夏は膝を負傷中であったため、菅平に上がっても試合には出場できず。チームに帯同しながら、ひたすらウエイトトレーニングに打ち込む日々だった。
だがチームではウエイト器具を菅平に持って行かないため、自宅からダンベルを持参。グラウンドの隅で、チームメイトが戦うグラウンドに”背を向け”、マイダンベルを上げ下げしながら一人筋トレに励んだのだという。
「それぐらいしやんと、他の高校の人たち強いんで。」
目標は、スーパーマン。往年の名プレイヤーではなく「ドラゴンボールのブロリー」が目標だそうだ。
ラグビー以外の趣味は「人を笑かす」こと。「ブロリー、ほんまに絶対書いてくださいね。筋トレめっちゃ頑張ってるんです」と何度も念押しした。心に秘める憧れは、同校OB梁本旺義
いよいよ始まる、花園予選。大阪府大会では、6度の花園優勝を誇る東海大大阪仰星と同じ組に入った。
同組からは、たった1校しか花園への出場権を手にすることができない。しかも東海大大阪仰星には、4月の大阪高等学校総合体育大会で22-31と敗れている。
それでも「怖いとか、いっこもないです」と言い切った。
「負けた相手に勝てるチャンスが生まれた。やり返せるチャンスがある。勝つことしか考えていません、ワクワクしています。」
一度苦杯を喫した相手に勝つ、それがモチベーションだ。
「今日の東福岡戦前も、キャプテンとして一言話をする時間があったのですが、何も出てこなくて。『みんな、勝とう』とだけ言って、ウォーミングアップを始めました。」
勝つ。
それだけ。
ラガーマンである前に、男として。
岩本有伸として。
負けていい試合は、一つもない。
だから、勝つ。