目黒学院高校ラグビー部キャプテン、中村つぐ希。
ポジションは主にFWの2列と3列。3年次は怪我が続き春の公式戦では出場機会がめっぽう減ったが、夏に復帰を果たした。
ダイナミックさの中にも細部に気を配るプレーは、見る者を虜にする。
南茨城ラグビースクール出身。同級生には、桐蔭学園のキャプテン・城央祐選手や、流経大柏・阿部煌生選手ら。高校ラグビーファンであれば、泣く子も黙る名が並ぶ。
ゆえに全国の強豪高校からは複数、進学のオファーが届いていた。しかし選んだのは、ここ目黒学院。
「1年生の頃から試合に出場したかった。3年生で試合に出られたって、それはふつうのことかな、って。あと、トンガ人と一緒にプレーしてみたかったんです!」
高校生らしい無邪気な表情をみせる。
「僕は目黒学院で1年生の頃から試合に出せてもらっています。本当に良くしてもらっていて。目黒じゃなかったら、成長できなかった。目黒だからこそ着実に成長できたと思っています。育ててもらったコーチ陣には本当に感謝しています。」
希望を継ぐ、で『つぐ希』。
今年はキャプテンとして、伝統ある目黒学院の文化を継いでいく立場となった。
季節は遡って、まだ暑い夏、菅平での練習試合終わり。
中村キャプテンは、小さな声でつぶやいた。
「キャプテンは難しいな、って思っています。」
キャプテンとして、プレーは人一倍にやらなければいけない。チームに向けて発信もする必要がある。一筋縄ではいかない。
「難しいです。でも、自分はそこに楽しさを感じています。」
難しいながらも試行錯誤すること。ネガティブに捉えず、楽しくあろうと発想を変えること。キャプテンという役職自体を楽しもうとしています、と言った。
若干17、18歳とは思えない言葉に、ラグビー部キャプテンという役職のなせる業かと思いきや、自身の軸に起因する。
モットーは楽しむこと。ポジティブであること。
たとえ怒られることがあっても、それをどう改善するかを楽しむ「ドンマイ精神」を意識することだという。
印象的な姿がある。
今年の関東大会でのこと。
怪我のため出場かなわなかった中村キャプテンだったが、ピッチサイドで見つめる足元には、目黒学院のラグパンにソックス姿。松葉杖を両脇に、リザーブメンバーの先頭に立っていた。
「みんなと一緒の気持ちで戦うのが一番大切かな、と思って。自分だけ違う格好だったり座って見ていたりというのは、できません。キャプテンという立場なので、みんなと同じ気持ちじゃないと、と思っています。」
聞けば、歴代のキャプテンもメンバー外の場合はそのような姿でいたそう。目黒学院の歴史は、ここでも継がれている。
・・・
今季、東京都におけるこれまでの目黒学院の戦績は、新人戦2位。春季大会2位。7人制大会も2位。最後の一山を越えられていない。
だから今夏、チームは3段階に分けて強化を図った。
第1弾は、関西遠征。まずは出来ていることとできていないことを棚卸しするための時間を設けた。
そして、そのうち出来ていなかったことに対しての対策を講じたのが第2弾の妙高高原合宿。竹内圭介監督曰く「鍛えて鍛えて鍛えた」合宿だったという。
その結果、どこまでできるようになったか、を確認した場が第3弾となった菅平合宿。
しかしその菅平合宿でも、取り切れない場面は続いた。ボールを持ち攻めてはいたが、自分たちのミスで好機を逃す。「自分たちの弱さ」と中村キャプテンは説明した。
「集中力もそう。一歩届かない部分です。しょうもないミスから連続トライを奪われる場面もありました。これが全国にチャレンジする上で立ちはだかる壁かな、と思っています。」
今年、目黒学院はスローガンを『加速』とした。
加速、がテーマであるからこそ、どうしたってミスは生まれる。
ボールを繋ぐ中でのミスには「今のは意図が合っているから大丈夫!」と笑顔を見せるのは、やはり中村キャプテン。相手ラインアウトをスティールし一気に攻め返していたところでのノックオンには「良い良い、そういうミスもある、大丈夫!もとはと言えば、あそこ(自陣5m)で相手ボールだったんだよ!」と前を向く言葉を投げ掛ける。
後半20分、苦しい時間帯には「最後の集中力だ」と仲間を鼓舞した。
シーズン序盤、度重なる怪我に泣いた中村キャプテン。
竹内監督は言う。「中村が出ていない間に、他のみんなはずーっと頑張りました。周りが成長しています。」
その成長を見せたうちの一人が、3番の山本真也選手。長く中村キャプテンが不在とした春、ゲームキャプテンを担い続けた。
山本選手がラグビーを始めたのは、高校に入ってから。高校の入学説明会で、竹内監督が声を掛けたことがきっかけだった。竹内監督曰く「受け答え然り、しっかりと目を見て話せる生徒だったことが印象に残っている」という。
「いろんなものを強豪校相手に試し、ひとつずつ勉強をさせてもらった夏でした。毎晩のミーティングで『今日はこんなことを学んだ、じゃあ明日はそれを変えるために何を意識してみようか』と積み重ねられた。日々勉強です。(竹内監督)」
生徒たちの中に、目黒学院としての姿勢が浸透した夏だったという。
季節はめぐり、秋。出揃ったピースを繋ぎ合わせ、最大の効力を発揮すべき時期がやってきた。
今週末はいよいよ、第103回全国高校ラグビーフットボール大会 東京都予選、決勝。
全てを懸ける、國學院久我山戦。相手は、選抜大会ベスト8の実力を有する。
「全国に出るなら、いつか倒さなきゃいけない相手。もちろん花園には、久我山さん以上の相手もたくさんいます。久我山さんに勝てなければ、花園では勝てない。だからまず一番最初の大きい壁を、ちゃんと超えたい。久我山さんという大きな壁を自分たちでぶち壊して、花園に行けるようチーム一丸となって頑張っていきます。(中村キャプテン)」
東京都第二地区代表決勝戦は、11月12日(日)、13時20分に秩父宮ラグビー場でキックオフを迎える。