東洋大学
「負ける準備、こういう状況を想定していなかったので・・・。言葉が見つからない状況です。」
勝ち点3以上で大学選手権出場。勝ち点2以下、すなわち敗戦で今季のチームが終了となる一戦。
福永昇三監督は、試合後に行われた記者会見の冒頭、しばらく言葉を詰まらせた。
大学1年次から主力として活躍してきたのは11番・杉本海斗バイスキャプテン。
後半8分、負傷のため今季の公式戦で初めてピッチを退いた。
「チームに迷惑をかけて終わってしまった。本当に申し訳ない。引っ張っていく立場なのに、何にもできなかった。悔いが残ります。」
色のない、表情を見せた。
タニエラ・ヴェア キャプテンが今年の春季大会初戦でつけた背番号は2番だった。そこから6番に戻り、この日はNo.8を務める。
後半の中盤、5点を追う場面。
敵陣深くで相手からペナルティを取ると、何度もラインアウトからのモールを選択した。
上手くいかなくても、トライできなくても。幾度だってラインアウトモールを選んだ。
「今年1年間やってきたことでした。変えるつもりはなかった。(ヴェア キャプテン)」
自分たちの1年間を信じた。
試合中、監督含めたベンチメンバーはみな、立ち上がり固唾を呑んで戦況を見つめた。
「みんな勝手に立ち上がっていました。体が前のめりになるというか。ベンチにいるメンバーは、もう応援することしかできません。だからその気持ちが、自然と立ち上がらせたのだと思います。(杉本バイスキャプテン)」
そしてスコアする度に、ノンメンバー席からはまとまりのある声で「ありがとー!」と響いた。
「(福永)昇三さんが監督になってから、『ありがとうナイス運動』をしています。(杉本バイスキャプテン)」
この日のテーマが『恩返し』。感謝の気持ちを、グラウンドに立った選手たちはプレーで、スタンドから見守った選手たちは言葉にして、表した。
ヴェア キャプテン、そして杉本バイスキャプテンが繰り返し口にした、後輩への想いがある。
「選手権という舞台を、後輩たちに見せてあげたかった。」
昨年、2人も立った舞台。だが昨年の4年生たちが連れて行ってくれた舞台。そこに今年は、自分たちが連れていきたかった。
記者会見の最後、福永監督は前を見据え、はっきりとした抑揚で宣言した。
「来年は優勝する準備をさせて頂きたい。」
監督就任以来、初めて口にした『優勝』という言葉。
その真意を問うと、「まずはリーグ戦優勝」と紡ぐ。そして「優勝、と口にするほど悔しいエネルギーがありました」と続けた。
リーグ戦2部で優勝も、コロナ禍により入替戦が開催されなかった2020年。
29年ぶりの1部復帰を掴み獲った2021年。
創部史上初めて大学選手権へと進出した2022年。
そして、リーグ戦で優勝したい、と初めて公言した2023年。
東洋大学ラグビー部の歴史を、毎年一つずつ上のステージへと押し上げ続けた4年生たちだった。