12月27日に開幕する、第103回全国高等学校ラグビーフットボール大会。
福岡県代表として24大会連続34回目の出場を決めた東福岡高等学校は、2連覇へと挑戦する。
東福岡はこの夏、新たな取り組みを始めた。
『ネクスト』と呼ばれる、1・2年生が主体となった『次世代のグリーン候補』の育成だ。
東福岡では、いわゆるAチームをグリーン、Bチームをオレンジと呼び、チーム編成を行っている。
そこに新設されたのが、ネクスト。現在のグリーンの経験値を引き継ぐこと、来年以降に繋げることを目的とする。
そのため今夏の菅平合宿には、グリーンとネクストの2チーム、合計55人ほどが上がった。
これは全部員のおよそ3分の1にあたる。これまでだったら菅平に上がることができていたオレンジ、つまりはBチームの3年生たちは、未来の東福岡にバトンを託し、福岡に留まった。
「悔しい思いをした3年生はいっぱいいいます」と話したのは、3年生の隅田誠太郎選手(FB)。
藤田雄一郎監督も「来れなかった3年生の分もネクストが来ている」と選手たちに説明をしたという。
青ジャージーが東福岡のネクストメンバー
対象となるメンバーは、藤田監督から発表があった。
しかしリーダーは決められておらず、自主的にリーダーシップを取り出したのが2年生のFL・梁瀬将斗選手。
「菅平に来たくても来れなかった3年生たちがいます。来年に託された思いを強く持って夏を過ごしました」と話した。
最初は『ファイター』、すなわち格闘者になれる選手がほとんどいなかった。でも「ちょっとずつ、みんな体を当てられるようになったかな」と梁瀬選手は捉える。「菅平の5日間で、めちゃくちゃ成長できた」と実感した。
それもそのはず。
ネクストの選手たちがこの夏対戦したのは、相手校のBチーム。もちろん、相手には3年生が多くいる。
「失礼かもしれない」と藤田監督は対戦相手に心を配った。だが「ぼろ負けしたり、コンタクトの差でやられたり。ネクストにとっては、良い経験になったと思います。もちろん、まだまだ粗削り。だけどファイターとしての、ラグビーで一番大事な所が表れてきた」と手応えを得た。
一方で、肝心のグリーンの夏の成長には「桐蔭学園戦以外では負けなかったこと」と厳しい評価を与える。
「トーナメントに入ったらミスが命取りになる。今はミスが失点につながっている。まだまだ修正しないと」と厳しい表情を崩さなかった。
いよいよ迎える、花園の舞台。
チーム東福岡として、悔しいを蓄えた1年間。
悔しいエネルギーを解き放つ時は来た。
「今年の花園はどこも混戦。フラットだと思っています。でも連覇はうちしかできない。連覇を狙っていきたい。(藤田監督)」
いざ、連覇へ。
注目選手
キャプテン・高比良恭介(No.8)
チームの良い所、悪い所が見えた夏。
トーナメントで勝つには、を考えた夏を過ごした。
夏はじっくりとFWの強化に徹した。FWコーチと話をしながら、細かく確認しスクラムを組み込んだ日々。
その甲斐あってスクラムには自信をつけることができた一方、モールには課題を見出す。
「さらにFWを強化して、バックスを助けるFWになりたい」と完成形を描いていた。
今年の東福岡が掲げるスローガンは『彩』。
これまでの1年間、様々な景色とともに様々な彩を獲得してきた。
夏の時点では「まだ鮮やかではないですが、少しずつ色づいてきたかな」という状態。
「藤田先生の言葉を借りれば、菅平に上がれたメンバーは『選ばれしエリート』です。1人1人が自ら考え、気を配れるようになった。選ばれたエリートだからこそ、自分の色を出し始めたというか。」
残すは集大成・花園。
他の誰にも選べないような、今年の東福岡だからこその彩を。
利守晴(スクラムハーフ)
今年は「スピードのラグビー」。
だからこそ、多くの局面で球出しを担うスクラムハーフが鍵となる。
東福岡のラグビーは横にアグレッシブ、縦にアグレッシブ。見る人を魅了するラグビーだと利守選手は言う。
「そのラグビーを完成させるには、大前提としてミスをしないことが重要。藤田先生は『ミスをしないことが一番の戦術』とおっしゃいます。どれだけ完璧に近づけられるか、が花園での最大の焦点」となる。
だからこそ、日本一に向けやることは明確だ。
「全員が体を張ること。だけどそれは、気合いとかそういうことじゃない。どこで間合いを詰めるか。東福岡は、頭を使うチームです。」
試合後、即座に自らのミスの回数を口にできる把握力。
試合中のプレー判断を「もし~だったら」で考えられる力は、卓越する。
今季、東福岡としては無冠。
このまま終わるわけにはいかない。
隅田誠太郎(フルバック)
ピースが揃いだした夏。
練習していることが上手くいけば「ここではこれが効くんだ」と実感した夏だった。
東福岡のフルバックには、代々受け継がれるオレンジのリストバンドがある。
公式戦だけで着用する、ヒガシのフルバックの証。今年行われた新人戦の初戦で、1代上の石原幹士選手から託された。
大阪府出身。中学時代には吹田ラグビースクールで日本一を目指した。
だが「日本一を獲れなかった。日本一を獲れるチームに行きたい」と福岡行きを決める。
幼き頃憧れたのは、藤田慶和(現・三重ホンダヒート)。
「ヨシカズさんがヒガシにいらっしゃった頃にはもう、フルバックの選手がオレンジのリストバンドをつけていました。」
その憧れを、いま腕につけられていることがとても嬉しいです、と話した。
「リストバンドをつけることによって、自分はヒガシの15番なんだ、という使命感が生まれます。代々の先輩方から『託したぞ』と込められたメッセージも感じます。」
来年も、誰かに託すオレンジのリストバンド。もう一つ、自分の手で優勝の証を刻み込みたい。
今季2連敗を喫している桐蔭学園のスタンドオフ・萩井耀司選手とは、同じラグビースクールでプレーした仲。
「花園の決勝で、もう一度選抜大会と同じカードが叶ったら。次は必ず、僕たちが勝ちます。」
半田悦翔(1年生、CTB)
全九州高校大会で鮮烈な印象を放った1年生。
初めて訪れた菅平では、ラグビー面以外で、先輩たちと他愛のない時間を過ごせたことが一番嬉しかった、という。
「毎夜のミーティングで、いつもはダメな所の指摘を受けるのですが、たまに褒めてもらえることもあった。嬉しかったです。」
小さな『嬉しい』を積み重ねられた夏を過ごした。
体を当てることはできるようになった。
だが、自らのレベルは全く全国トップレベルに追いついていない、とも感じた。
「もっと鍛えないと。」
初めての花園で、どんな『もっと』を見せるか。
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