眠れなかった
「昨日寝れんかったよ。負けたらどうしよう、と思って。」
試合後、各社へのインタビューが終わると、両チームの監督は握手を交わした。
冒頭の言葉を発したのは、佐賀工業・枝吉巨樹監督。
目黒学院・竹内圭介監督は「そのプレッシャーは佐賀工業にあると思ったの。Aシードはノーシードに負けられないだろうな、って」と返した。
両チームの監督は、学生時代、東洋大学でともに時間を過ごした仲。
佐賀工業・枝吉監督が1学年上で、ポジションは同じスタンドオフ。
「最終的には僕がスタンドオフをやって、枝吉さんがフルバックでした」とは目黒学院・竹内監督。
寮の部屋が隣で、よく遊んでもらいました、と懐かしむ。
目黒学院の試合を分析した佐賀工業の面々は、強い警戒心を抱いた。
「フィジカルが強い強い。だからカッコイイことよりも、とにかくタックルしよう」と試合に臨んだ。
「最初のトライをうちが取ったから勝てたけど、あれが逆だったら分からなかった」と枝吉監督は正直な感想を述べる。
一方の目黒学院・竹内監督は「後半先にトライを取った時、ちょっと佐賀工業の焦りも見えた。でも9番の井上達木選手だけは違った。彼だけグラウンドの中の熱と気温が違った、落ち着いていました」と称えた。
監督の2人にとって、これが花園での初対決。
「1回ぐらいは先輩に花を持たせて。初対決は譲りましたが、あとは絶対に譲りません。」
竹内監督は悔しさを滲ませながらも、最後は「応援する」と最後に声を掛け、花園を去った。
家族よりも家族だった
「目黒学院でラグビーができたことは、人生の一番の価値。」
中村つぐ希キャプテンは、真っ赤な目に涙を溜めながら、3年間を振り返った。
1年生から試合に出たい。
トンガ人と一緒にラグビーがしたい。
目黒学院を選んだ理由を、以前はにかみながら話していた中村キャプテン。
言葉通り、3年間花園で活躍した。
ディフェンスで前に出てFWで圧力をかける。
目黒学院が大事にする価値を、最後の舞台で体現した。
トライを取られ、差を開かれた場面。
「目黒の原点に戻ろう」と声を掛ける。
「ブレイクダウンのディフェンス。接点に立ち返ろう、と全員に声を掛けました。自分たちのミスもありましたが、接点への圧力は良かったんじゃないかな、と思います。」
フィジカルでは負けていなかった。
だが相手はAシード。試合巧者なゲーム運びと経験値は、結果に直結した。
中村キャプテンがジャンパーになることも多かったラインアウトでは、思うような成功率ならず。
「風もあったし、高身長の相手も競ってきた。プレッシャーがかかる中でミスが出ました。」
敵陣深くに入った絶好のチャンスで確保が出来なかったことに、悔いを残した。
部員のおよそ半数が寮生活。家族以上の時間をともに過ごした3年間。
仲間の大切さに、チームメイトの温かさ。
目黒学院で学んだのは、ラグビー以上のものだった。
「キャプテンになってから、怪我ばかりしていました。チームのために、ほとんど何もできなかった。だけどそんな自分でも、復帰した時には仲間が温かく迎え入れてくれました。このチームの家族のような温かさは、一生の宝です。この3年間は、家族よりも家族だったのかなと思います。」
ありがとう。このチームでいれて良かった。勝てなかったけど、最高のチームだった。
『家族』への感謝は、止まることのない涙として溢れた。
竹内監督「ありがとう、の一言です。ここまでチームを引っ張ってきてくれたのは3年生たち。特に中村が先頭に立ってくれた。感謝しかありません。」
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