「ラグビーができる幸せをぶつける大会に」日本航空石川が全国高校選抜ラグビー前に東洋大で合宿中。目黒学院、日大明誠と練習試合を実施

絆が繋いだ東洋合宿

1月1日に発生した能登半島地震。

石川県輪島市に校舎を構える日本航空石川のグラウンドは、あちらこちらで隆起と陥没が起こり、使用できない状態になった。

2月には中部大学の研修センター、そして3月上旬には日本航空山梨のグラウンドを借りて練習。3月11日から22日までは埼玉県にある東洋大学のラグビーグラウンドで、全国選抜大会前の直前合宿を行っている。

東洋大学が手を差し伸べるきっかけを作ったのは、目黒学院の竹内圭介監督だった。

「甚大な被害を受けた航空石川さんにとって、『日常』が変わってしまったのでは、と思います。当たり前のようにラグビーができる喜び、当たり前のように学校に通い授業を受ける喜び。それは僕たち自身が東日本大震災の時に体験したことでした。なので地震が起きたその日のうちに、航空石川の監督 シアオシ・ナイ先生に連絡をして。日本人の選手たちはじぶんの実家に帰ることができますが、トンガの子たちはそれができない。なので、トンガ人留学生のいる目黒学院で受け入れますよ、という打診もしました。」

結果的にトンガ人選手らを受け入れることはなかったが、全国選抜大会への出場が決まった航空石川のため「埼玉県にある東洋大学で練習し、寝泊りする場所を提供できないか」と東洋大学・福永昇三監督に掛け合ったのだった。

東洋大学としても、これまで何十回も陸上部ら運動部が輪島市など石川県内で合宿を行ってきた背景がある。大学側も、二つ返事で快諾した。

川越キャンパスにあるラグビー部の宿舎や食事、練習グラウンドやウエイトルーム等を提供している。

シアオシ監督は言った。

「僕が航空石川に入学した1年生の春、石川県大会で敗れました。その夏、一緒に練習をしたのが目黒学院さん。ずーっと一緒に、合宿をしました。そしてその冬、花園県予選で初優勝。それからずっと、花園への連続出場が続いています。あの夏があったから、僕たちは強くなったんです。」

だから、生徒たちにはことあるごとに伝えるという。

「僕たちが強くなったのは、目黒学院のおかげ。」

当時、サインプレーは目黒学院のものをそのまま使っていたんです、と笑った。


両校のトンガ人留学生たち。トンガの『T』ポーズで、笑顔を見せた

一方の竹内監督も「トンガ人留学生を目黒学院が受け入れよう、という決断をした時、力になってくれたのがシアオシ先生でした」とつながりの深さを語る。

「僕たちが花園に出られていなかった間もずっと、合宿に行きたいと言ったら受け入れてくれたのが航空石川。航空石川に出向いて練習したことも何度かあります。深い絆のあるチームと一緒に、(自身の母校でもある)東洋のグラウンドで練習試合ができたことも嬉しかった」と感慨深げな表情を見せた。

全国選抜大会に向けて

いよいよ迎える、第25回全国高等学校選抜ラグビーフットボール大会。

目黒学院は、11年ぶり2大会目の出場となる。1回戦の対戦相手は、大会最多優勝を誇る東福岡高校に決まった。

「チャレンジしている姿を見せたい。自分たちで掴んだ全国大会なので、小さくなることなく、ダイナミックにチャレンジする姿をお見せできれば(竹内監督)」と意気込んだ。

また航空石川のシアオシ監督も「なかなか練習はできませんでしたが、北信越大会で優勝することができた。選手たちには『いままでラグビーができていたことが当たり前だった。でも地震によって、練習もできなくなった。当たり前のことが当たり前じゃないよ』と伝えています。その意味を受け止めて、今ラグビーができることを幸せに感じてもらえたらな、と思います。全国選抜大会は、ラグビーができる幸せをぶつける大会にして欲しいです」と優しく微笑んだ。


中央が航空石川・シアオシ監督。右が目黒学院・竹内監督

石川出身のキャプテンとして

航空石川の上野魁心キャプテンは、石川県白山市出身。

「真面目でリーダーシップがある。同級生だけでなく、下級生もついていきたいと思える選手」と、シアオシ監督はキャプテン任命理由を話した。

震災のため、キャプテン発表も通常より大きく遅れたという。

上野キャプテンは言う。

「いろんな人たちが自由に暮らせない姿を見てきました。そんな中で、自分たちは好きなラグビーをやらせてもらっている。初めて『自分はラグビーをやっていいのかな』と疑問が生まれました。」

もちろん、ラグビーをやっていいのだ。

だから多くの人々が、手を差し伸べ、なんとかラグビーを続けられるように、と所属チーム関係なく愛を注ぐ。

「ラグビーの一つの魅力だと思います」と、シアオシ監督も目を細める。

航空石川には、かねてより掲げるスローガンがある。

『As One』

一つになる、という意味がある。

「今年は特に、石川県全体、輪島・能登全体と一緒になってやろう、と全員で話しています。(上野キャプテン)」

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4月からは、東京都青梅市にある明星大学の跡地で授業を受け、部活動にも打ち込む予定だ。

だがそれまでは、寮に置いてあった荷物を実家に持ち帰り、必要最低限の荷物だけを持って各地を回っている。

先月、日本代表の主将・姫野和樹選手から送られたスパイクも、もちろん全国行脚の相棒だ。

「この遠征でもずっと履いています。履き慣れてきたので、全国選抜大会は姫野さんから頂いたスパイクを履いて戦おうと思います。」

サイズのあるFWが、今年の航空石川にとって大きな武器。モールでトライを取り切ることもできれば、セットプレーを安定させた後にボールを展開・継続してトライラインに迫ることもできる。その強みを、熊谷では見せたい。

「今日の試合でも途中、プレッシャーを受けた場面もありましたが、試合中に修正することができた。後半は良い試合に持っていけたので、そこが(前日の1試合目より)成長できた部分かな、と思います。」

全国選抜大会でも「試合中に修正することができたら」と上野キャプテンは手応えを語った。


東洋大学には両校OBが多く所属しており、16日の試合後にはOBたちが講師となって薬物研修を受けた。「遠い存在だと思っていた薬物ですが、のど飴など馴染み深い形をしていることもあると学びました。身近に危険があるということに気付かされました(上野キャプテン)」

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