大分東明
運命の一戦。
石川波潤(いしかわ はうる)キャプテンは、仲間に声を掛けた。
「俺たちは、花園優勝を目指している。ここは通過点。圧倒しよう」
ただ勝つのではなく、圧倒して勝とう。
石川キャプテンには、圧倒できる自信があった。
自身がグラウンドに立てなかったサニックスワールドユースの試合でも、チームディフェンスに活路を見出す。
あとは、試合のコントロールさえできれば。
「どこにでも勝てるな、という自信がありました」
疑いなく、当たり前のように「どこにでも勝てる」と発した。
今季、東福岡との対戦はこれが3度目だった。
過去2度は練習試合のためイレギュラーな時間設定だったが、それでも大きく点数を引き離し勝利を収めていた大分東明。
しかし近々の東福岡の試合情報を聞くに「強くなっていることは確かだった」と警戒する。
だから九州大会1・2回戦の試合内容をみっちり分析し、全員で「こうなったら、こうしよう」と戦術構築に明け暮れた。
ランナーが揃う東福岡。
キックを蹴った後の面を揃えること。
そしてディフェンスでスペースをなくし、全員がセットして当たる、という声掛けを大切にすること。
結果、東福岡に独走を許した回数は、片手で十分に数えられるほどだった。
県大会以降注力した、というディフェンスがとにかく冴えた60分間。
プレッシャーを掛けると決めたラックへの集中力と瞬発力に、ゲインを切らせそうな所での1対1のタックルは、東福岡の大きな壁となって立ちはだかった。
ボールを奪い返せば、あっという間にトライまで持ち込む展開力と決定力も魅力的。
ボールの近くには、常に大分東明の選手の人数が相手を上回った。
細かな球繋ぎ時であっても、オフロードパスやワンハンドオーバーパスなどを交えながら、ボールをキープし続けることだってやってのけた。
それでも石川キャプテンは「まだまだ満足していない」と表情を引き締める。
「疲れてしまった後半には、点数に満足してしまっていました。もっともっと点差を広げられるようになりたい。サニックスワールドユースでは、大阪桐蔭を相手に前半を7-12で折り返せていたにもかかわらず、後半に連続失点。その悔しさを忘れていません。必ず国スポ・花園へと繋げていきます」
九州王者から続く道は、果たしてどんな景色を辿るだろうか。
◆
九州チャンピオンのみが手にすることのできる優勝旗を中心に円陣を作ると、声を揃え全員でヘッドキャップを投げた。
大分東明の伝統行事、というわけではない。選手たちが自ら取った行動に「嬉しかったんでしょう」と白田誠明監督は頬を緩ませる。
「九州にいる限りは『東福岡を超えるようなチームになろう』というのが全チーム思うことです。日本で一番、日本の最先端を取り入れられているチームが東福岡さん。そんなチームに勝てたことが、生徒たちも嬉しかったんだと思います」
そして、続けた。
「(今年の大分東明は)爆発力があるチーム。だから本当に接戦か、爆発して勝つか。どちらかだと思っていました」
「大きなタイトルを獲れた。さらにもう一歩、成長できたかな(白田監督)」
今季の部員数は、総勢65名に上る。
一人ひとりの特性を見て、性格を見て、個性を見て。
ともに歩む、エンジョイラグビー。
「いろんな子がいます。ラグビーをしてくれてありがとう、です。彼らがラグビーをしてくれなきゃ、僕らの職業もないし指導者なんかできないですから。どんな子でも、ラグビーをしてくれて、ラグビーを選んでくれてありがとう、です」
白田監督は、笑顔で生徒たちを見つめた。
掴み獲った九州王者の座と、積み重ねた大きな自信。
次なるは、全国の強豪たちと鍛錬に励む夏が待ち受ける。
「我々は、まだ4回しか花園に出場したことがありません。夏・秋と一つひとつ積み上げていくしかない。それでも、やることはラグビー。花園でもラグビーするだけだし、練習試合でもラグビーするだけだから。何にも変わらないと思います」
試合後、輪になった大分東明の選手たちに、白田監督は優しい声色で語り掛けた。
「本当によく頑張った。新しい歴史を作ったということは、力がついたということ。喜んでいい」
そして最後に、大きな声で「おめでとう!」と万感の思いを伝えた。