東福岡
「完敗です」
ミス。
フィジカル負け。
どうしようもない所でやられている。
試合後、藤田雄一郎監督の口からは次々と反省の言葉が並んだ。
「勝たなければならない試合、と誰もが分かっていました」と話したのは、古田学央キャプテン。
その緊張感は、試合前の選手たちの姿に表れる。
かたい表情。
どこか、分厚い雲に覆われたような雰囲気。
会場入りした選手たちの姿は、決して明るいと言えるものではなかった。
「自分たちの力と、大分東明の力を分かっているから。不安だったのかな、自信がないね」
藤田監督は、選手たちの気持ちを推し量った。
試合序盤、カウンター攻撃をくらった。
先にアタックチャンスを得てはいたが、決めきれず主導権を握れない。
相手にボールを渡してしまったら、大分東明は展開力を武器に攻撃を仕掛ける。
簡単にトライを許す場面が続いた。
前半を終えて7-28。
点差がついていたため「キックを蹴って相手にボールを渡すくらいなら、リスクを背負って自陣からでも攻めてトライを狙いにいこう(SO川添丈選手)」とボールの継続に振り切ったが、やはりミスは続く。
「ああするしかない(藤田監督)」と自陣で展開したが、そこで大分東明のディフェンスに強いプレッシャーをかけられ、ボールロスト。
全てが裏目に出た、そんな60分間。
一度も試合の流れを手繰り寄せることはできなかった。
自陣深くでプレーする東福岡の選手たち
良い試合ができる時には、とても良い雰囲気で戦える。
事実、全九州大会1回戦・佐賀工業戦では、FWのディフェンス力で勝利を手繰り寄せたという。
だが、悪い時は徹底的に悪くなってしまうのが現状。
「負け癖がついている。自陣に入られた時に『絶対にトライを取らせない』という気持ちが感じられない」と、藤田監督は言った。
トライセーブをしたディフェンスももちろんあったが、数えるほどだった
課題が多く残った試合だったことは間違いない。
しかし、好材料を得られなかったわけでもない。
武器は規律。
大分東明の12に対し、東福岡が犯した反則は僅か1。後半21分までは、ノーペナルティで戦えていた。
規律高く戦うことはできている。だからこそあとは、自らに起因するミスさえコントロールできるようになれば。
自らを信じること。
自分と仲間を信じること。
東福岡のラグビーを信じること。
信じきる術を見つけ、身に着けること。
今の東福岡にとって、『自信』を得られるかが大きな転換点となるであろう。
今季も残り、あと半年。
「やるしかない(藤田監督)」
選手たちは一生懸命やっている。練習だって、例年以上に取り組んでいる。
だが、猶予は残されていない。
「メンバリングも含めて考えたい。若い力に頼っていかないと」と厳しい表情をのぞかせた。
今大会メンバー登録された30名中、6名が1年生。
「あとはどう、3年生が意地を出すか。僕には来年があるけど、3年生には『また来年』がない。それを3年生たちはどう考えるか」
1・2年生の台頭、そして3年生の奮起が、大きなうねりとなるか。
◆
全国選抜大会にサニックスワールドユース、そして全九州大会。
近年好成績を残し続けていた大会で、今季は結果が伴わない高校ラグビー界の雄・東福岡。
「結果が出ないと、チームとしても選手それぞれに自信が生まれなくなってしまっていて。負けて得られる成長も、もちろんあります。だけど、敗戦で得られる成長の度合いと、勝利して得られる成長の度合いは比にならないくらい違う」
そう話したのは、No.8古田学央キャプテン。
仲間には「今日、勝つのと勝たないのとでは、自分たちの方向性やマインドが変わってくる」とシビアに伝えていた。
だが結果は、求めていたものから大きくかけ離れた姿。
「上半期最後の大会として、相応しくない試合でした」とつぶやいた。
先輩たちが築き上げ続けてきた歴史を、自分たちで途切れさせてしまっていること。
それが今は、とにかく苦しい。
「これで、花園ノーシードがほぼ確定したと思っています」
笑顔なく、古田キャプテンは話した。
だから今は、とにかく勝利が欲しい。
勝てば自信になる。
自信を積み重ねられれば、きっと違ったプレーもできる。
そのためにも夏、菅平で全国の強豪校と直接対決し、勝利することで自信を得たい。
「下を向くのではなく、一人ひとりが上を目指していけるように菅平合宿で勝ち切りたいです」
いまの東福岡に必要なのは、紛れもなく『自信』。
ただそれだけであり、しかしそれが一番、難しい。
古田キャプテンは言った。
「東福岡のキャプテンになったからには、勝利に導いてあげないといけない」
そのために、自分が強く在りたい。
強いプレイヤーになりたい。
個を成長させる夏にします、と誓った。
◆
練習では、ボールが繋がる。
だが試合になると『いつもどおり』を発揮できない。
それがいま、最も苦しい。
「人数が足りなくなったり、立て直さないといけないのに立て直せなかったり」
そこが自身の、スタンドオフとしての課題だと話したのは、スタンドオフの川添丈選手。
この日、チームで唯一スターティングメンバーに名を連ねた1年生だった。
高校ラグビーのスピードや強度には慣れた。
あとは、チームとしてミスをなくすためにも、ゲームメーカーとして的確な指示を早く出せるようになりたい。
夏。試練の夏を迎える。