「大きな成長」初めて任されたゲームキャプテン
負傷した太安善明キャプテンに代わり、最終・U20ウルグアイ代表戦でゲームキャプテンを任されたのは、LO石橋チューカ選手。
これまでのラグビー人生で一度もキャプテン経験がなかったどころか、リーダー陣の一員であったことすらなかった。
それが、ここU20日本代表という場で、その両方を経験する。
U20スコットランド代表戦が終わると、大久保直弥ヘッドコーチから声が掛かった。
2人だけで話す機会が設けられ、伝えられたのは、最終戦のゲームキャプテンを任せるということ。
「まさか自分が、U20トロフィー大会でU20日本代表のキャプテンをするなんて」
驚いた石橋選手は、「僕にはできないです」と断ろうと思っていたという。
(いや、インタビューを近くで見守っていた大久保HC曰く「実際に言っていた」そうだ。そして大久保HCは「そんなの認められない」と返答した)
腹を括った。
「ここでチャレンジしなければ、成長にはつながらない、と思いました」
かくして、人生初のゲームキャプテンを務めることが決まった。
「緊張しました」
試合当日。
いささか緊張した面持ちで表れた石橋選手は、ウォーミングアップを終え、ロッカールームへと戻る道すがら、FL川越功喜選手に声を掛けられた。
「キャプテンをするんだ、と思ったらどうしても『全部1人で背負わなきゃ』と思ってしまっていたんです。でもその時に功喜が『お前1人じゃないぞ。周りに仲間はいるから』と声を掛けてくれて。すごく響きました」
石橋選手は、驚いたような、だけど大きな声で「ありがとう」と返した。
試合は、序盤にテンポよく2つのトライを取ったものの、前半は難しいゲーム展開に。
前半終盤、ゴール前ディフェンスで反則が続くと、レフリーの呼び出しを受けた。
キャプテンとして礼儀正しくヘッドキャップを外し言葉を聞いたが、返事はできなかった。
「(何と言われたか)分からなかったです(笑)英語が必要やな、と思います」
仲間のもとに戻ると、その状況を理解したのだろう。みなの顔に笑顔が浮かんだ。
世代で1人、ないしは数人しか務めることのできない、U20日本代表のゲームキャプテン。
貴重な経験、で終わらせるつもりはない。
「経験するだけでは終われません。僕の目標は、日本代表になって世界と戦うこと。次のステージに、繋げていきます」
仲間が自分についてきてくれたこと。
仲間に助けてもらったこと。
チームの見方が変わったこと。
全てが「自分にとっての大きな成長」だった。
今大会が行われたハイブスタジアムの隣には、壮大なマレーフィールドがそびえたつ。
いつか、桜のジャージーを着て。次は、マレーフィールドで。
2月からほぼ毎日一緒にいた仲間へ「お疲れ様」
「終わったなぁ」
最終戦を終えた太安善明キャプテンは、穏やかな表情で素直な気持ちを話した。
優勝だけを目指した半年間だった。
初めて行った、1日3度のウエイトトレーニングに夜寝る前の追加食事タイム。
全ては、今大会で優勝するため。
「優勝したかったです」
太安キャプテンからは、大会期間中何度も『優勝』の言葉が発せられた。
最終戦は、怪我のため出場叶わなかった。
しかしたとえキャプテン不在であろうも、トリプルスコア以上で勝ち切るチームを作り上げた。
「今日の勝利を、とても嬉しく思います」
チームを後方支援した数日間。太安キャプテンの傍らには、常に選手用のウォーターボトルが携えられていた。
高校日本代表の最終候補者合宿を怪我のため辞退した太安選手にとって、これが最初で最後の年代別日本代表活動。
想像以上の過酷な日々に「辛い時もあった」と隠さない。
「その分、仲間同士の絆も生まれました。2月からほぼ毎日、一緒にいたので。これで解散となることに、悲しい気持ちも正直あります」
最終戦のピッチに立った選手たちへ「お疲れ様、と声を掛けたい」と言った太安キャプテンの表情は、ここ半年間で最も愛情に満ちていた。
「選手に感謝」来季はアジア予選からのスタートへ
「この一戦にたどりつくまでに、山を越えた。振り返ってみると、最後のトライが今シーズン一番良かったのかな、って思います」
大久保直弥ヘッドコーチもまた、安堵の表情を見せた。
今シーズン一番、というラストトライは、後半41分。
相手のキックオフボールを自陣22m付近で石橋チューカゲームキャプテンがキャッチすると、ポイントを作る。
バックスが右外へとボールを運び、15番・竹之下仁吾選手が敵陣に持ち込んだ。
12番・白井瑛人選手が受け取り、素早い球出しから22番・伊藤龍之介選手、16番・田中京也選手へ繋げば勢いよくラインブレイク。
すぐさまサポートに走り込んだ18番・山口匠選手へフラットパスを放り、そのまま20m走った山口選手から受け取った23番・本橋尭也選手が有終の美を飾った。
U20日本代表は、15-10で勝つチームではなく、30-20で勝利を収めるチームを目指した。
アタック力とアタックマインドが、このチーム一番の武器だった。
U20スコットランド代表にはしかしそのアタック力を発揮しきれなかったが、最終・U20ウルグアイ代表との3位決定戦では11トライを奪い快勝。
大会4試合中、3試合で2桁トライを決めた。
大久保HCにとっては、これが初めてユース世代と時間を共にした半年間。
「スポンジのように吸収する年代。僕が学ぶことばかりです。僕が成長させられている」と、大久保HCは何度も口にした。
「選手には感謝しています。1日3回もウエイトトレーニングをしたことなんて、なかったと思います。今ではそれを当たり前のようにやりきれる耐性ができた。インターナショナルレベルに行きたいのであれば、これからも継続してハードにトレーニングしていってほしい」と、巣立つ選手たちにエールを送る。
終わりは、始まり。
U20チャンピオンシップから降格したチームには自動的にU20トロフィーへの出場権が与えられるが、U20トロフィーを3位で終えた日本は来季、U20トロフィー2025に出場する権利を勝ち取る所から始まる。
年内に予定されているアジア予選『アジアラグビー U19チャンピオンシップ』に向け、昨年よりも始動が早まる見込みだ。
「今日は(1年生のHO田中)京也と(CTB白井)瑛人がしっかりプレーしました。彼らが来年のチームをリードしていって欲しいですし、今日の最後のトライを、彼らは一緒にプレーできた。アタッキングマインドを継承していく、『自分たちはこれで世界と戦うんだ』ということを示せたのではないか」と話した。
そして間もなく始まる来季に向け「今季の合宿に参加した9人の大学1年生たちが中心となって」進めていく考えを明らかにした。
まずは、しっかりと今季の振り返りを。
来季も継続すること、変えなければいけないことを明確にして欲しい。
来年の、はじまり「出直します」
「意外と短かったです」
あっという間の80分間だった、と話したのは、明治大学1年・CTB白井瑛人選手。
今大会初めて、フル出場を果たした。
世界の舞台でプレーした感想は「思ったより、自分がやれる感覚があった」と心強い。
だが、実力は出し切れなかった。
ボールキャリーにタックル。
今大会1試合しか出ていないため「もっとタックルもできたし、もっと走れた。もっとボールももらえたと思う。もうちょっとできた。出し切れずに終わって悔しいです」
1学年上の人選手たちを相手にもこれだけ通用したのだから、自分たちの代ではもっといけるはず。来年出直してきます、と重ねた。
来季に向けた始動も、年内には始まる予定だ。
「もうあと数か月後、片手で数えられるほどしかありません。できることは限られている分、明確です」
フィジカルと技術の習得に努めたい、と言った。
今大会中、同期の田中京也選手(立命館大学1年)とも気持ちをともにした。
「来年がんばろうな。(チャンピオンシップに)上がろうな」
そんな会話を交わしたという。
飛び級選出というプレッシャーだけでなく、最も遅くチームに合流した白井選手。
しかし物怖じせずチームに溶け込んだ姿が、スコットランドにはあった。
「先輩たちには感謝しかないです。本当にあっという間でした」
キツかった、と正直に口にもした。
それでも乗り越えられたのは、先輩たちが明るく迎え入れてくれたから。
「センターの先輩である(本橋)尭也さん、(上田)倭士さんにはいろんなアドバイスをもらいました。(伊藤)龍之介は10番として近くにいる目線からのアドバイスもくれました。良い先輩たちだったな、良いチームだったな、ありがたいなと思います」
先輩たちから託された、来年に向け。
「もっとハードワークして、来年出直してきます」
4人兄弟の末っ子。この日は日本から母も応援に駆け付けた。白井選手が小学生の頃に亡くなった父の写真を、いつも携え応援に出向くのだという