「立派なもんです」大分東明、初の全国準優勝。その裏にあったコーチの変化と「もう負けない」主将の覚悟|第11回全国高等学校7人制ラグビーフットボール大会

長野県上田市菅平高原・アンダーアーマー菅平サニアパークにて行われた、第11回全国高等学校7人制ラグビーフットボール大会。

大分県代表・大分東明高校は、全国大会で初めて決勝の舞台に立った。

※決勝戦の模様はこちら

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初めての全国2位「立派なもんです」

「よく頑張った。立派なもんです」

チーム史上初めてたどりついた、全国決勝の舞台。

激闘を終えた白田誠明監督は、いつもと変わらぬ笑顔でそう切り出した。

「立派なもんです。2番でも立派なもんです」

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初めての決勝であろうとも、いつもどおりリラックスした表情で、準決勝から決勝までのインターバルを過ごした大分東明。

グラウンド脇の木陰に張ったテントの下で、各々分析動画を確認した。

1回戦であろうと、決勝戦であろうと「やるのはラグビー(白田監督)」。

だから、過ごし方はいつもと変わらない。

ただ一つ異なるのは、これが日本一を掴むか否かのゲームだということ。

「日本一ってなかなかなれないから、なりたいよねという話を(選手たちに)しました」

ゲームプランはシンプルだった。

長身長のフィジアンがキックオフを確保し、ボールキープ。

相手にアタックをさせないこと、が一つの勝ち筋だった。

「ディフェンスの練習をしてきたので、ディフェンスで抜かれることはあまり想定していなかった」と石川波潤チームキャプテンが話すとおり、相手のアタックを何度もチームディフェンスで守り切った。

「不安はなかった。勝てると思っていました。勝てた試合を落としたな、って。もったいない」

石川キャプテンは、試合後の第一声でそう振り返った。

敗因を問うと「後半の気の緩み」ではないかと言う。

もちろん、気の緩んだ姿をグラウンド上で表したことはなかった。

ただ、大分東明が12点をリードしたそこから、桐蔭学園の集中力がまた一つ上がったことは事実だった。

わずか届かなかった2点。

日本一に届かなかった、たった一つのコンバージョンゴール。

この経験が、大分東明の冬へと繋がる。

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手にした『勝ち癖』

『やるなら勝とうぜ』が、大分東明の今大会のテーマ。

「今年は勝ち癖をつけなきゃいけない。だからいつもはセブンズの練習期間が1週間ぐらいなのですが、今年は2週間準備しました」と話すは、横山陽介コーチだ。

選手たちがやりたいラグビーに、コーチ陣のアイディアを混ぜるのが大分東明スタイル。

加えて、トップレベルのラグビーからもヒントを得る。

「リーグワンや世界のラグビーで、(大分東明でも)できそうなものはやる。できそうにないものは、やらない。だけど(選手たちには)見せる」

なぜならば「できるようになって欲しい」から。

横山コーチは言う。

「僕が桐蔭学園にいた時も、ずっと海外のラグビーを見せられていました」

大分東明に『合いそうなプレー』と『できるプレー』を取捨選択する中で、手にした武器はオフロード。

「桐蔭学園のウォーミングアップを見ていたら、『意外と大分東明でもいけるんじゃないかな』と思ったんです。この子たち大きいし、バックスはスキルがあるので。そしたらハマった」

バックスを中心に春以降オフロードの練習を重ねると、6月には全九州大会で東福岡を圧倒し初優勝。

選手たちに『勝ち癖』がつき始めた。

もちろん変わらないものもある。

根底にあるのは変わらず『エンジョイラグビー』。

キツいことをも楽しみ、その先にある勝利を楽しむ。それが大分東明らしさだ。

白田監督は言う。

「今季最初の東福岡との練習試合で勝ちました。そこで自信がついたし、自分たちのラグビーはこれでいいんだ、と思えるようになった。全国選抜大会ではうまくいかず、石見智翠館に敗れて2回戦敗退。失敗は失敗ですが、ラグビーが好きなんで。一度負けて落ち込むことの必要性を、あまり感じていません。もちろん冬の花園は全霊をかけ集中して戦うのですが、選抜の段階ではまだまだ。サニックスワールドユース、全九州大会を経て勝ち癖がついてきています」

敗戦を失敗と捉えず、前を向き続ける強さ。

勝ち癖を手にしたその根底には、根付いた大分東明の『エンジョイラグビー』があった。

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コーチの変化

桐蔭学園高校出身の横山陽介コーチにとって、師弟対決となった決勝戦。

練習試合を含め初めてだという桐蔭学園との一戦を前に、横山コーチは笑顔を見せた。

「練習メニューも、桐蔭学園からもらっています」

大分東明に来て、2年が過ぎた。

ベンチに座る横山コーチ自身にも笑顔が増え、2年前と比べると声色は数段、明るくなった。

その裏側を、白田誠明監督は打ち明ける。

「桐蔭学園のようなやり方を踏襲すれば強くなるんじゃないか、という思いが本人(横山コーチ)にはあったのではないかな、と思います。規律を守る、ルールを守る。でもそれは桐蔭学園のスタイル。うちは、全国にないスタイルで勝たなきゃ意味がないし、桐蔭学園を目指しているわけではありません。全国に一つぐらいは、ラグビーを楽しむチームがあってもいいんじゃないかな、って」

僕たちは第2の桐蔭学園を目指しているわけではない。

あれができていない、これをしなきゃダメ、とマイナスな言葉で教えることも、大分東明においては望ましくない。

どうせ発言するなら「こうやったら、こういう良い姿になるよ」「今はできていないけど、これを頑張ったらもっと良くなるよ」と未来を見させた方が、きっと大分東明の生徒たちは喜んでやる。

そんな話を、横山コーチと交わしてきたのだという。

「物腰が柔らかくなったなと思います」

横山コーチもまた、大分東明の一員になった。


「僕がしたいラグビーを、選手たちが分かってきたんだと思う。前は説明に10分必要だったところが、今では1分で済むようになった。試合中の選手たちの考えも、僕と一緒でした(横山コーチ)」

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「もう負けない」主将の覚悟

決勝戦で敗れた直後。

石川波潤チームキャプテンは、珍しく言葉を詰まらせた。

「言葉に出ないです」

悔しい、という感情とはまた少し違う、そんな表情だった。

福岡県出身の石川波潤チームキャプテン。

そのチームカラーに惹かれ、双子の徠人とともに大分東明へ進学した。

「僕が出ないとチームは負ける」と言い切ることのできる強気なキャプテンシーに、白田監督も「個性的」と目を細める。

「物怖じせず、物を申します(白田監督)」

練習中やミーティング中にも、コーチ陣に対し意見を出すことも少なくないという。

そんなときは決まって「よし、話し合おう」

白田監督と石川キャプテンが膝を突き合わせ、一対一で話し合う。

長い時には1、2時間。

だが最後には「あーもうだめや、先生には勝たん」と言いながら、石川キャプテンは部屋を出ていくのだと白田監督は笑った。

「勝てたゲーム(石川キャプテン談)」を、決勝戦で逃したこの日。

日本一に手を掛けて初めて、日本一になるためには、勝てるゲームを落とさないことが絶対条件なのだと知った。

「すぐに4泊5日の久住合宿が始まります。全国の強豪校が大分に集まって、練習試合をします。そこで全勝して、もう負けないチームになりたい」

もう、負けない。

頂上を目指す大分東明のチャレンジは、この夏、第2章を迎える。

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