東京都 39-15 千葉県
31-10と東京都がリードして迎えた、後半14分。
ビッグプレーが飛び出した。
敵陣ゴール中央でペナルティを獲得したのは東京都。
次なる一手の選択にしばらく時間をかけると、ボールを手にした12番・山口滉太郎選手(早稲田実業)。
タッチキックに蹴り出すか、と左サイドに向けてボールを蹴り上げた。
しかしその軌道は幾ばくか小さめ。案の定、タッチラインは割らなかった。
だがその瞬間、ボールをめがけて走り込んできたのは14番・宮下隼選手(國學院久我山)。
そのままボールを手にすれば、意表を突いたトライを決めた。
なんとタッチキックではなく、キックパスだったのだ。
山口選手は言う。
「早実では『相手の隙を突くこと、裏をかくこと』とコーチから言われています。今日はコンバインドチームとしての試合ですが、早実でやってきたことをこのチームで体現することも大事」
だからといって、この日みせた『ペナルティからの意表をついたキックパス』は、早実で練習しているプレーではないという。
サインプレーとして事前に準備していたわけでも、そういうオプションが頭の中にあることを仲間と話していたわけでもない。
ただ、その時の状況から生まれた「自分のひらめき」だったと山口選手は笑う。
「ディフェンスが内に寄っていたので、ウイングに『外行け』とアイコンタクトと顔の動きで伝えました(笑)」
一方、大外で待ち構えていたウイングの宮下選手も「相手のディフェンスが集まっていて、滉太郎くんと目が合ったので」と、それだけで状況を理解。
國學院久我山での夏合宿ではスタンドオフとしてプレーした経験も、意図を汲み取りゲームメーカーと同じ絵姿を描くことに役立ったに違いない。
「隼なら格好良くトライしてくれる」と山口選手が信頼して蹴り上げたボールを宮下選手がしっかりとグラウンディングすれば、会場中が驚きに包まれた。
東京都
複数チームから成るコンバインドチームとして。いかに一つのチームになるか、が鍵だった。
「共通認識、仲間意識を作れて、それが今日のゲームに生かされた」と話すは、戸田竜司監督(東京高校)だ。
「シンプルに強いプレーをする。選抜チームらしく『自分の強みを出しなさい』という話をして試合に送り出しました」
戸田監督がキャプテンに任命したのは、No.8齊藤源輝選手。
東京高校でもキャプテン。その他にも目黒学院や國學院久我山、早稲田実業と各校のキャプテンが揃うオール東京だが、FWの核となる齊藤選手に「今回は託そうと思って」と舵取りを任せた。
齊藤キャプテン自身は当初「自分で良いのかな」という気持ちが大きかったと正直に打ち明ける。
だが周りの選手たちから「頼む」と言われた言葉で、覚悟は決まった。
今年のオール東京のスローガンは『戦』。
試合会場が山梨県ということもあり、『甲斐の虎』とも呼ばれた武田信玄から着想を得て、全ての局面で戦うべく設定された。
「今日は先制点を取られましたが、落ち着いて自分たちがやってきたことをやるしかない、と声を掛けました。キックで前に出る50分間を徹底できました」と、齊藤キャプテンは勝利を喜んだ。
次なる戦いの相手は、栃木県。昨年は破れ、本国体への出場が叶わなかった相手でもある。
「日本一という目標があります。今年こそ突破して、絶対に勝ちたい(齊藤キャプテン)」
シンプルに強く、そして自由な発想で50分間を戦う。