10月に佐賀県で行われる第78回国民スポーツ大会への出場権をかけ、ラグビーフットボール競技の関東ブロック大会が山梨県で開催された。
8月25日(日)には少年男子の決勝戦が行われ、神奈川県がSAGA2024への出場を決めた。
神奈川県 38-14 茨城県
強い雨足の中始まったゲームは、いつの間にか快晴となり、蒸し暑さの中で幕を閉じた。
先制したのは神奈川県。
前半3分、SH後藤快斗選手(桐蔭学園)がペナルティゴールを沈めると、前半6分にファーストトライ。
ハーフウェー付近で相手ボールをターンオーバーすれば、9番・後藤選手が抜け出し7番・申驥世キャプテン(桐蔭学園)から10番・長濱堅選手(東海大相模)へ、そして15番・五島悠翔選手(東海大相模)、11番・恩田暖選手(東海大相模)と繋がり最後は申キャプテンが押し込んだ。
10-0と神奈川県が主導権を握る。
対する茨城県の反撃は前半22分。
敵陣でペナルティを得ると、ゴール前ラインアウトから10番・中村泰人選手が切り込み一発で仕留めた。
15番・大野陽世選手(茗溪学園)のコンバージョンゴールも成功し、10-7。3点差に迫った。
しかしトライを取られた直後にトライを取り返すは神奈川県。
キックオフを深くに蹴り、プレッシャーをかけると敵陣深くでのマイボールラインアウトを獲得。
モールを一気に押し込めば、7番・申キャプテンが2トライ目。
17-7と神奈川県の10点リードで、前半を折り返した。
後半も神奈川県のペースで試合は進む。
後半2分、相手のパスが乱れたところに飛び込んだのは6番・小池颯太選手(東海大相模)。
No.8藤久保陸選手(東海大相模)が左端でボールを受け取れば、そのままタッチライン際をブレイクしてトライ、24-7。
しかし神奈川県はブレイクダウンでのペナルティがかさみ陣地を下げられると、チャンスを逃さなかった茨城県。
またしてもラインアウトからトライを取り切った。
バックスでボールをワイドに動かせば、13番・山口海晴キャプテン(茗溪学園)が日本代表候補対決となったトイメンをかわし、前に出る。
最後は振り戻して、8番・小林隼太郎選手(茗溪学園)がトライ。24-14と10点差に戻した。
だが、試合終盤に連続トライを決めた神奈川県。
茨城県のドロップアウトから神奈川県がキックカウンターを仕掛けると、グラウンド中央でNo.8藤久保選手がビッグゲイン。右サイドに流れながら最後は内に返し、SO長濱選手がポール下に飛び込んだ。
後半16分に31-14とすると、ラストトライは後半24分。
個々人が接点で強くボールを繋ぎ前に出れば、ペナルティを得る。ラインアウトモールを押し込み、ゲームセット。
神奈川県が計5トライを奪い、38-14。
SAGA2024国スポへの出場を決めた。
神奈川県
「やってくれました。神奈川県のチームは、やってみないと分からないところがある。それも含めて、よく(気持ちを)切らずに頑張ってくれたな、と思います」
試合を終え、明るい表情でそう話したのは浜倉裕也監督(湘南工科大学付属高校)。
一時は3点差まで追いつかれたが「(失点は)自滅からだったので、しっかりと修正すれば問題ないと思っていました。ペナルティも多かったですが、自分たちが一番よく分かっていると思います。これがコンバインドチーム」と受け止めた。
練習期間の短さを『圧倒的な個』でカバーすべく、チームを一つにまとめ上げた。
今年の神奈川県代表チームは、6校で構成された。
最も『オール神奈川』を象徴したのは、この日のラストトライ。
日大藤沢のプロップ・鈴木成透選手が前に出ると、申キャプテンとの交替でオープンサイドフランカーに入った湘南工科・岸野暖士選手が繋ぐ。
慶應義塾・小林祐貴選手が外にボールを振れば、ゴール目前でペナルティを獲得。桐蔭学園・佐藤龍之介選手がラインアウトに飛びボールを確保すると、モールを組み、最後は東海大相模のHO金澤壱樹選手が仕留めた。
言葉のとおり『オール神奈川』で締め括ったトライに、慶應義塾・小林選手は明るい表情で呟いた。
「楽しい」
自チームでは、キックもゲームメイクも1人で担うことが多い。でも、ここでは役割が分散される。だから「楽しい」と。
試合中、選手たちには笑顔が溢れていた。
個性豊かな選手たちを束ねたのは、昨季もオール神奈川としてかごしま国体に出場した経験を持つ申キャプテン。
「昨年叶えられなかった日本一を達成できるように、もう一回セレクションを勝ち抜きたい」と試合後には表情を引き締めた。
本大会前に選考会があるわけではないが、今回はコンディションが整わず出場できなかった選手も複数いる。何人か選手の入れ替えが、もしかしたらあるかもしれない。
神奈川県が掲げる『全国制覇』に向け、いざ。
オール神奈川がSAGA2024へと挑む。
ラグビー歴2年強の高校日本代表候補
東海大相模で主将を務めるHO矢澤翼選手は、埼玉県との1回戦を終えると、笑顔で教えてくれた。
「タイがすごく楽しそうなんです」
タイ、とは東海大相模のLO加賀谷太惟選手。
高校からラグビーを始めた、ラグビー歴わずか2年強の高校日本代表候補だ。
小学生の頃はサッカーを、中学ではバスケットボールに勤しんだ加賀谷選手。
高校でもバスケットボールを続けるつもりで東海大相模を志したが、仲の良い友人がラグビー部に入ると聞き、楕円球に誘われた。
入学当初から180㎝後半の身長に、体重は90㎏台。頭角を現すまでに時間はかからなかった。
日本生まれ日本育ち。オーストラリア人の父を持つ
試合中は眼光鋭くブレイクダウンに顔を出すが、プレーが止まれば表情を和らげることもしばしば。
「オール神奈川はレベルが高くて、スキルも高い。吸収できることしかない場所です。だから楽しい」と、その理由を語る。
自身初めてのコンバインドチーム。初めて、東海大相模以外のラグビーに触れた場所。
「桐蔭学園の選手たちは、練習の合間にすごく話します。その姿に学びを得ました」と更なる成長のきっかけを掴んだ。
実は今夏、怪我のためフルコンタクトを避けており、この大会が復帰戦となった加賀谷選手。
「三木先生(東海大相模監督)が僕に投資してくれている。それに応えたいと思っています」
自身の強みであるフィジカルで、勝負に出たい。
「僕はラグビー歴が短いので、ラグビー偏差値はみんなと比べて高くはありません。でも僕には、恵まれた体格がある。コンタクトやブレイクダウンでのファイトで戦っていきたい」と、チームに貢献する姿勢をみせた。
飛躍の3番
桐蔭学園3年、石原遼選手。
これまでは左プロップ専門だったが、今夏、右プロップへと挑戦し大きく飛躍した。
きっかけは、桐蔭学園での夏合宿中だった。
桐蔭学園のタイトヘッドプロップに負傷が相次ぎ、コーチから「3番をやってみるか」と打診を受ける。
一度も3番としてのプレー経験がなかった石原選手。最初は「冗談だと思った」と笑う。
3番としてプレーした1戦目は、菅平合宿での京都成章戦。なんとデビュー戦で、スクラムターンオーバーを決めた。
続く東海大大阪仰星戦でもターンオーバーとはいかなかったが、しっかりと組み合うことはできた。
「意外と組めた」と3番への手応えを掴み、菅平を下りた。
オール神奈川でも元々は1番での出場が予定されていたという。
しかし、状況を鑑みて3番を務めることに。
1回戦・埼玉県戦ではターンオーバーを2度決め、決勝戦・茨城県戦では「相手の1番が重かった」とターンオーバーはならなかったが、一度もスクラムで負けることはなかった。
タイトヘッドプロップ歴わずか2週間弱で、神奈川県の先発右プロップとなった石原選手。
「神奈川県代表として本大会へ行かなければ、という気持ちがありました。怪我のため関東ブロックには出場できなかった(桐蔭学園の)新里(堅志選手)や古賀(龍人選手)からは『国スポ決めてきてくれ』と言われていて。一緒に国スポに行きたかったので、嬉しいです」
SAGA2024では「めちゃくちゃ難しい」というスクラムを、さらに磨き挑むつもりだ。
「東海大相模のスクラム、日大藤沢のスクラム、桐蔭学園のスクラムは全部違います。ボールインのタイミングに、フッカーのフッキングのタイミングもそれぞれ違う。バインドの位置のすり合わせ含めて、それぞれがやりたいことを言い合って『ここは俺が我慢する』『ここは相模のやり方でいこう』『ここは桐蔭に合わせる』と決めていきました。全部が違ったので、1から合わせるのがすっごく難しかったです」
今年に入ってから自チームではなかなか先発を勝ち取れない時間が続いていた石原選手。
この夏秋期の経験を、大切にしたい。
茨城県
「チャレンジャーとして、出し惜しみせず挑んだ」と話すは、茨城県のキャプテンを務めた山口海晴選手。
茗溪学園の主将・菊川逞選手を怪我で欠き、副将の山口選手が舵取り役を任された。
また複数の茗溪学園の選手もコンディションが整わず、不参加が相次ぐ。先発フロントローには、清真学園の選手の名も並んだ。
「イレギュラーなメンバーの中で、どれだけ隣と繋がれるかを意識していました」と、山口キャプテンはオール茨城としての心構えを明かす。
ラインアウトから2本トライを取り切ったこと、これは茨城県にとって大きな収穫となるだろう。
「(昨年の全国王者である)桐蔭学園さんを擁するチームと戦うことができました。この経験を僕たち茗溪学園も、清真学園の選手も自チームに持ち帰って、茨城県自体のレベルをしっかりと上げたい。茨城県内でも良い公式戦が組めるようチームに持ち帰れたら」と話した。
一方、山口キャプテン自身のプレーについては「今回は自分のボールキャリーよりも、周りを見て、周りを活かすことができたかな」と振り返る。
いつどんな時でも周りとリンクして、最後厳しい時には自らが体を張る。
自身の課題と認識するそのプレーを「今日は体現できた」と及第点を与えた。