川越、16年ぶりのベスト8。「見るもの全てが夢見ていた景色。この場所に立てたことが人生の誇り」|第104回全国高等学校ラグビーフットボール大会埼玉県予選

慶應志木(B5)21-17 浦和(A4)

慶應志木

前半を0-10のビハインドで折り返した慶應志木。

竹井章部長は、ハーフタイムに選手たちへと伝えた。

「すべて悪い方に回っている。いつも通り、ただふつうに戻すだけでいい」

最初に失敗したことで、かたくなってしまっていたラインアウト。

「抜けてもいいから、とにかく投げきれ」が1つ目の修正点。

キックの蹴り合いも、諦めずに蹴り続けることが2つ目。

後半は攻めてみよう。だけど、いつも通り。

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流れはやってきた。

後半8分、1年生・森絆斗選手(13番)のトライを皮切りに、3連続トライ。

8番・道垣内崇汰選手の3トライ目に繋がるロングタッチを蹴ったのは、9番・荒木大志選手。プレイスキッカーとして、コンバージョンゴールキックを全て成功させれば、得点で圧力を与えた。

「ふだんは全然入らないのですが、今日は全部成功させた。肝が据わっている」と、荒木選手の活躍に竹井部長も目を細める。

実は2日前まで、3年生の田宮弘毅選手を先発スクラムハーフとして起用する予定だった。

だが、この日が雨予報と分かると、キック力のある荒木選手に急遽メンバーチェンジ。

「チャージのコースも嫌らしくて、裏が見える。でもここ最近は、ずっとBのハーフでした。パスミスするから、Aのハーフからは外したんです。そうしたら黙々と練習して、パスミスをしなくなった。腐らずやっていました。本当偉いな、と思います」

大一番で急遽の先発を任せても大丈夫、と指揮官に思わせるほど、努力を積み重ねた。

「ここ1ヵ月はウイングとしてプレーしていました。でもずっとハーフがやりたかった。だから3年生の田宮先輩と一緒に、パス練習をしてきました。田宮先輩はBチームだったのですが、ずっと努力をして、この1ヵ月でAチームに上がってきた人。田宮先輩と一緒に重ねた努力が報われました」(荒木選手)

10月は毎週水・日曜日に日吉へ通った慶應志木。

慶應義塾大学との合同練習に、慶應義塾高校と4度の練習試合。

準備は万端だ。

準決勝の相手は、今季埼玉3冠中の昌平。

「1年間、ずっと目標としてきた昌平と戦えます。1週間良い準備をします」(荒木選手)

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浦和

高校日本代表候補、LO山﨑太雅選手。

試合を終えると、大粒の涙を零し、ベンチ横に座り込んだ。

「正直まだ、全然実感が沸いていなくて。明日も練習があって、来週も試合がある気がしていて。もうここで終わりだとは信じられないです」

21-10。一気に逆転を許した、絶対絶命の場面。

ゴール前でペナルティを得ると、山﨑選手がボールを持ち、タップキックからスタートを切った。

「この1年間、ああいう場面では僕が行っていました。僕が背中で引っ張らないといけない、絶対に取り切ってやると思っていました」

だが、ゴールラインを越えることはできず。慶應志木のかたい守りが、前進を拒んだ。

「一瞬、躊躇った部分がありました。僕がタップで行かなきゃ、と思うんですけど『ここで取り切れなかったらどうしよう』という怖さもあって。気持ちの部分、いま一番足りていないのはメンタルかな、と思います」

ミスする怖さ。

ここでボールを失ったら負けに繋がる、という恐怖心。

ここで取り切らなければいけない、というプレッシャーは、この時ボールを持つ人間にしか分からない。

「3年間、素晴らしい仲間に恵まれて楽しい時間を過ごしました。この敗戦を大学でぜったいに生かして、次に繋げていきます」

これからのラグビー人生で、恐怖心に打ち勝つチャレンジが始まる。

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