東福岡を劇的逆転トライに導いた「もう1回スクラム組もうぜ」。大阪桐蔭は「ナイスファイトやった」と仲間を称える|第26回全国高等学校選抜ラグビーフットボール大会 準々決勝

東福岡

17-17で迎えた、後半ロスタイム。

同点ではあるものの、トライ数差で負けていた東福岡。

だから、得点を取るしか勝利への道はなかった。

ランニングタイムでの、後半33分30秒。

大阪桐蔭が残り30秒を使い切ろうと、FW戦を仕掛けてきたあとの2フェーズ目でのこと。

手を伸ばしたのは、7番・古澤将太選手。

絶体絶命の場面で、ジャッカルを成功させる。1年時から花園の芝を踏んできた古澤選手が、チームを救った。

これが本当のラストワンプレー。

ペナルティを獲得した位置は、ハーフウェーライン上。

「(PGを)狙えるなら狙おう」という声がベンチからはあったが、50mの距離。

高精度を誇るプレイスキッカー・橋場璃音選手はいるが、その距離に不安があった。

ゆえに、ペナルティゴールを狙う選択肢はなくなる。

ラインアウトから、トライを狙った。

敵陣22mから投げ入れたボールは、しかしオーバーボールになった。

グラウンドを転がる楕円球。

真っ先に飛び込んだのは、グリーンの8番、須藤蔣一キャプテンだった。

「自分のミスが続き、責任を感じていました。当たり前にできることをしっかりやろう、と自分の中で決めていました」

フィフティー・フィフティーのボールを取ることは、当たり前のこと。

シーズンスタート時に定められた『フェニックス・ベーシックマニュアル』に、忠実に従った。

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そこからつながった、最後の45秒。

須藤キャプテン、古澤選手とボールを持ち込み、起点をつくる。

逆サイドに振り切ったら、戻した所で3番・武田粋幸バイスキャプテン。そして再び、古澤選手が当たった。

大阪桐蔭の選手を密集に集めたところで、バックスへ。

短い間隔で『受け手候補』として隣に並んだのは、SO橋場璃音選手(22番)とCTB川添丈選手(10番)。

その外側に立っていた10番・川添選手の手に渡れば、パスを放ると見せかけ切り込む。

距離にして22m、ディフェンダー6人を振り切り、走り切った。

須藤キャプテンは言った。

「不思議なトライ。不思議な勝ち、でした」と。

川添選手のラストトライは、絶対に取れるトライではなかった。相手のミスも重なってトライまで結び付けられることができた、と振り返る。

「偶然だと自分たちは思っています。再現性のあるトライではない。偶然抜けたトライでした」

自分たちが思い描いていたトライでは決してない。

だが、あの場面で『思い描いていない』トライを取り切れることが、今年の東福岡の強さなのだ。

トライが決まると、ベンチにいる選手・スタッフはみな、抱き合い飛び上がった。

そして藤田雄一郎監督もまた、右手で大きなガッツポーズを作った。

「らしくないよね」と笑った藤田監督。

「99.9%は負けていた」という絶体絶命からの大逆転劇に、喜びを隠さなかった。

「外れてもいいから、PGを狙っても良かったと思います。でもラインアウトからトライを取りに行ったのは、選手たちの判断。僕は常に『現場の判断が正しい』と言っています。判断は現場に任せています」

そして、続けた。

「昨季、(前キャプテンの古田)学央たちが根を張ってくれたから。(昨年は結果的に)上には伸びなかったけど、根を張ってくれました。だから今年の結果が、昨年の通信簿です」

根を張った状態で受け継がれた、今年の東福岡。

幹で終わるか、枝で終わるか。はたまた、大輪の花を咲かせるか。

まずはここ全国選抜大会で、いくつ勝利を重ねられるか。

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取り戻した10番

東福岡に入学し、1ヵ月も満たぬうちに身にまとったグリーンの10番。

あと一歩でチームを勝たせられないゲームが続くと、グラウンドに膝をつき、涙をこぼしていたのがスタンドオフの川添丈選手だった。


昨年のゴールデンウィークに行われた、サニックスワールドラグビーユース交流大会2024での一コマ

それから8カ月後の、第104回全国高校ラグビー大会。

初戦のみ10番で出場すると、3回戦と準々決勝はリザーブ登録。10番は、同級生の橋場璃音選手に譲った。

「悔しかったです」

正直に口にした川添選手。

途中出場するも「流れを変えることができなかった」ことにも悔しさを覚えた。

一方で「ゲームの運び方、エリアの取り方は(橋場)リオの方が上手い。リオをお手本にしています」とライバルを認める。

そして、自らのこともしっかりと認めた。

「自分の強みはディフェンス。そして体を当てること。そういう面ではしっかりと自信を持てています」

違いを認め、個性に自信を持ち、ライバルを尊敬すること。

一回り大きくなった川添選手は、ここ熊谷では初戦から10番を背負い続けている。

後半35分に決めたサヨナラ逆転トライは、自身のパスダミーから生み出したギャップに切り込んだ22mランだった。

高校生初となる全国大会でのトライが、値千金の逆転トライ。

「チームで練習していたトライの形ではありませんでした。でもこのレベルになると、練習どおりにいくことがあんまりないと思う。相手の隙を見て、トライを取り切ることが大切だと思いました」

東福岡に入学して、1年。

チームを勝たせられる10番になった。

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もう1回、スクラム組もうぜ

後半12分。

ゴールラインドロップアウトから勢いをもって攻撃を続けていたのは、東福岡。

しかし須藤蒋一キャプテンがボールを手にしようとしたその時、楕円球はこぼれ落ちる。

ノックオン。

須藤キャプテンは、腰に手を置いた。

すると、1人の選手が須藤キャプテンのもとに歩み寄った。

同い年の7番・古澤将太選手。

「大丈夫、大丈夫」と声を掛ければ、2人は笑った。

「もう1回、スクラム組もうぜ」

古澤選手は、笑顔で須藤キャプテンに伝えた。

その時のスコアは、12-10と2点のビハインド。

いわば、勢いを失いたくない場面でのミス。

それでも2人は、笑った。

「藤田先生が、オールブラックの話をしてくれたことがありました。ジョーディー・バレットがアルゼンチン戦でキックミスをした時に、FWが『もう1回スクラム組もうぜ』とポジティブなアクションでスクラムを組み、そしてそのスクラムでペナルティを取ったそうです。だから僕たちも『そういうFWを目指そう』と言われました。ミスをしても、笑って、もう1回スクラムを組もうと思いました」(古澤選手)

藤田監督は言う。

「今季、いくつかガイドラインを引きました。そのうちの一つが、お互いのミスを責めないこと。特にFWは、BKのミスを責めない。BKがミスをしたって、FWを楽にしてくれるのはBKなんです」

思い返せば、3シーズン前。東福岡が花園を制した時もそうだった。

「強い男は優しい」を何度も繰り返し言葉にしていた藤田監督。

互いにミスを許し、その分取り返すチームに。

それが、今年の東福岡だ。

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