川越高校
川越高校ラグビー部のラグビーが、ラグビーになった。
正しい日本語ではないかもしれない。失礼な言い方かもしれない。
だが、この日川越が繰り広げた試合は、紛れもなくラグビーだった。
2年前のこと。
ほとんどが高校からラグビーを始めた選手たちだけで、新人戦ベスト8入りを果たした。
そして昨年は、秋の花園予選で深谷高校を倒してのベスト8入り。熊谷ラグビー場Aグラウンドで、テレビ埼玉の生中継が入る中、準々決勝を戦った。
それらの経験が土台として根付いたことを感じさせるラグビーを、今年は新年度スタート当初から演じる。
かつての『フィジカル』『接点』に課題を覚えるところから、いまでは『戦術』に反省点を見出すまでになった。
目指すワンチーム
試合前には、チームでビデオ研究に打ち込んだ。
いわゆる”分析”を徹底し「ウラコーに勝てるビジョンが見えていた」と話したのはLO谷本幹太キャプテン。
だがこの日は「自分たちのラグビーを出し切れず不完全燃焼」だったと肩を落とす。
「キックゲームをする上で、どこにボールが落ちるのか、どういうゲームメイクをしていくのか。全員が分かり切っていなかったように思います。浦和高校さんのゲームメイクが、一枚上手でした」
それでも自信を得たのは、FW力。
ラインアウトも、接点も。アタック・ディフェンス問わず「FWは全体的に勝てていた」と話した。
だからこそ、秋に向けて手を加えたいことは明確だ。
「練習でできていなかったことが、試合に直結していました。練習からゲームメイク、バックスとのコミュニケーション、試合の運び方を意識しないと試合でできないと感じました。キャプテンとして意識させていきたいし、FWもBKもワンチームになっていきたいなと思います」
ここで部活をしたい
この日メンバー登録された25人のうち、高校入学前にラグビー経験があった選手はわずか3人。
谷本キャプテンも多くの選手たち同様、高校からラグビーを始めた。
「先輩たちの雰囲気、部活の雰囲気がすっごい良かった。それまではバスケットボールをしていたので、高校でもバスケを続けようと思っていたのですが『ここで部活をしたいな』と思いました。『人間として成長できる部活はここだな』と思って、ラグビー部を選びました」
谷本キャプテンが務めるポジションは、泥臭さが求められるロック。
激しく体を動かし続ける一方、グラウンドを離れれば優しさと情熱を併せ持つ。
試合後には、グラウンドサイドから声を張り上げてくれた應援團に向かって「応援ありがとう。ごめん、勝てなくて」と感謝の意を示せば、悔し涙に暮れた。
そんな谷本キャプテンの涙が、一層頬を伝ったタイミングが2度ある。
1度目は、柳澤裕司監督が部員全員に向かって発した言葉を聞いた時。
ーーーこのまま谷本・野澤についていけば勝てるから。谷本を泣かせるなーーー
キャプテン冥利につきる言葉が、嬉しかった。
「柳澤先生は、本当に自分たちのことを思ってくれています。ずっと生徒思いでいてくれる先生。先生を勝たせてあげられなくて、本当に悔しいです」
涙の理由を説明した。
2度目は、應援團長からの言葉を聞いた時。
ーーー応援を進化させて、秋には絶対勝たせられるようにしますーーー
エールを受け、目頭を押さえた谷本キャプテン。
「應援團は川越高校という伝統を背負っています。その應援團に、勝利を見せてあげられなかったことはカワコー生としても悔しいし、ラグビー部としても悔しいです」
実はこの日、ラグビー部への入部を検討している1年生も多く見学に訪れていた。
應援團の後ろで肩を組み、声援を送った新1年生。
試合が終われば、”應援團の面々”はラグビー部への入部を希望する1年生たちへ「ありがとう」と伝えた。
そして試合を終えたラグビー部の選手たちは、応援してくれた應援團に向けて何度も「ありがとう」を繰り返す。
應援團は、ラグビー部への入部を希望する1年生たちへ。
ラグビー部員は、應援團へ。
繋がった、ありがとうの連鎖。
「僕たちは『感謝』を大切にしています。お互いに感謝があるから、頑張れるんだと思います」と柳澤監督は目を細めた。
轍
川越高校のラグビー部は、途中で退部する生徒がほとんどいない。
一方で途中入部の生徒は学年ごとに複数人いる、なんとも不思議な学校だ。
この日試合に出場した選手の中にも、2年の春、軽音部から転部した生徒が先発出場した。
埼玉県西部地区屈指の進学校。昨年度の進学実績も上々だ。
準々決勝に勝ち進んだため、11月まで部活を続けた昨年の3年生たちだったが、前キャプテンはなんと千葉大学へ進学。他にも一橋大学や早稲田大学、東京農工大学などに多数、現役合格した。
慶應義塾大学から合格通知を受け取ったが、もう1年がんばって東京大学を目指したいと浪人生活を選んだ人だっている。浪人のち大阪大学に合格した2年前のフルバックは、昨年ベスト8入りした後輩たちの活躍に感化され、大学でもラグビーを続ける決意をしたと嬉しい話も届いた。
全力でラグビーと向き合った高校生活のその先に拓ける、それぞれの未来。
幸多からんことを願って。