ピッチでは鋭く、声と視線でチームを導く。インサイドセンターとして攻守の軸となる神拓実選手(京都産業大学2年)は、2025年度のU20日本代表でバイスキャプテンを務める。
一方、ユニフォームを脱いだ素顔は柔らかい。表情も、言葉も、ふんわりとした空気をまとう好青年だ。
今合宿に参加するバックス陣の年齢層は実に幅広い。
高校3年生のスクラムハーフもいれば、大学3年生にあたるリーグワン選手もいる。4学年がひとつのチームになる、単なる実力の集合体ではない“融合”が求められる難しさを問うと、神選手はゆるやかに笑って首を振った。
「そんなに深く考えていません。上下関係なく、部屋も一緒ですし。高校生の(荒木)奨陽は最初ちょっと緊張してたみたいですけど(笑)、今はもうすごく自然に、いい雰囲気で関われています」
合宿期間中、バックス陣は3つの部屋に分かれ生活をしている。6人と3人、そして2人部屋。神選手はバイスキャプテンだが、6人の大部屋で大学1年生や高校生など“年下組”とともに生活する。
同じ部屋にはもう1人、面倒見の良いCTB佐藤楓斗選手(帝京大学2年)も枕を並べる。後輩たちにとっては、ふたりの“お兄ちゃん”がそばにいるようなものだ。
自然体のリーダーシップ。その背景には、神選手自身が過去に感じた“安心感”がある。
昨年、神選手は2024年度のU20日本代表候補合宿に、大学1年生ながら参加していた。あの時、同じように招集された仲間の中で、今年の代表メンバーに名を連ねたのは神選手ただ1人。経験者として、そして継承者として、あの時の「空気」を今に引き継ごうと努める。
「昨年のチームは、みんなスキルが高かったのはもちろんのこと、まとまりがありました。参加期間は短かったけど、“仲がいいと、やっぱりプレーもしやすいんだ”って実感しました。今年は自分がその雰囲気を作っていけたらと思ってます」
一つ歳を重ねた今、プレーだけでなく『チームをひとつに繋ぐ』という役割にも自覚が芽生えている。
そんな神選手にとって、今回の代表活動が行われている“大分”という地もまた、特別な意味を持つ。
福岡県出身の神選手。九州で桜のジャージーを着て代表戦を戦えることに、縁を感じる。
「ラグビーをしている人の中でも、日本代表に選ばれるのは本当に一握り。その中に自分が入れたというだけでもうれしいですし、活動の場所が地元・九州というのも、自分にとってはすごく意味のあること。不思議なご縁だな、と思っています」
だからこそ、迎えるNZU戦では、感謝と喜び、すべての気持ちをプレーに込めたい。
「勝つことが、見に来てくださる方々への恩返しになると思います。U20日本代表として戦えるのは、たった1試合だけ。でも、その1試合を大事にしたい。せっかくのチャンスだから、勝って終わりたいです」
リーダーらしい強さよりも、仲間を包みこむ優しさ。背中で引っ張るというより、そっと隣に並ぶタイプのキャプテンシー。それが神拓実。
静かに、穏やかに、それでいて確かに、桜のチームを“ひとつ”に束ね、戦いへと向かう。