「これまで國栃は、全ての全国大会でどこかで負けてきました。だから大会中一度も負けなかったことが、本当に誇らしいです」國學院栃木、悲願の初優勝

7月25日(金)に閉幕した、第12回全国高等学校7人制ラグビーフットボール大会。

國學院大學栃木高等学校がカップトーナメント決勝戦で大分東明高等学校を33-7で下し、同大会出場10回目にして初の、そして1988年の創部以来初の全国優勝を成し遂げた。

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38年。

1988年に創部し、頂点へたどりつくまでに38年を要した。

優勝の瞬間、吉岡肇監督の目には涙が溢れる。

「サングラスをしていて良かったよ」と、微笑んだ。

「今年は、本当に優勝を意識していました。決勝進出は3回目ですが、これまでの2回は『こうしたら決勝まで行くんだ』と、あれよあれよという感じだったんですね。でも今年は優勝だけをターゲットにしてきての優勝。嬉しいですね。これまで優勝に手が届かなかった理由が分かった、というか。『こうじゃなきゃダメだったんだ』と勉強させられました。この経験は、間違いなく冬にも生かせます。『絶対優勝』という意識が少しでも欠けていると、勝たせてもらえないんだな、って」

選手も、コーチングスタッフも、全員が『優勝するぞ』と言い続けた1ヵ月間。

誰かのおかげではない。1人ひとりの力を結束させて掴んだ優勝。”國栃ラグビーファミリーの結晶”がもたらした優勝。

38年の月日を要した日本一の頂だった。

合言葉は「根性」

ハドル。

國學院栃木は、試合前に必ず円陣を組んだ。

その輪は試合をする度に小さくなり、決勝戦のハーフタイム時には、もはやこれ以上タイトにはなり得ないほどの強さを宿した。

「セブンズはキツい競技。1人でやろうとしても、絶対に限界がくる。キツくなった時にこそ全員で繋がり続けて、コミュニケーションを取り続ければ、キツいことも全員で乗り越えられる。だから全員で、どんな時もしっかりと繋がり続け、隣の人を声で助けてあげることを意識していました」(福田恒秀道キャプテン)

そして円陣を解く時には「根性」と声を掛け合った。

決勝戦のハーフタイムでは、吉岡肇監督から「命懸けだぞ」との声も飛んだ。

「『命を懸けろ』と言ったら、すっごく良い返事が返ってきたんです。だから『あ、本当にこの子たちは大丈夫だな』と思いました。死に物狂いとはああいうこと。本当によく頑張ったよね」

優しい眼差しで生徒を見守った。

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監督。学び

15人制では変わらず吉岡肇氏が監督を務めるが、今年からは7人制において、監督の座を次男・吉岡航太郎氏へと譲った。

「監督の道、じゃないけれども。段々と移行していく中で、セブンズはやってみろと任せました。見事な監督ぶりだったと思います。でもそう言ってしまうと、なんか・・・完成してしまうので(笑)まだまだ未完成です」と、父・肇氏は愛息を認めつつも更なる背中を押した。

セブンズチームの後を受け継いだ”監督”吉岡航太郎氏は、この間の学びを口にする。

「日本一になるための精神的な準備と、技術面の準備。どちらも欠けてはいけないのだということを学びました」

精神面での取り組みに対し、大きく貢献したのが福田恒輝スポットコーチ(秋田ノーザンブレッツ 7人制チームヘッドコーチ)だ。

技術面はもとより「根性、メンタリティ」に対する指導が大きな影響をもたらしたという。

「全員で『エイエイオー』をして試合に向かいます。試合に出る選手、出ない選手も同じように『日本一になりたい』という強い気持ちが、誰か一人でも欠けていたら勝てないんだということ。そこまでの精神的な持っていき方。このことを本当に学びました」

「昨年まで、というよりも。指導者を始めてから今まで、試合に出ていない選手をも巻き込んで本当の意味で『日本一を獲りにいくんだ!』という(気持ちの)持っていき方が、僕はまだ緩かったな、と思ってしまいました。この日本一は、選手たちと福田スポットコーチの力で成し遂げてもらったな、って。本当に勉強させてもらったという思いの方が強いです」

正直に言えば、決勝戦で33-7と点差が開く試合展開を予想をしていなかった。

大分東明を相手に、やや劣勢になる時間帯も訪れるだろうと想定していた。

だからこそ「選手たちの、若者のポテンシャル、可能性に驚かされました。僕ももっと勉強しなければいけないな、と思いました」と、監督として吉岡航太郎氏は表情を引き締めた。

だが、ノーサイドの笛が吹かれると、吉岡航太郎セブンズチーム監督の感情も溢れる。

「ただただ、今までの國栃OBが築き上げてきた歴史を想いました。僕も生まれた時から(國栃を)見てきたので。セブンズですが、全国初タイトル。感無量です。いざこうやって優勝すると、何も言えないですね。言葉にできないとはこういうことなんだ、って。いまはただ余韻に浸っています」

優勝を果たしたセブンズチームの監督として、よりも。國栃OBとして、の感情が勝った。

「これまで國栃は、全ての大会でどこかで負けてきました。僕もその中の1人でした。だから大会中一度も負けなかったことが、本当に誇らしいです。いちOBとして『母校、よくやってくれた』という気持ちです」

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基盤のディフェンスで開いた新たな扉

今年は、いや今年も、國學院栃木の基盤はディフェンスにある。

それは7人制においても変わらなかった。

「セブンズはアタック力だと思っていたんです。いかにキックオフを獲得して、ポゼッションを上げていかに点数を重ねるかの勝負だと思っていたんですけど、でも福田コーチが一番こだわりをもって教えてくれたことは『セブンズはディフェンスが最も重要なんだ』ということでした」(吉岡航太郎セブンズチーム監督)

監督自身も最初は驚いたというが、練習を重ねるごとに「そういうことか」と理解する。

「ポゼッションが取れなかった時に、いかに点を取らせずに相手を封じ切って、ボールを奪い返して自分たちの得点に繋げるか。まずはディフェンスがしっかりしていなければ、相手がボールを持った時点でスコアされる状況を作ってしまいます。だからセブンズにおいてもディフェンスが重要なんだ、と」腑に落ちた。

15人制でも7人制でも、やっぱり國學院栃木の肝はディフェンス。

1人が無理なら、誰かがカバーする。助け合い、一体感を持って。

常に3人1組でボールの側に張り付き、全員でディフェンスするプレースタイルとして表現された。

気付けば、國學院栃木のディフェンスは「紺の血」として全部員に流れるようになった。

國學院栃木のスタンダードとして、強固なディフェンスが敷かれた。

そしてそこにアタック力を付け加えている今年。

このセブンズでは、技術面だけでなく精神面での”根性”も備わった。

15人制での成長を7人制に生かし、7人制での学びを15人制に還元する。

國學院栃木は2025年夏、新たな扉を開いた。

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