創立・創部70周年の東福岡、報徳学園との定期戦を33-12で制す「今年は、去年の卒業生のために結果を出さなきゃいけない」報徳学園も県予選に向け「弾みになった」

東福岡であるということ

藤田雄一郎監督は、この日を迎えられたことに感謝の言葉を口にした。

「公式戦以外でグリーンのジャージーを着られる機会は限られています。報徳学園との定期戦は、その数少ない舞台のひとつ。70周年の節目に、伝統の一戦をうちの(東福岡の)グラウンドで戦えたこと自体が、選手たちの大きな財産になる」

勝敗だけでは測れぬ価値が、定期戦にはある。

この舞台を通じて選手たちが学ぶのは、ラグビーの技術だけではない。礼を尽くす心、つながりを重んじる姿勢、そして自らの立場に責任を持つこと。

70年で培われた「東福岡であること」の意味が、この試合を通して改めて浮かび上がった。

「試合が終わったら、すぐにジャージーも脱ぐでしょ」

試合以外で身に着けることが許されないグリーンジャージー。体育祭の目玉である部活動対抗リレーでさえ、ファーストジャージーを着ることはない。その徹底が、誇りと憧れを生み出してきた。

誇り、憧れ

須藤蔣一キャプテンも、節目の一戦の重みを噛みしめた。

「伝統ある定期戦で、自分たちの代でしっかり勝ち切れたことが嬉しいです」

報徳学園との戦績は20数勝1敗。新たな勝ち星を重ねたことが、自信となった。

今年、東福岡が掲げるキーワードは『アタックマインド』。ディフェンスでもボールを奪い返す意識を、練習から徹底してきた。

「外も使うし、前にも出る。いろんなオプションを持ってアタックすることを大事にしてきたので、それが今日は出せてよかった」と須藤キャプテンは振り返る。

ただし試合終盤には規律が乱れ、2連続トライを許した反省も大きい。

「みんなの『取られたくない』という思いが焦りにつながってしまい、オフサイドやハイタックルが出てしまった」と冷静に分析した。

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70周年という節目を自分たちの代で迎えられる誇りを胸に、次なる目標を見据えるは、もちろん冬の花園だ。

東福岡がこれまでに積み上げた全国高等学校ラグビーフットボール大会での勝利数は96勝。今年は通算100勝が懸かる大会となる。

大記録への期待が高まる中でも、須藤キャプテンは「優勝だけを見据えるのではなく、目の前の1戦1戦をしっかり勝ち切ることが大事」と力を込めた。

「強いフォワード、速いバックス、アタッキングラグビーのヒガシが好きです。自分たちの代で花園優勝できるように、成長していきたいと思います」

合言葉は「繋がり続ける」こと。

日常の小さな積み重ねを大切にし、練習でも試合でも仲間と声を掛け合い、苦しい時間帯こそ繋がって前に出る。そしてグラウンドに立つ全員がオプションとなり、全員でアタックする。それが、東福岡が次の歴史を刻むための武器となる。

「そのためにも、コミュニケーションを大切にします。名前を呼ぶこと、ミスを責めないこと。日常生活を大切に積み重ねていきます」

節目の先にあるもの

70年の歴史は、選手たちに責任と誇りを教えてきた。その伝統の中で育まれる「東福岡らしさ」こそが、冬の花園での輝きへと繋がる。

今年、3年ぶりの全国優勝を目指東福岡は。

しかし藤田監督は「今日の試合内容では無理でしょうね。まだまだまだまだ甘くない」と厳しい評価を下した。

それでもプラス材料はいくつもある。

この日のメンバーは2・3年生のみ。1年生は前週のU-16 GLOBAL ARENA ROOKIES CUP 2025で優勝し、この日も静岡で行われた第二回徳川ルーキーズカップに招待されていたため、不在だった。

後半途中から出場した橋場璃音選手は、菅平合宿後からスタンドオフとスクラムハーフを兼任するように。将来を見据えた起用が続いている。

「リザーブにこういう選手がいると重宝しますし、将来的にもいい方向性だと思います」と藤田監督は語る。

さらに「ケガ人もあと2人ほど戻ってくる。その間に1・2年生が大きく成長してくれている」と、チーム層の厚みにも手応えを感じていた。

創部70周年。

東福岡らしさを問われれば、藤田監督は迷わず「コンタクト」と答える。

「自分から体を当てに行くこと。監督になって14年、それはブレていません。痛いラグビーをする、それが今年は見えつつある。去年から根を張ってきて、やっと幹、枝がついてきたかな」

そして最後に、こう言葉を残した。

「去年は今年のために(戦った)。今年は、去年の卒業生のために結果を出さなきゃいけない」

これからも、東福岡は東福岡であり続ける。

報徳学園であるということ

結果こそ悔しいものだった。

しかし東福岡との定期戦を終えた報徳学園の言葉からは”一つの敗戦”で終わらせまいとする決意がにじんでいた。

夏の衝突

この夏、チームは揺れた。

勝ちたいという思いの強さが衝突を生み、方向性をめぐって激しくぶつかり合ったのだ。

8月、菅平高原での夏合宿中のことだった。

「これまで相手の言い分を聞けていなかった部分もあった。だからこそ、思い切りぶつけ合えたのは良い機会でした」と振り返ったのは山口鉄心キャプテン。

感情をさらけ出し、腹の底まで出し切れば、認め合い、歩む道を重ねていくプロセスへと移行した。

キャプテンの目に映ったもの

この日、山口キャプテンは伝統の定期戦をピッチサイドから見つめ、ウォーターとして仲間を支えた。

試合を振り返れば、嬉しそうに言葉を選ぶ。

「これまでの取り組みがプレーに表れた一方で、明確に課題も出ました。だからこそ、すごく良い形で終われたと思っています。前半は0-21と苦しかったですが、後半は12-12。試合中に修正できたことは大きな収穫です。力以上の差はそこまで感じませんでした。課題をどう修正していくかが、今後につながると思います」

またB戦では、山口キャプテン自身3か月ぶりの実戦復帰。後半終盤、短い時間の出場だったが「少し緊張しました、でも楽しかったです」と笑った。

「ヒガシとホウトクの縁もあるし、個人的にも仲良い選手が多いので、楽しんでプレーできました」

ゲームリーダーの矜持

また、素早い球捌きで試合のリズムを生み出したのは、ゲームリーダーを務めるSH日比野陽穂選手。

ラックからボールを持ちあげた瞬間に、次のプレイヤーへと球を放るその”捌き力”が特徴だ。

「0.1秒で状況が変わる世界。だからこそ、捌きは自分の強みだと思っています。フォワードとバックスをつなぐために、ディフェンス時にどれだけ声をかけられるかも意識しています」

今年の兵庫県に与えられた花園出場枠は、たったひとつ。

最大のライバル・関西学院高等部を1月の新人戦では36-14で下したが、その半月後に行われた近畿大会では17-19と惜敗した苦い記憶が宿る。

だからこそ、関西学院戦は「負けられない試合」と日比野選手は力を込めた。

次に対戦するチャンスは、全国高校ラグビー大会兵庫県予選の決勝。

「11月8日に向けて、自分が中心となってチームを動かしたい。1日1日の成長と、仲間への声掛けを大事にしていきます」と誓った。

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30年近く続く伝統の定期戦。報徳学園がこれまでに挙げた勝ち星は、わずか1つ。

それも台風が接近し、急遽試合日を前倒しして行った、土のグラウンドでの一戦だったという。

新幹線が止まるかもしれないから、と東福岡一行が神戸に到着したその数時間後に試合を行ったことを、西條裕朗監督は「東福岡の勝利への貪欲さを感じました」と懐かしそうに振り返った。

そんな歴史ある対戦相手について、山口キャプテンは「勝ちたい相手。だけど、すごく力の差があるときもある。夏から秋にかけて成長してきた、自分たちの力を試せる相手でもあります」と言った。

今年は、一戦を終え、どうやら収穫が多かったようだ。

「この試合をターゲットに、チーム状態も上がっている。県予選に向けて弾みになりました」

悔しさと収穫。衝突と成長。そして、未来への誓い。

報徳学園は、報徳学園らしく、その歩みを止めない。

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