8月31日に幕を開けた第105回全国高等学校ラグビーフットボール大会 埼玉県予選。
記念大会となる今年は、埼玉県から2校が全国大会へと出場するため、トーナメントは2つの山に分かれて進行している。
11月8日(土)には熊谷ラグビー場Bグラウンドで熊谷工業高校(Aシード)対慶應志木高校(Bシード)の準決勝が行われ、慶應志木高校が決勝戦へと駒を進めた。
決勝は11月15日(土)、熊谷ラグビー場Aグラウンドで行われる。
熊谷工業 10-42 慶應志木
慶應志木ボールでキックオフを迎えると、先制は前半3分。慶應志木5番・橋本瑛太選手がトライを決め、9番・荒木大志選手がコンバージョンゴールを沈めれば7点を先取した。
その後、12番・浅野優心キャプテンが2トライ、13番・森絆斗選手が1トライを追加し、前半だけで28得点。
熊谷工業の攻撃を無失点に抑えると、慶應志木が大きくリードして前半を折り返した。

後半も、慶應志木は攻撃の手を緩めない。
2番・李知成選手、6番・足立康興選手がグラウンディングすれば、コンバージョンゴールとあわせて14点を追加した。

このまま無得点では終われない熊谷工業。
後半27分に1年生の左ウイング石川皇輝選手が仕留めると、試合終了間際にも16番・笠原璃王選手がトライ。
10点を返し、10-42。
最後まで粘りを見せた熊谷工業だったが、しかし反撃及ばずノーサイド。
慶應志木が第44回大会、1964年以来61年ぶりとなる決勝進出を果たした。

熊谷工業
「怪我に泣かされた1年」
「ベストメンバーが揃った試合が、本当に1度もなかった年でした」
言葉の奥に、苦しみと無念さが滲む。試合後、橋本大介監督は静かに口を開いた。

今季のオール埼玉メンバーである2人――No.8のエース・伊藤珀翔選手に、スクラムハーフの笹沼遥翔選手――が、準決勝直前、ケガに泣かされた。
「パッションを含めたチームの柱」と監督が語る主力を欠いたことが、やはり大きな影を落とした。
この日、背番号8に背番号9を担ったのは、ともに1年生。9番・内田翔太選手はなんとこれが初の公式戦だった。
「落ち着いて戦ってくれた」と橋本監督は称えたが、立ち上がりから2トライを奪われる苦しい展開。
「本来の彼らの力どおりの戦いができなかったチーム事情が、この点数を物語っていると思います」と振り返った。

それでも後半には、怪我を押した2人の3年生エースは出場した。
前半を3トライ以内に抑えられていたら。あるいは、後半開始早々にトライを奪えていたら。
もしかしたら、結果は変わっていたかもしれない。
だが、試合とは生き物。熊谷工業は何度もボールを持ち、反撃に出たが、流れを完全に引き寄せるには至らなかった。
「前半の28失点が、やはり厳しかったです」
橋本監督の表情が物語った。

No.8伊藤珀翔選手
今季のキャプテンを務めたのは、7番・林蒼太選手。春はプロップとして出場していたが、腰に爆弾を抱え、関東大会以降は試合から遠ざかっていた。
「自分たちにできることを、とにかく最善を尽くしてやろう。いつもやってきたことを出せば、きっと勝てるから」
不器用でまっすぐな、熊谷工業らしいキャプテンが試合前に仲間へ伝えた言葉は、優しさと勇気で満ちていた。

ゲームキャプテンを務めたのは10番・冨田将生選手。
「ファーストレシーバーにマサキのスピード感があると、ほかの選手も生きてくる」と橋本監督。
試合終盤、一つきっかけを掴みたい場面で冨田ゲームキャプテンがラインブレイクした走りは、チームに勢いを与えた。
「15人制のラグビーは、中学までのラグビーとは全然違った。イチからラグビーを教えてもらった3年間でした」と感謝した。

ラストトライを決めたのは、16番・笠原璃王選手。高校からラグビーを始めた笠原選手は、182cm・115kgという恵まれた体格を持つ。
しかし、その大きな体は代償も抱えていた。
「前十字靭帯を2度切っています。もし順風満帆にラグビーを続けられていたら、どこまで成長したか。その姿を見てみたかった」
橋本監督の言葉から、深い愛情は漏れた。

熊谷工業高校ラグビー部。
苦しみながらも、前に進むことを決して諦めなかった1年。
大粒の涙を流しながら、グラウンドを後にした。


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