3回戦 熊谷工業v熊谷【第100回全国高等学校ラグビーフットボール大会埼玉県予選】

ラグビーの季節がやってきた。

約半年ぶりの公式戦。そして、3年生にとっては最後の戦い。

花園を目指し、青春をかけて戦う選手たちをレポートする。

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試合概要

【対戦カード】
埼玉県立熊谷工業高等学校(以下、熊谷工業)v 埼玉県立熊谷高等学校(以下、熊谷)

*熊谷工業事前インタビュー記事はこちら
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【日時】
2020年10月11日(日)11:30キックオフ

【場所】
熊谷ラグビー場Cグラウンド

試合結果

熊谷工業 7 – 33 熊谷

試合展開

熊谷工業:青ジャージ、熊谷:黒ジャージ

苦しい一週間だった。

「優勝するまで泣かない」と決めていた熊谷・永嶋信一郎キャプテン(6番、3年生)も、勝者インタビュー中に張り詰めた気持ちが溢れ出た。

目に見えない恐怖。それは、高校生だけでなく監督も同じだった。

 

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3回戦にして実現した熊谷対決。

ふだんは週に一度、合同練習をする仲だ。互いの長所も短所も知り尽くした、勝手知ったる好敵手。抽選会で同じ山に入ることが決まってからは、久しぶりに顔を合わせた。

2回戦では苦しい試合を演じた熊谷工業・橋本大介監督は「お互いリスペクトしている学校同士の戦い。今日は楽しい試合にしたい。」と選手を送り出した。

一方、今大会の初戦となる熊谷高校。実は今月に入って同校で新型コロナウイルス陽性者が判明し、この一週間弱練習することが出来なかった。

深谷高校監督時代には花園の常連だった横田典之監督にとっても、初めての事態。選手たちのモチベーションにどのような影響を与えるのか不安だったというが、実際は「びっくりするほど選手たちが前向きになっていた」という。「オンラインミーティングの場を提供したら、FW、BK、全体とそれぞれ時間を分けながら自分たちでミーティングスケジュールを組んでいた。」3年間の積み重ねを実感した瞬間だったという。

 

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60分に渡った激闘を、熊谷は「出来過ぎ」、熊谷工業は「完敗」とそれぞれの監督が評す。

2人目の寄りを制した熊谷、魂のこもったタックルを連発したのは10番の髙田選手だった。強烈なタックルを見舞った相手に手を差し伸べられる、ジェントルマンだ。「(1月に行われた新人戦の)昌平戦では、シンビンで60分間戦い続けることが出来なかった。今日はまず60分グラウンドに立ち続けることを目標としていた」というが、グラウンドに立ち続ける責任を十二分に果たした。

後半はじめ、なかなか得点を奪えない両チーム。すると熊谷は10分、ハーフウェイ付近で獲得したペナルティに対し、ペナルティゴールを選択した。40m以上離れた位置から3点を狙う。セオリーでいけば、相手陣深くにタッチを蹴り出し、ラインアウトモールで時間を使いながら7点を目指す場面だ。横田監督も「あれは面白かったですね。どういう意図があったのか本人に聞いてみたい」という。

真意の程は。プレイスキックを担当した15番・五十嵐選手、「まずは2トライ2ゴールでは届かない点差にしたかった。」という。「普段の練習では決められていた距離だが、今日は外してしまった。次戦はプレイスキックの一つひとつが大事になると思うので、もっと足を使って狙っていきたい。」

一方の熊谷工業は、後半6分。6番・渋澤選手がキックオフボールを全身でチャージ。「新人戦で負けていたので、勝ってやるぞという気持ちで向かった。」周りの選手よりも一回り身長が低い彼はその分、ワークレート高くあらゆる場面に顔を出す。高校卒業後は就職するため、これが第一線での最後の試合だった。「トライ取りたかった、残念です。」

後半25分には、熊谷工業の佐々木匠也キャプテン(19番、3年生)がグラウンドに立った。交代直後のキックオフボールに対して、相手の足を刈る魂のタックル。「流れをいい方向に持っていこう、という思いだった。短い時間しかプレーできなかったが、運動量を増やして自分が体を張って、ちょっとでも勝ちを引き寄せたかった。」

キャプテンであり、リザーブ選手。55分間、グラウンド脇から仲間に向かって声を掛け続けた。役目はしっかりと果たした。「この仲間とラグビーができて、幸せなラグビー人生でした。」

 

今年の熊谷工業、2年生が半分以上を占める。後半16分に意地の1トライを奪った13番・橋本選手(2年生)は「負けていたので、自分がトライしてチームを勢いづけてやろう、という一心だった。来年は花園目指して、全員で頑張る。」

何度も敵陣深く、いやインゴールまであと数センチまで迫った熊谷工業。来年の爆発に期待だ。

 

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「試合は選手のもの」が熊谷・横田監督の口ぐせ。「高校生って分からないですね、どこまで化けるか。(今日は)大化けした。」と、優しく目を潤ませた。

決戦直前の一週間、まさか練習ができなくなるとは思わなかった。それどころか、試合ができるかどうかも不透明な日々だった。「しんどかった一週間を本当によく乗り切った。メンタルの強い選手たちです。」闘将が選手たちを褒めちぎる、それが全てを物語っていた。

熊谷の永嶋キャプテンは試合後、「みんな不安な一週間を過ごした。3年生が『俺たちがやる』って言ってくれたから頑張れた。3年生が下級生を励ましてくれた。」と涙で声を詰まらせる。

まだ高校生だ。

試合ができるか分からない不安。目に見えない敵との闘い。どれだけのプレッシャーを、主将として背負っていたのだろう。

 

大丈夫。熊谷高校、まだまだ強くなる。

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試合後のコメント

熊谷 横田典之監督
「(選手に向けて)今日は心の底から喜んでいい。よくこの1週間を乗り切ってくれた、お疲れさん。(準決勝の正智深谷戦に向けては)DF勝負になる。DFで粘って、いかにトライチャンスを逃さないか。」

熊谷 永嶋キャプテン
「今日のテーマは『圧勝』。課題も見つかったが、ゲーム支配率は高かった。(次戦に向け)優勝見据えて、3週間準備します。」

熊谷工業 橋本大介監督
「思ったよりFWが受けてしまい、消耗戦になってしまった。前半を0-14で折り返し、後半の入りを自分たちに有利な陣地で戦いたかったが、逆に熊谷の息を吹き返させてしまった。」

最後のノーサイド

熊谷工業 橋本監督から、選手たちに向けてのメッセージ
「3年生たちがなかなかレギュラーに名を連ねられない年だった。『どうしたらレギュラーになれたのか』これからの人生で学んでいって欲しい。1・2年生は(これを糧に)頑張るでしょう。」

熊谷工業 佐々木キャプテンから、準決勝に進んだ熊谷に向けてのエール
「このまま勝ち続けて、花園に行って欲しい。」

熊谷 永嶋キャプテンから、熊谷工業へのエール
「全力で熊谷対策をしてくれた。だからこそ、僕たちも全力で向かっていくことが出来た。絶対に優勝する。ありがとうございました。」

 

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