なんとか1トライを返したい福岡工大は、後半25分。敵陣22m手前からインゴール直前で止まる絶妙なキックを蹴ると、日大は堪らずキャリーバック(ディフェンス側の選手が、インゴールにボールを持ち込むこと)をし、ドロップアウト(ディフェンス側の選手が、自陣のインゴールでグラウンディングすること)を選択する。
福岡工大ボールの、5mスクラム。この日一番のトライチャンスに、会場中の人々が自然と拍手を送っていた。なんとか1トライを取ってほしい、そう後押しするかのように。
そんな観客の拍手に背中を押された工大は、スクラムからボールを出すと展開しFWは体をぶつける。そしてついに、20番・平井喬士選手がインゴールに飛び込んだ。
念願のトライ!かと思われたのも束の間、残念ながら短い笛はグラウンディング直前にノックオンしたとの判定。トライは幻に終わってしまった。
苦しい時間帯、なかなか自分たちの思うようなプレーが出来ない時にも、福岡工大の香山海渡キャプテンはずっと声を出し続けた。
「キックオフから行くよ!」「ディフェンスから工大!集中するよ!」最後尾、グラウンド深く構える15番のキャプテンは、体を張って日大からジャッカルも決めた。
ふと福岡工大のベンチに目をやると、そこにはひとつのジャージとひとつの写真が。
今春、不慮の事故で亡くなった仲間が、ベンチから工大フィフティーンの勇姿を見守っていた。だからこそ、なんとか1トライを取って帰りたかった。
香山キャプテンの手首には、急逝した仲間の名前が書かれていた
しかし、残念ながら工大の願い届かず吹かれたノーサイドの笛。
108-0で、日本大学が準々決勝への進出を決めた。