大会がなかったら、僕たちの優勝はなかった。進化できることに感謝|高校選抜ラグビー <決勝>

ハーフタイムに入ると、藤原監督は桐蔭学園の面々に「このままだと100点ゲームだ」と声を掛ける。

「自分たちができることをしろ、と言われたので、まず流れを変えなきゃなと思って。スコアも離れていたし、自分たちのやってきたことを出すためにチャレンジをしました」と話したのは、小椋ゲームキャプテン。

後半最初のトライは、そんな小椋ゲームキャプテンが左サイドでパスを受け、ポール真下まで走り切ったことで生まれる。「トライはたまたま」と話したが、流れを変えるために自ら体を張り、ラインアウトディフェンスにもチームメイトのサポートにも頭を入れ続けた結果が、トライに結び付いた。

しかしその後も東福岡に2本のトライを許すと、後半15分過ぎには14-43と29点差まで開いていた。桐蔭学園は、反撃の糸口を探す。

そんな時、グラウンドから大きい声が響く。

「ゆうごくん、出せよ!出してこい!」

声の主は、15番の矢崎由高選手。花園で鮮烈な印象を残した、1年生フルバックだ。

ゆうごくん、とは1学年上のスクラムハーフ・小山田裕悟選手。バイスキャプテンでもある先輩SHに対し、ラックからの素早い球出しを要求した。

「負けている中で自分が前に出ないと、チームが勝つ道はないと思った。だから、ボールを回して欲しいと要求を出した」と語った矢崎選手。

自陣でボールを手にすると、相手との間合いを図りながらステップで交わし、一瞬で置き去る。

後半18分と24分に2本、誰の手も掛からないまま圧倒的なスピードとコースセンスで、50m以上走りぬいてトライを奪った。

反撃のきっかけを、1年生エースが作る。

残り6分で、12点差まで詰めた桐蔭フィフティーン。

あと一本、矢崎選手がどこかで抜けたらもしかすると・・・という雰囲気が、会場を包む。

だからこそ、矢崎選手も声を出しボールを要求し続けた。だが、3度も同じ過ちを犯さないのが東福岡。きっちりとタックルに入り、ノックオンを誘った。

「あと2歩3歩、東福岡さんには届かなかった。次はもっと走って、前に出たいと思います。」

最後は東福岡がペナルティゴールを決め、15点差でノーサイド。

「しんどい時に最後まで体を張れなかったし走れなかった。そのことが自分の中で今、とても悔しいです。(小椋ゲームキャプテン)」

桐蔭学園にとって、今大会が今季初試合。この5試合しか、まだ経験していない。

悔しい敗戦を胸に、桐蔭学園は冬に向けて剛毅なチームを作り上げる。

 

***


ノーサイドのホイッスルが鳴った瞬間、拳を突き上げた東福岡の選手たち

試合後、藤田監督が優勝インタビューを答えている時のことだった。

選抜大会が開催されたことへの感謝の言葉が述べられると、ひとり、楢本選手は頭を下げた。

「大会運営の方々がしっかりと開催してくださった、感謝の気持ちで頭を下げました。大会がなかったら、僕たちの優勝はなかった。進化できる場を作ってくださったことに、感謝しています。」

そう、春の選抜はチームのスタート地点であり、自分たちの立ち位置を図る場。強くなるための、始まりの大会だ。

Mustと位置付けた今季4冠に向け、選抜優勝というスタートからどんな進化を続けるのか。八尋組の覚悟に、注目したい。

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