HISTORY of PANASONIC Wild Knights
準決勝が無観客で行われることが決定した後。
あるワイルドナイツファンが、こう心境を教えてくれた。
「言葉にできないもどかしさや、どこに向ければいいか分からない悔しさ。色んな想いが混ざって上手く表現できませんが、ただどこで応援していても、気持ちの強さに変わりはありません。」
例え、スタンドにファンがいなくても。TVの向こうで必死に声援を送るその声を、選手たちはしっかりと理解していた。
だからこそ、この日ゲームキャプテンを務めた布巻峻介選手は「お客さんに見て欲しかった」と語った。
「予想通りの『ザ・プレーオフ』という試合でした。前半プレッシャーを掛けられる場面もありましたが、ベンチから出てきたメンバーたち含め良いインパクトを与えてくれたと思います。大きなプレッシャーが掛かった場面で集中力を失ってしまう所もありましたが、布巻選手が上手くマネジメントしながら戦ってくれたと思います。(ロビー・ディーンズ監督)」
前半35秒でのノーホイッスルトライは、チームに勢いを与えるかと思われた。
しかし実際には、スコアを奪われた側であるトヨタに、吹っ切った攻撃を仕掛けられてしまう。
立て続けの3トライ。
前半15分で、5-15と10点のリードを許した。
2つめのトライを奪われた後に組まれた円陣。「気持ちだけは切れることなく、いつかチャンスがくると信じて自分の仕事に集中しようと話した。(布巻ゲームキャプテン)」
流れが変わったのは、後半15分を過ぎた頃。ハーフ団含めた3枚の交代カードを一気に切った後だった。
スタンドオフの山沢拓也選手は、ロングキックを交えながら流れを手繰り寄せ始めると、後半20分。
21番・小山大輝選手がパスアウトしたボールを受け取れば、1人外に余らせながら縦に勝負しトライを決める。試合冒頭、福岡選手が決めて以来の2本目のトライを、出場わずか3分で奪った。
この日初めて6点以上のリードを得ると、堀江翔太選手は「楽しもー!」とチームメイトに声を掛けた。
緊迫感漂うプレーオフでのシーソーゲームを「楽しむ」気持ちを持つ。それがいかに重要で、難しいことか。
しかし、経験豊富な、世界中から高い評価を得ているベテランフッカーが言うと、なぜか楽しめる気がしてくるから不思議だ。
パントキックへのチェイスに、縦に切り込む最後尾からのランに。楽しむ、を体現したのは15番・野口竜二選手。
ピンチの場面で幾度となく足に絡みついたかと思えば、積極的にゲインラインを切ろうとチャレンジした6番・長谷川崚太選手もいる。
一方、独走ランの最中には全身から「楽しい」が溢れ出ていたのは、福井翔大選手。
シーズンを通して献身的なプレーが目を引くこの3選手は、花園の地でも自らの役割を全うした。
なかなかパナソニックらしいプレーが見られない時間が続いた苦しさも、プレーオフだからこそ。
しかしチームは、ラスト20分で4トライを取り切る力を養っていた。
「どうしても登録メンバーの23人に目が行くと思うが、このチームを支えているのは、その3・4倍のメンバー。普段の練習でBチームが仮想の対戦相手となる時も、Bチームの選手たちがAチームに試練を与えています。(ディーンズ監督)」
チームの総合力が、決勝の扉を開けた。
リーダー陣である谷昌樹選手・金田瑛司選手、そしてエセイ・ハアンガナ選手はメインスタンド前方から見守った。他にも坂手キャプテンはピッチサイドから、高城佑太選手・藤井大喜選手はビデオ係として、ベテランの笹倉康誉選手はこれまで通りウォーターとして役割を全う
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冒頭紹介したワイルドナイツファンは、最後にこう付け加える。
「現地に行くことは出来ないけれど、ラグビーが見れること。テレビの前だけど、大好きなチームを応援出来ること。そんな時間を幸せに思います。」
見に行くことが出来なかった、準決勝。
あと1試合、大好きなチームを会場で応援できるチャンスを、大好きなチームが勝ち取ってきた。
5月23日、秩父宮ラグビー場にて。
5度目のトップリーグ優勝、そして6度目の日本選手権優勝を懸けて、パナソニック ワイルドナイツは決勝の舞台に立つ。
ノーサイド後、笑顔溢れる選手たち
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