後半2分、14番・中鶴隆彰選手によるノーホイッスルトライは、まさしく今季サントリーが見せ続けてきたアタックの集大成だった。
全ての選手がコネクトし、全ての選手のアイディアで一つの画を作り上げる。これこそがサントリーサンゴリアスのアタッキングラグビーだった。
準決勝の後、中村主将は言った。「アタッキングラグビーを遂行するために、日本一のディフェンスをしなければならない。」
トランジションの早いパナソニックが相手。チャンスの後に訪れるピンチに、何度も後ろに走ったバックスリー。
そして残りのメンバーも、すぐにサポートについた。だからこそ後半は、「後半に強い」と言われるパナソニックに、1トライしか許さなかった。
流大選手は、後半15分、パナソニックにとって後半唯一となったトライ後のコンバージョンゴールを、全力で走ってチャージした。
2シーズン前の悔しさを知らない、入団1シーズン目の齋藤直人選手は、ポール真下に向かって全力で走り込み、後半30分、トライを奪った。
今シーズン、ずっと輝きを放っていたボーデン・バレット選手。
この日はパナソニックの堅いディフェンスに阻まれ、中々ゲームを優位に進めることができなかった。
それでも、タッチキックは常に正確。少しでも陣地を前に進めるため、1センチでも前に蹴り続けた。
「ナイスボーディー!」
仲間からキックを蹴る度に声が掛かったのは、最大限の信頼を得ている証だ。
後半21分から、バレット選手に代わってスタンドオフのポジションについた田村煕選手。
左手首のテーピングには、戦術と思われる細かい文字が並んでいた。兄・優選手も、手首のテーピングにはたくさんの言葉を書き込むタイプ。攻撃をコントロールする司令塔というポジションにおいて、念の準備が見受けられる。だからこそバレット選手は、田村選手に試合途中からスタンドオフのポジションを譲ることを「全く問題ない」と、才能と努力を認めた。
そしてその期待に応えるようにして、後半38分、田村選手の縦に突いたプレーから尾崎晟也選手のトライは生まれた。
それでも、届かなかった、あと5点。
準優勝カップを受け取ったサントリーの面々は、静かに、誰一人として言葉を発さず、ゆっくりと表彰台から降りていった。
バックスタンドの観客席に挨拶をした後、齋藤選手は、同じスクラムハーフの先輩・流選手に声を掛ける。そして、グラウンドのあちこちを指差しながら、真剣な表情で言葉を交わした。
数分前に終わったばかりのプレーについて話をしていたのだろう。
これが、この選手の強さだ。これが、このチームが強く在る理由だ。
負けを負けのまま終わらせない。再び悔しい思いをしないために。
2年前の雪辱は、来たる新リーグに持ち越された。
いや、今年の悔しさも加わったから、単純計算で2倍程の大きさになったか。
どんなチームに進化し、どんな戦いを新リーグで見せてくれるのだろう。
だが、今は。
この混沌とした日々に光を照らしてくれた選手たちに、感謝の気持ちをまずは送りたい。
サントリーサンゴリアス、楽しい1年間を、ありがとう。
フォトギャラリーはこちら