HISTORY of PANASONIC Wild Knights
スクラムから出てきたボールを山沢拓也選手が蹴り出すと、ピッチにいた選手も、スタンドで見守っていた選手も、全員が空高く拳を上げた。
試合中、体と体がぶつかる音が何度聞こえただろうか。
その度に観客席からは、どよめきが起きた。
全員が体を張った。
全員が接点、ブレイクダウンでの規律を守った。
80分通して与えられたペナルティは、僅か5つ。
それが、このチームの最大の強みだった。
思わず息をのんだ回数を数えると、きっと両手では収まりきらない。
前半4分、ディラン・ライリー選手の華麗なるインターセプトトライ。
前半27分、野口竜司選手が自ら蹴り上げたショートパントを獲得し走り出すと、内側で並走した福井翔大選手にオフロードパス。準々決勝・準決勝と同じく、福井選手はインゴール目の前まで迫った。
後半3分、ボールを持ったサントリー・中村主将に対してタックルに入った布巻峻介選手。そして後ろから駆け付けたベン・ガンター選手と共に、押し倒した。
後半4分、裏をついたハイパントに走り込んだのは稲垣啓太選手とジョージ・クルーズ選手。疲れが溜まった時間帯でも、フォワードが全力でボールを追いかける。
これら全てが、このチームの「スタンダード」だ。
この試合、キーワードとなった数字がある。
『2』
2人の、という意味だ。
ワールドカップを経験し、今シーズンから加わった2人の外国人選手。ジョージ・クルーズ選手とハドレー・パークス選手は、攻守にわたって地道な、そして重要な役割を担った。
ディーンズ監督は「シーズン通して一貫したパフォーマンス。能力をチームに落とし込み、周りにいい影響を与えてくれた」と2人を絶賛した。
21歳コンビの成長も目覚ましい。
前半20分、セミシ・トゥポウ選手がサントリー・尾崎選手に見舞ったタックルは、ベストタックルオブザイヤーを贈呈したい程のタイミングとインパクトを残した。
後半32分、ベストタイミングでジャッカルに入ったのは福井翔大選手。自身が課題にあげるディフェンス面でも、今シーズン頭角を現した。
2人の10番の存在もある。
ロビー・ディーンズ監督は、試合後の記者会見で「若い2人の10番を誇りに思う」と切り出した。
「トップリーグの歴史において、2人の若い日本人の10番が優勝を手にしたのは、日本ラグビー界にとって良いこと。2人がよくやってくれた」と褒めちぎった。
そして、こうも付け加える。
「2人が次のワールドカップで戦うには充分に力がある、相応しいプレーヤーであるということを示してくれたと思う。」
テンポを変えゲームに勢いを変えた小山選手と共に94年組で。流れをもう一度引き寄せた小山選手渾身のジャッカルについて、DFリーダーを務める堀江選手は「うちはハーフの立ち位置が他のチームと少し違う」と話す
これが現役ラストゲームになるかもしれない、2人のプレーヤーもいた。
福岡堅樹、医学部1年生。シーズンが深まるごとに研ぎ澄まされた危機察知能力は、ピンチの場面で最大限の効力を発揮した。抜群のアタックセンスはもちろん、福岡選手のディフェンスに魅了された80分だった。
ヒーナンダニエル、39歳。ディーンズ監督は「ワイルドナイツの心臓」と彼を評す。ある海外メディアで引退が報じられた功労者は、後半5分にピッチを退いた後も、次々と交代しベンチに戻ってくる選手たちを出迎えるため、ピッチサイドを動き回っていた。
「長年チームに貢献し続けてくれた。年を重ねても落ちることないパフォーマンスは、今日も素晴らしかった。次世代の選手にも良い模範として体現し続けてくれたと思います。彼は永遠に引退することはないでしょう。(ディーンズ監督)」