The Side of 東洋大学
キックオフ1時間前から響いた、東洋大学ラグビー部の声。
背番号を背負えず、チームスーツを着て観客席に座るノンメンバーたちは、ピッチに立つ仲間のモチベーションを上げるべく声を出し続けた。
「去年(リーグ戦2部で)優勝したにも関わらず、入替戦を行うことが出来なかった4年生たちがたくさん見に来てくれていた。ぶつける所がない思いを持ったOBたちを見たら、試合前から色々なものが込み上げてきていた。(福永昇三監督)」
練習終わり、ベンチ前に綺麗に整列された13個の楕円球。
「任せたぞー!」
キックオフ直前、観客席から響いた。
ボールを持てば、前へ。
ひたすらに、インゴールへ向かって前へ。
気持ちの強さが、キックオフの瞬間から体現されていた。
「ノーペナルティでいこう!」
「落ち着いて!」
仲間の声には冷静になりながら、しかし気持ちは全開で。
全ての選手から、130%の想いが伝わってくる80分間だった。
恐怖心、が全くみえない東洋。
ハイパントにはひるまず飛び込み、ボールキャリアには果敢に体を当てる。
ディフェンスが続いた後半序盤も、しっかりと要所要所で仕留め、相手に決定機を生ませなかった。
後半19分、この試合で初めて追いかける展開になると、ハドルの中で声が掛かる。
「2点差!ノーペナノーペナ!ぜってー勝つぞ!」
「頼むぞ!」
後半21分、1番・松田新之介キャプテンがボールを持つと、タックルに入ったのは相手のキャプテン。
互いの想いが、交差する。
2点を追いかけ、敵陣5mでのマイボールラインアウトからラックでFWを当て続けた東洋陣。
一度はターンオーバーされてしまうが、外に展開されボールが乱れた所を、11番・杉本海斗選手が飛び込んで先にボールを地面に押さえた。
後半27分、再びリードを奪い返す。
21-26と、5点のリードを奪った後の円陣で発せられれた言葉は
「この40分に人生かけようぜ。」
残り時間、5点を守り切る覚悟が生まれた。
ノンメンバーたちも、声が枯れるほどに声を出す。
後半76分、自陣5mで相手ボールラインアウトになると
「楽しもう」「東洋ディフェンス!」「東洋耐えてけ耐えてけ!!」
ランニングタイムで84分30秒を回った頃には、観客席のノンメンバーたちは全員が立ち上がっていた。
そして、ノーサイドの笛が吹かれると、この日一番の歓声が会場中に響いた。
試合後、紺色のジャージを纏った23人はベンチの前で整列すると、ノンメンバーに向かって笑顔で拳を掲げた。
そしてキャプテンは、監督と長い抱擁を交わす。
「今日は、今まで積み上げた小さなことが重なって出来たプレーが多かったと思う。選手・スタッフを信じてやってきて良かったな、と思います。
終盤のディフェンスが続いた時間帯も、不思議と『このままトライされることはないな』という自信があった。
最後は気持ちの部分。体を張って、ディフェンスから勢いをつけていこうと話をしました。(松田キャプテン)」
バックスタンドに詰めかけた、ファンや保護者、学校関係者にOB、そして昨年の4年生の元に駆け寄った選手たちは、一様に涙を流した。
「去年は、リーグ最終戦が終わった後に入替戦がないと連絡がきた。(当時の)4年生が涙を流していた。心にぽっかり穴があいたような気持ちでした。
新体制になってからは、コロナの状況下でもラグビーが出来ていることを忘れずにラグビーに取り組んでいて。夏合宿も行けて。
1年通して、感謝の気持ちでいっぱいでした。
最後、結果で恩返し出来て良かったと思います。(松田キャプテン)」
Tシャツに書かれた「We Achieve」の文字。
言葉通り、東洋大学ラグビー部は29年ぶりの1部復帰を果たした。
フォトギャラリーはこちら