大分東明の『エンジョイラグビー』に込められた想い。「ラグビーを選んでくれた生徒たちにはラグビーを好きになってもらいたい」|サニックスワールドラグビーユース交流大会2022

大分東明高校が掲げる『エンジョイラグビー』

そこには、白田誠明監督の「ラグビーを選んでくれた生徒たちには、楽しい思い出を作って欲しい」という想いが隠されている。

大分東明高校ラグビー部を率いて11年目。白田監督のモットーは「成長出来た部分の評価は必ず伝えること」だ。

「あそこ良くなったね」「ここ出来てるね」「あとは何が足りない?」

生徒たちが一つ一つの細かい成功体験を積み重ねられるよう、声を掛ける。

「僕自身、やっぱり褒められたほうが嬉しいので(笑)。何よりエンジョイラグビーを代名詞としている以上、彼らには楽しんでプレーして欲しい。ラグビーを選んでくれた子どもたちにはラグビーを好きになってもらいたい、というのが一番です。」

もちろん、各カテゴリーの代表に選出されることがベスト。でも現実は、代表に選ばれない選手の方が圧倒的に多い。

「そういう圧倒的多数の選手たちの子どもがラグビーをしてくれる、ラグビーの土壌に帰ってきてくれる環境を作りたいんですよね。」

例えば高校時代にラグビーをしていたお父さんがラグビーを好きだったら、子どもにもラグビーを勧めるのではないか。「何かしらラグビーに関わって人生を歩んでくれるといいな、と思って。」

今この瞬間だけのエンジョイではない。

2代、3代と続くラグビーの灯を照らし続けるためのエンジョイラグビーを目指しているのだという。


日本一にもなりたいとは思う。だけど最後は、「この競技を選んで良かった。この部を選んで良かった」と思って欲しい。「監督の名前ではなく、大分東明高校ラグビー部、という価値が上がった方が良いですよね。部の名前で人が集まってくれる方が嬉しいです。」

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2019年にラグビーワールドカップが行われると、大分県はフィジーのキャンプ地になった。その縁が繋がり、大分東明はフィジーからの交換留学生を受け入れるようになる。

選手選考は決して机上で行わない。白田監督らが実際にフィジーまで足を運び、ディーンズトロフィーと呼ばれる年代別の全国大会を視察。2週間ほど滞在し、フィジーの学校を周りながら候補生を直接面談するのだ。

「実際に目を見て、顔つきを見て。意志や人柄を確認してから、声を掛けるようにしています。」

だからフィジアンたちはチームにフィットする。

現在3年生には、No.8のダウナカマカマ・カイサ選手と、センターのナブラギ・エロニ選手が所属。2人は共に今年度の高校日本代表候補に選ばれた。

無論受け入れる方にも覚悟がいる。フィジーとは物理的距離があるため、何かあっても気軽に帰国させることは出来ない。

実は昨年末エロニ選手の父親が他界。しかしコロナ禍もあいまって、フィジーに帰ることが出来なかった。

「フィジーにいるお母さんから泣きながら電話が来ていましてね、あの頃は。」

たった17歳の男の子。如何にしても、心がざわついてしまう時があった。

そんな時、白田監督はエロニ選手を自身の家へ連れて帰り、家の風呂に入れ、白田監督の子どもと遊ばせ共に食卓を囲んだ。

「フィジーの家族にはどうしたって会えない。ここが日本の家族だ。」

心の不安定な時期を、『日本の家族』として支えた。

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3月に行われた選抜大会では、2回戦で前年度の花園王者・東海大大阪仰星と対戦。前半28分まで相手をノートライに抑える善戦を繰り広げた。

その僅か1ヶ月後に行われたサニックスワールドラグビーユース交流大会2022で再び対戦すると、今度は12-64と大きく点差を開かれてしまう。

手が届きそうに見えた頂が、再び遠くなる。浦山丈キャプテンは試合後、責任を感じ涙した。

「『僕のミスで』って言っていましたね。でも、ミスよりも助けてもらったことの方が多いんです。だからいい、と。差し引きしてもプラスだよ、と伝えたんですけど。」

そんな白田監督の言葉に、静かに頷く浦山キャプテン。人一倍責任感の強いキャプテンは、出来たことよりも出来なかったことに悔しさを滲ませる。

「これまでの大分東明は、ミスをしたらチームの雰囲気が落ちてしまう癖がありました。声を出す人も限られていて。だから今年は全員で声を出して、ミスをしても全員でカバーしみんなで対応策を口に出せるチームにしていきたいと思っています。僕自身も喋ることが得意ではないので、キャプテンとして試合中もっと声を出したい。声で引っ張っていけるキャプテンになりたいと思います。」


「信頼される人になりたい。」一つ一つ紳士に、適切な言葉を探し出す浦山キャプテン

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選抜大会で現在地を知り、ワールドユースでも4位。

「やれば勝てるんだ、という所に気付き始めたように思います」とは、白田監督。

浦山キャプテンも「ゲーム理解度が上がった。試合を通して自分たちのやりたいラグビーが少しずつ分かってきた」と手応えを語る。

もっと上にいると思っていたチームと互角に戦えることを知った春。

ベーシックスキルにこだわり、畑に肥料を蒔き、土壌を耕した。自分たちが積み重ねてきたことに間違いはなかった、と自信を得た。

いよいよ訪れる夏、枝葉を伸ばすためのプランニングがこれから始まる。

「ベーシックな部分が出来ていないと、土台が大きくないと上には大きく伸びません。その部分はこれからも大切にしていきたいと思います。」

4月からはコーチも増え、およそ70名の部員を見守る大人の目が増えた。

「現在のラグビーをプレーヤーとして実際に体感した横山陽介(3月末までNECグリーンロケッツ東葛でプレー)先生ら新しいスタッフが4月から加わりました。年齢も生徒たちに近いですし、経験した人の言葉の重みを理解してくれるといいな、と思います。」

最後に一つ、白田監督が選手に掛けた言葉を紹介したい。

ワールドユースでのとある試合中、キツい時間帯に走らず歩いてしまった大分東明の選手がいた時のことだ。

「君がゲインした時に一体何人が一生懸命走ったのか。自分だけ良い所を取ってどうする。君も、他の人のために働こう。」

One for All, All for One.

1人では決して楽しい思い出を作ることは出来ない。

エンジョイラグビーの根底には、仲間を想うそれぞれのハードワークが秘められていた。


相手がどこであろうと、自分たちの強みを出せるチームになる

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