優しく強く進化した東福岡、5年ぶりの決勝進出で準優勝。緊急事態も「お前のお陰で乗り切れた」|第9回全国高等学校7人制ラグビーフットボール大会 3日目

「すごく良く頑張ったと思います。良い試合を見させてもらいました。最後まで諦めないで頑張ったから、そこはちゃんと評価してあげたいな、と思って。」

第1回大会から東福岡高校のセブンズチームを率いる稗田新コーチは、試合後、優しい眼差しで生徒たちを見つめた。


報徳学園・伊藤利江人キャプテンと握手を交わす稗田コーチ

一度もリードを与えなかった準決勝・國學院栃木戦とは対照的に、報徳学園との決勝戦では2トライの先行を許す。

立て続けての失点に膝をつくのは、東福岡10番・西柊太郎選手。6番・上嶋友也選手、11番・石原幹士選手らも腰に手を当て、天を仰いだ。

待望のファーストトライは前半4分。

7番・永井大成選手が蹴り込んだキックパスに飛び込んだのは12番・高木城治選手。マイボールをキープし永井選手が粘れば、最後は1番・舛尾緑選手がインゴールに持ち込んだ。

5点を返し5-14。9点差に詰め寄る。

しかし喜びも束の間、報徳学園は更に2トライを追加。

タックルに入るも止めきることの出来なかった高木選手は、暫くの間その場から動くことが出来なかった。


勝負事なので悔しかった。(高木選手)

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前半を終えて7-26。

勝負をひっくり返すには厳しい点差だったが、例えどれだけスコアが離れようとも、諦めず最後までトライを狙い続ける。

後半1分、12番・高木選手のキックパスに反応したのは7番・永井選手。全速力で追いかけ、インゴールに飛び込んだ。

続く後半2分にも敵陣でマイボールスクラムの機会を得ると、大外まで回し切り7番・永井選手が地面につける。

残り時間3分。17-26と再び9点差まで戻したが、後半5分に報徳学園に追加のトライを許し14点のビハインドに。

厳しい結果が目の前まで迫っていたが、しかし誰も最後まで諦めることはない。2番・大川虎拓郎キャプテンが見せたインターセプトからのビッグゲインは、チームの戦う姿勢を体現した。

「そこが大事です。」稗田コーチは笑顔で選手たちを称える。

17-31。

今季初のタイトルとは、ならなかった。

準決勝の早い時間帯で、高本とわ選手が負傷。準決勝・決勝と急遽フル出場することになった高木城治選手は、14分間の短い戦いを終えると、悔し涙を流した。

カップトーナメント1回戦・京都工学院戦では、ボールボーイに渡す球の軌道が少しばかり逸れてしまうと「ごめん」と手で合図をし自らボールを取りに行った高木選手。

準決勝・國學院栃木戦では、担架で運ばれる仲間のもとへ赴き、手を差し伸べてから自らの次のポジションにつく優しさも見せた。

目を赤く腫らす功労者に向けて、稗田コーチは温かく声を掛ける。

「緊急事態を、お前のお陰で乗り切れた。感謝しかない。だから泣かなくていい。」

高木選手は「もう泣かないです」と笑って返した。


「良い緊張感の中出来た3日間。茗溪学園戦、そして今回の報徳学園戦。良い経験になったな、と思います。(高木選手)」

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第1回大会で初優勝を飾り、3・4回大会で連覇を果たした。

しかし以降はベスト8、ベスト4止まり。決勝戦進出は、実に5年ぶりのことだった。

「久しぶりに選手たちが決勝まで連れて来てくれて。一緒に楽しくやれてよかったです。」

決勝戦前、稗田コーチは選手たちに「これで最後。楽しんで来い」と声を掛け送り出した。

もちろん敗戦の悔しさはあるだろう。だけど「楽しめたんじゃないですかね」と、顔を見て思う。

試合後はバックスタンドへ挨拶に向かった選手たち。大川キャプテンが「3日間応援ありがとうございました」と言葉を発すると、揃って頭を下げた。

両キャプテンが監督挨拶へ向かうと、東福岡ベンチ前ではそっと報徳学園・伊藤キャプテンの背中に手を当て先を譲った大川キャプテン。

「コロナ禍でも大会が行われたことに感謝しています。試合が出来るからこそ色んな発見がある。決勝戦で報徳さんと試合が出来たことも、言葉で言い表せない想いです。新しい発見もさせてもらって、感謝しています。」

新チームになって初めての全国大会で行われた主将インタビューは3月末。あれから4か月弱が経った今、随分と落ち着き、自信を持った表情と真っ直ぐな言葉選びに驚く。

なぜかと振り返れば、新チーム発足当初、大川キャプテンは藤田雄一郎監督から一冊の本を渡されていたことを思い出す。藤田監督が読み込み、至る所にマーカーが引かれた『「人を動かす人」になるために知っておくべきこと』。丁寧に読み進めた後、関連書である『「人の上に立つ」ために本当に大切なこと』を自らで購入していた。

「中学の福岡県選抜でキャプテンを任された時は、プレーで見せるタイプでした。ヒガシのキャプテンをするにあたって自分に足りないもの、と考えた時に必要だと思ったのが、伝える能力です。思っていても口にして伝えなければ言わないことと同じ。伝えていかないと相手は動かない、ということを学びました。」

学びの成果は、しかと表れた。

 

選抜大会を経て「強い男は優しい」を学び、そして各々が行動で表現するまでになった東福岡の選手たち。

春、それぞれの想いを抱いた高校生たちは、夏の始まりに優しく強く進化した。


集合写真では定番となったニンニンポーズ。考案者は写真右下の藤原虎之介選手。「高木選手に忍者に似ていると言われたのが高2の冬。それから約半年、忍者やらせてもらってます!」

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試合後コメント

大川虎拓郎キャプテン
自分たちなりに準備をしてきたつもりでしたが、その上を行った報徳さんには本当に「凄いな」という気持ちでいっぱいです。本当にびっくりしました、試合してみて。

もちろん凄いということは知っていたのですが、いざ対面してみると、一人ひとりのステップとランスキルが別格で。一瞬で目の前から消えるようでした。

自分たちとしてはターンオーバーしていきたいと思っていたブレイクダウンが少なくて、対策されていましたね。大外まで振られてもそのままラックを作らずにボールを回されてしまい、それで枚数がずれてしまいました。

(諦めずに最後まで戦ったことについて)諦めるということは一番良くないことだと思います。ここに来ているのはサポートメンバー含め17名。福岡に残してきた仲間もいて、ライブ配信もされていて、たくさんお客さんも来てくれているので、そういう姿を見せてはいけないと思っていました。今出来る最大の力を出して行こう、と。

今年はDFに自信もありましたが、いざたくさんトライを取られてしまうとコミュニケーションの部分や1対1でのDFの弱さという部分が見えてきました。そこを修正しないと15人制でも同じことが起きると思います。福岡に帰って、花園までに修正していきたいです。

舛尾緑選手
初日は上手く行き、2日目の茗溪学園戦で成長出来ました。報徳と國栃は似ているチーム。準決勝の國學院栃木戦で上手く行ったので「決勝戦でも同じようにやっていこう」とみんなで話していました。

敗因はボール支配率だったかな、と思います。自分たちもキックオフキャッチを準備して、茗溪戦でもキックオフキャッチから2トライ取れていたけれど、報徳の方が一枚上手でした。

(夏に向けて)この悔しさを忘れず、花園で一冠取って終われるように。選抜・セブンズと続けての準優勝なので、夏はディフェンスの部分で更に成長していきたいです。ラグビーはディフェンスです。


フィジカルを武器に奪った準決勝1つ目のトライが自身のベストトライ

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