60分の物語
東海大大阪仰星
「これまで、メディアの前で僕は『連覇は気にしていない、プレッシャーに感じず自分たちのラグビーをやる』とずっと言ってきました。
だけど僕自身は正直、仰星が成しえていない連覇を達成したい、という気持ちがあって。
偉大な先輩方に続きたい。去年経験した優勝の景色を、今の仲間と見たい。
ずっと思っていたことが出来なくて、悔しいです。」
1年間、胸の内に秘めていた想いを初めて口にした時。松沼寛治キャプテンは、言葉を詰まらせながら大粒の涙を零した。
先制のトライを奪った。
前半2分、そして11分。ラインアウトモールを押し込み、2番・山本琉聖選手がスコアラーとなって勢いに乗ることができた。
しかし「1人1人の接点で圧力を感じ、報徳学園の気持ちを受けてしまった」とは松沼キャプテン。
報徳学園の力強いボールキャリアに差し込まれ、ディフェンスラインを押し下げられる展開が続く。
HO山本選手も「報徳学園さんのFWの強さに圧倒されてしまった。中盤でも前に出られてしまう場面があった」と話した。
無論、スコアされることは想定内だった。
2トライを先行した後も、敵陣にボールを置いて相手にプレッシャーを掛け続けよう、というゲームプランだった。
だが、ボールを持ったら強い報徳学園。簡単にはボールを奪い返すことができない。
敵陣22m内でボールを持てた時間帯は、ほとんどなかった。
「前半守り切って折り返していたら良かったが、報徳さんの地力で2本取り返された。後半もここぞという時のエラーがいっぱいあった。自分たちが手放してしまいました。(松沼キャプテン)」
後半も畳み掛けられた報徳学園の攻撃。
「ゲームが動くのは、後半の15分。」
そう声を掛け続けていた松沼キャプテンは、後半25分、敵陣5mでのマイボールスクラムから松沼キャプテン自らが持ち出した。
ゲームを動かすべく、フィジカルも心も強いキャプテンが、力強くインゴールに迫る。
だが、タックルを受け前進できない。ラックが形成されると、パスアウトしたボールを報徳学園のエースにインターセプトされ、95mの独走トライを許した。
「自分たちがやろうとしていた、決められたことを遂行できなかった。それが一番の敗因かな、と思います。」
ゲインラインを切られる展開が多かった。必然的にDFのセッティングも遅れ、ペナルティに繋がってしまった。そこが敗因、と認識する。
前年度優勝ジャージを着ることの重み。チームを作り上げる、難しさ。
松沼キャプテンは言う。
「このジャージを着て花園の舞台で戦うことは、これまで長い仰星の歴史が積み上げてきた偉大な記録、伝統を受け継ぐということ。
それをグラウンド上で表現したかった。
だけど、去年優勝してからのスタート。1人1人の意識が甘い時期もあって。なんとなく「自分たちもやれるんじゃないか」という思いもあったように思います。
そこがベスト8敗退、という結果に繋がったんじゃないかなと感じています。」
東海大大阪仰星ラグビー部主将として、ノーサイドの笛が鳴っても主将たる姿を貫いた松沼キャプテン。
仲間たちが嗚咽を漏らす中、相手監督のもとへ挨拶に走り、グラウンドを後にする際には誰よりも深く長くお辞儀をした。
グラウンドの中では、崩さなかった主将としての姿。
しかし涙に暮れたインタビューを終えると、やっとの思いで立ち上がり、ロッカーへと足取り重く引き上げる。
道中、右手から落ちたヘッドキャップ。
落ちたことに気付いたのは、数歩歩いた後だった。戻り手を伸ばす仕草も、スローモーションに映った。
ジャージの左袖には『響』の文字が。響き響かせ響き合う1年が、幕を閉じた