東福岡には、選手はもちろん、監督・コーチ陣全員が口を揃えて「あの日があったから」という瞬間がある。
準々決勝・佐賀工業戦前日の、1月2日。
勝つ保証はないのに、チーム内にどこか漂っていた『勝てるんじゃないか』という雰囲気。普段は中々声を上げない藤田監督が、前日ミーティングで喝を入れた。
「花園をなめるな、佐賀工業をなめるな。」
ミーティングでは初めて、という藤田監督の檄。そこで一つ、兜の緒が締まった。
「佐賀工業は甘くない。足をすくわれるぞ。」
結果的に、後半21分に逆転して手にした勝利。
「佐賀工業戦を乗り越えたことが良い薬になった。準決勝・京都成章戦前のミーティングは見事でしたね」と、藤田監督も選手たちの成長に目を細める。
長く、高く立ちはだかったベスト4の壁を越えた瞬間。
藤田監督が選手たちに最初に伝えた言葉は「ありがとう」だった。
1人ひとりの手を握りながら、感謝の気持ちを伝える。「彼らに一番最高の舞台に連れて行ってもらって、ありがとう、しかなかったです。」
新たな歴史を作った選手たち。だが、ノーサイドの笛が鳴った時、誰一人としてガッツポーズを見せる者はいなかった。
藤田監督は選手たちのそんな姿を見て、これまで積み上げてきた東福岡高校ラグビー部としての伝統に思いを馳せる。
「花園近鉄ライナーズのクウェイド・クーパーが、1部昇格を決めても喜ばなかったという記事を読んだんです。それを選手たちにも共有していました。勝つチームがあれば、負けるチームもある。そういうことが、選手たちに伝わっているのかな、と感じたシーンです。」
そして何より既に、選手たちの意識は後半最後の3連続トライの修正へと向いていた。
「関心しました。感動しました。選手たちはこの1年間、1月7日にターゲットを絞った生活をしてくれています。」
だから選手たちも、口を揃えて言う。
「自分たちの目標は、あくまでも優勝。ベスト4の壁を破れて嬉しい、よりも『ホッとした』という感情です。」