60分の物語
報徳学園
「勝つ気持ちはあった。だけどフィジカルの部分に差があった。ブレイクダウンで負けてしまった。」
植浦慎仁キャプテンは時折涙を流しながら、しかし力強く、60分を振り返った。
試合前、真っ先にバックスタンドへ挨拶に向かったのは報徳学園陣。
保護者やOBをはじめ、同じ学年の別の部活動(野球部やバスケ部など)の生徒たちも応援に駆け付けていた。
「自分たちのパワーになったなと感謝しています。」
多くの応援団に向かって、選手たちは笑顔で手を振った。
帰り道、いつものとおり植浦慎仁キャプテンは泉光太郎ヘッドコーチとハイタッチを交わす。
これが最後のルーティン。笑顔で、音を鳴らした。
運命のキックオフの笛がなると、くらった先制パンチ。
キックチャージを受け、開始1分に満たないノーホイッスルトライを与えた。
だが、動じるわけにはいかなかった。
「僕たちは101名の部員を背負っている。最後までやらなきゃだめだ」と、気を引き締め直す。
合言葉は「チャレンジャーがチャンピオンになる瞬間を、みんなで楽しもう」。
本物の日本一になるために重ねてきた、日本一の練習。
誰一人として辞めることのなかった、仲の良い3年生38人全員で。日本一の景色を、見よう。
2トライを先行され、12点を追いかける展開になると訪れた最大の見せ場は前半23分。
No.8石橋チューカ選手が両手をキレイに伸ばし、キックチャージに成功。ボールを獲得すると、10番・伊藤利江人選手、13番・炭竈柚斗選手と繋がり、そのままインゴールに飛び込んだ。
会場が沸いた。
注目のトイメン対決もあった。
東福岡13番のキャリーをタックルで止めたのは13番・炭竈選手。すぐにサポートが入れば、10番・伊藤利江人選手がボールを奪い取り再び炭竈選手が力強いキャリーで15m程陣地を返した。
仲の良い2人。試合後には泣きながら抱き合った
東福岡5番が自陣深くまで持ち込んだボールを取り返したのは、報徳学園5番・柏村一喜選手。
ともに高校日本代表候補であり、柏村選手も「負けたくない」と特別な意識を持つトイメンから、ボールを捕り返しガッツポーズを見せた。
バックスにも揃う、たくましい個。
11番・海老澤琥珀選手、15番・竹之下仁吾選手をはじめとするバックスリーへボールを託せば、必ずゲインラインを切る。
9番・村田大和選手もラックサイドを駆け抜け、大きく陣地を広げた。
12番・菊川迪選手は、それまで先発していた森田倫太朗選手(3年生)の負傷により先発を託された2年生。先輩たちの「ホートク、タックルしよう!」の声が届くと、相手5番に迷いなくタックルを決め、出足を遅らせた。
ラインアウトでもサインプレーを用意していた。
ショートサイドで5番・柏村選手が受け取り、更にその外側を7番・植浦キャプテンが走り込むというオプションを見せたが、惜しくもボールは後ろにこぼれる。
ゴールラインが遠い。