試合概要
第103回全国高等学校ラグビーフットボール大会埼玉県予選 準決勝
【対戦カード】
慶應義塾志木高校×昌平高校
【日時】
2023年11月11日(土)12:05キックオフ
【場所】
熊谷ラグビー場Aグラウンド
試合内容
慶應志木高校 14 – 24 昌平高校
慶應志木は59年ぶりの決勝進出を懸けた戦いに、そして昌平は4年連続花園出場のためには負けられない一戦に挑んだ。
熊谷らしい強風吹き荒れたこの日。
「風か雨が降って欲しい」と願った慶應志木にとっては、恵みの風。
一方の昌平は、この風を恐れていた。
勝負や、いかに。
最初のスコアは慶應志木。
8番・佐藤龍吾キャプテンが押し込みトライを奪えば、15番・加藤旭陽選手が落ち着いてコンバージョンゴールを蹴り込む。
前半7分、慶應志木が7点を先制した。
対する昌平は、間髪入れずに2連続トライを取り切る。7-10、すぐさま逆転した。
しかし前半終了間際に慶應志木がモールから展開すれば、12番・清水耀介選手が真っ直ぐ走り切る。
14-10、慶應志木の4点リードで前半を折り返した。
後半風上に立ったのは昌平。
ファーストアタックから、一気に陣地を進める。
最後にボールを持ったのは、昨年花園の芝を踏んだ2年生ウイングの11番・山口廉太選手。
後半開始早々、まずは14-17と試合をひっくり返した。
その後慶應志木は何度も敵陣深くまで入り込んだが、あと一歩が届かず取り切れない。
後半19分、追加点を奪ったのは昌平。
ラインアウトから今年磨いてきたモールへ。
敵陣に入れば次々とバックスが入り、勢い衰えることなく一気にモールを押し込めば、最後は13番・横山健人キャプテンが走り切ってダメ押しのトライを決めた。
3年連続花園に出場している昌平が、今季これまで無冠。
関東大会予選を2位で終えた後、昌平はある覚悟を決めた。
「花園に行くには、これしかない。」
今まで見せたことのない戦術。勝つための武器を、半年間掛けて身に着けることにした。
モールが得意な東北の学校へ出向き、教えを乞う。
夏の菅平合宿では、全国大会でファイナリストにも入ったことのある関西の超強豪校と、朝6時からのFWセッションを重ねた。
何度も何百回も組み続けたモール。
当初の予定では、決勝戦用の秘策として温めておくはずだった。
だが準々決勝・浦和戦でビハインドの展開になると、惜しむことなく13人モールを披露。
「こうなったら実践で磨くしかない(船戸彰監督)」と、準決勝でも幾度も繰り出した。
なりふり構わずトライを取りにいくその姿からは、花園連続出場を絶えさせてはいけない、という覚悟が滲み出る。
14-24。
昌平が、4年連続花園出場を勝ち取るための挑戦権を手にした。
最後のノーサイド ~慶應志木
59年ぶりの決勝進出を目指した慶應志木。
準々決勝に勝利すると、同校の第1期生から竹井章部長のもとに電話が入った。
「ありがとう」
御年90歳。
歴史を継ぐ意味を知った。
コロナによる制限も収まり、従来どおりオール慶應で強化を図ることのできた1年だった。
慶應義塾高校との練習試合に合同練習、慶應義塾大学との合同練習。
速い相手にも、重い相手にも立ち向かった1年間だった。
とりわけ準々決勝が終わってからの1週間は、現在慶應義塾體育會蹴球部に所属する同校OBが多く駆け付けた。
1代上の、Aグラウンド行きを逃した選手たち。
2代上の、コロナで棄権せざるを得なかった選手たち。
そして、前週末には対抗戦にフル出場したばかりの4年生も。
ロングキック対策、そして強いフィジカル対策にと、喜んで胸を貸した。
3年生12人のうち、ラグビー経験者はわずか4分の1。
佐藤龍吾キャプテンは名門・世田谷ラグビースクールでプレーした経験を持つがゆえ、高校からラグビーを始めた選手たちを「尊敬する」と言う。
「入部当初は、腕立て伏せや逆立ちすら出来ない選手もいました。進学校という学校柄、それまで運動してこなかった子もたくさんいるんです。それでも3年間努力して、タックルできるようになって、Aチームに入る選手がいる。僕だったら絶対に出来ません。本当にすごいなと思います。尊敬しています。」
仲間を尊敬することのできるキャプテンだった。
そんな佐藤キャプテンがこの日、左腕に書き記した言葉がある。
『おれは強い』
左手首の内側、自分にしか見えない場所に書き込んだ。
「こういうことしないと、正気保てないんで。」
間違いなく、埼玉県下で一番強いNo.8。疑いようのない選手。
そんな選手であっても、自らを奮い立たせる何かが必要なのが、この花園予選という舞台なのだろう。
1年間で初めて、涙を零した。
高校からラグビーを始めたスクラムハーフの吉田寛大選手は、同様に『狂』としたためた。
今年チームが掲げたスローガン、『狂』。
吉田選手は3回戦後、怪我のため準々決勝を欠場。
チームメイトから「お前に帰ってきて欲しい」と言われるまでの選手に、3年間でなった。
仲間が自分を信じてくれたこと、それが全て。狂う覚悟は決まった。
だが、届かなかった初めての花園出場。
何度もチャンスを手にしたが、後半はとりわけ取り切れなかった。
「トライを取ることの難しさを痛感した3年間でした」。佐藤キャプテンは言った。
「この大会を通して、慶應志木に行きたいという子が1人でも増えてくれれば有難いです。」
常に頭は冷静で、しかし熱いハートをグラウンド上で体現する佐藤キャプテン。
憧れ、慶應志木を目指す選手が間違いなく増えるであろう戦いを、見せてくれた。