早稲田大学
「こっちの方がきついことやってるぞ、っていう自信はある。」
そう話すのは、大黒柱・伊藤大祐キャプテン。
後半27分からの13分間で、怒涛の5トライ。
苦しい時間帯、相手の足が止まった時に反撃を重ねれば35得点を奪った。
きついことをやってきた。自負はある。
それでも最終盤は、息をすることすら精一杯だった。
何本も繰り返したスプリント。
後半39分、自らのランで大きくゲインメーターを稼いだ後、2番・佐藤健次選手がトライを決めると伊藤キャプテンはそのまま輪から1人離れ、片膝をついた。
その後相手にトライを許すと、キックチャージに走り出す前、しばらく体をポストカバーに預ける。
これまで見たことのない姿。
「マウスピースも合わないぐらいきつくなってしまって。」
体がマウスピースを拒否するほど、の精神と体の状態だった。
11番・矢崎由高選手に、伊藤キャプテンのそんな姿を見たことはあるか、と尋ねた。
「練習では・・・」と返した。どれだけ厳しい練習であるか、想像がつく。
早明戦。
この一戦に憧れ、早稲田の門をくぐった人は1人や2人ではない。
一時は38点もの点差がついたが、だからこそそのまま終わらせるわけにはいかなかった。
「このままじゃ部員に顔向けできない、と思って。(伊藤キャプテン)」
どれだけ厳しい状況であろうとも、キャプテンとして次に繋げなければならないという使命感が体を動かした。
現在部のSNSでは、4年生が『荒ぶる』への想いを1枚の色紙で表現する、という投稿が行われている。
そこに伊藤キャプテンは、文字ではなく自らの手形を記した。
もちろん言葉を考えたこともあったというが、他の人と被ったり、何かしっくりこなかったり。
最終的にはインパクトのある手形を、との考えに至った。
「自分の手で大学日本一を掴み獲りたい。自分自身のキャプテンシーを出し続けたい、という想いがあります。」
自身のプレーの良し悪しが結果に直結すると理解している。だから大学選手権に向け、もう一段階ギアを上げていく、と誓った。
***
モスト・インプレッシブ・プレーヤーに選ばれたのは、1年生WTB矢崎由高選手。
ノートライで迎えた後半27分、反撃の狼煙となるファーストトライを決めた。
実はその直前、ゴール前までボールを運んだ時に少し足を痛める。幾ばくかグラウンドに寝転がる姿もあった。
そんな姿を見てか、観客席からは「矢崎ファイト!」「矢崎がんばれ!」の声が響く。
「もちろん(観客席からの声は)聞こえていました。多くの方に応援してもらえて嬉しいです」とはにかんだ。
対抗戦初戦となった立教大学戦では、プレーヤー・オブ・ザ・マッチに輝いた矢崎選手。対抗戦最終戦・明治大学戦では、モスト・インプレッシブ・プレーヤーに選ばれた。
3か月前、表彰式でのダブルピースから始まった初めての対抗戦。悔しい敗戦で終われば、この日は表情を崩さなかった。
「負けて笑う人はいない。」
これから先は、負けたら終わりのノックアウトステージが待ち受ける。
「久しぶりに負けたら終わりのステージ。怖さもありますが、楽しみです。」