尾道
「尾道ターイム!」
声が響いたのは、後半逆転を許す直前。
インゴールを背負ったディフェンスに突入する目前、高らかに叫んだ。
尾道では、ディフェンスの局面を『尾道タイム』と呼ぶ。
ミスをしたら、もちろん気分が落ちてしまう。
だがディフェンスこそが「俺らの立ち返る場所」。だから、大丈夫。「尾道タイム」で守り切ろう。
追いつかれ、そして追い越され、ともすれば下を向いてもおかしくはない時間帯が後半終盤に訪れた。
だが円陣を組む尾道の選手たちには、笑顔が広がっている。
「楽しむで!」
「めっちゃ楽しいよ!」
「こっからや!」
「ピンチはチャンスや!」
ひたすらに前向きな言葉が並んだ。
しかし、残念ながら逆転とはならなかった。
ノーサイドの笛が鳴ると、キャプテンの12番・佐藤楓斗選手は、一人ひとりを迎えに歩を進める。
涙は流さず、凛とした姿で尾道のキャプテンとしての務めを果たした。
田中春助監督は、ロッカールームに引き上げる選手たちに向かって言った。
「笑顔で帰ってくれよな!」
笑顔で帰らな、もったいないから。
昨年はノーシードだった尾道が、Bシードの常翔学園を同じ第3グラウンドで倒した。
今年はBシードで迎えた尾道、相手はノーシードの中でも実力最上位の流経大柏に苦杯を喫する。
「去年の常翔さんの気持ちが分かりました」と、田中監督は笑顔を見せグラウンドを去った。
流経大柏
流れを掴めなかった前半。
ゲームキャプテンを務める阿部煌生選手(13番)はハーフタイム、仲間に声を掛けた。
「キック、キックになってしまっていて、面白くないよね。観ている人も面白くないだろうし、観ている人が面白くないってことは、やっている僕たちも面白くない。僕たちはノーシード。失うものは何もない。リスクを承知で、面白いラグビーをやろう。」
言葉通り、後半は面白いラグビーが繰り広げられた。
阿部キャプテン自らがモメンタムを生み出し、チームに勢いを与える。
普段はノックオンになってしまうようなボールも繋がり、フィニッシュまで持ち込む。
「No.8佐藤椋介ら、花園に入ってから急激に良くなっている選手がいる。高校生の成長ってすごい。」
相亮太監督は、しみじみと語った。
チームキャプテンを務める須田大翔選手は、この日ウォーターとしてグラウンドに入った。
阿部ゲームキャプテンは言う。
「大翔はパッションがある。だからこそ、僕自身の頭は冷静に。戦い方については僕がリードしていくことができたので、そこのバランスを上手く取ることができたと思います。」
3回戦の相手は、これまたBシード校を破ったノーシード・天理。
ベスト8を懸け、ノーシード校同士の熱き戦いが繰り広げられる。
「ここで終わりではない。どこが相手でも、しっかりと流経のラグビーが展開できるように。相手を軸に考えるのではなく、自分たちをベースにしながら戦う術を作っていきます。(阿部ゲームキャプテン)」
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