ラグビー随一の専門職、プロップ。
だれにでも務まるわけではないポジションに誇りを持ち、だからこそ『謙虚』をモットーにラグビーと向き合う選手がいる。
天理大学4年、松野楓舞(まつの ふうま)選手。
「こだわりやプライドが勝ってしまって、人の意見を聞かなかったら上達はしない。謙虚さをもって、人の意見を聞くことを心掛けています」
身長167㎝、体重100㎏の体格を存分に生かしたラグビースタイルが持ち味だ。
6月末に行われた、関東ラグビーフットボール協会 100周年記念試合。西軍学生代表として東西対抗戦に出場した松野選手は、後半から秩父宮ラグビー場のピッチに立った。
戦いを終えると、東軍の監督を務めた相馬朋和・帝京大学監督は、笑顔で近寄り声を掛ける。
「フォルムが完璧でしょう?スクラムを組むために生まれてきたよね。タックルするところがないし、ボールキャリーも強い。日本人の進むべき道はここにある」と讃えた。
同じポジションの大先輩からの賛辞を、松野選手は照れながら受け止めた。
相馬監督との出会いは、昨季の大学選手権でのこと。
「準決勝で帝京大学さんと試合をした後に行われたアフターマッチファンクションで、個人的に声を掛けて頂けたんです。『あと1.5倍体を分厚くしたら、もっと強くなるよ』と評価をして頂けました。その言葉をずっと覚えていて。もっと認めてもらえるように、それから筋トレもずっと頑張っています」
当時は体重100キロ弱。
半年で105㎏まで増やした。
分厚さは「1.2倍ぐらいにはなったかな」と笑顔をみせる。
愛媛県出身の松野選手。
小学生の頃はソフトボールとバレーボールに興じた。
中学ではラグビーを、と考えたものの、自身の通う中学校にラグビー部がなかったためバスケットボール部に所属し、代わりに柔道を習った。
高校は、未経験ながら地元の強豪・松山聖陵高校へと進学する。
「親の知り合いのつてを辿って、松山聖陵の渡辺悠太監督に『初心者ですがラグビーをやらせてほしいです』とお願いしました」
ルールは全く知らなかった。
ただ、ラグビーがしたい。強くなりたい。だからラグビーを始めた。
ラグビー歴わずか1年半だった高校2年時には、U17中国ブロック代表に選出される。
花園では2年生の頃から先発の右プロップを務めた。
「体の大きな選手にも負けたくない」が原動力。
努力を重ねれば、高校3年生で副キャプテンを任された。
◆
大学は、関西の強豪・天理大学へと進んだ。
高校3年生の冬には、天理大学が悲願の大学日本一を達成。喜ぶ未来の先輩たちの姿を見て「あ、ここに入るんや」と実感が沸いた。
「天理ではたぶんレギュラーも取れないし、ずっと下のチームにおるんやろうな、と思っていました」
だがそんな本人予想をも覆し、1年生で公式戦初出場を掴むと、レギュラーに定着する。
「有難いことに、4年間使ってもらえています。濃い4年間を過ごしています」とはにかんだ。
得意なプレーはスクラム。
個の強さではなく、8人のまとまりで組むスクラムを信条とする。天理の組み込んだスクラムが、自身最大の武器だ。
もちろん、足の速さを生かしたボールキャリーにも定評が。
「関東の選手たちは大きいですが、力負けしているとは思っていません」と心強い言葉を発した。
TikTokのミリオンバズが後押しに
そんな松野選手が一躍時の人となったのは、TikTokの『30日チャレンジ』。30日間でどれだけ踊りが上達するか、を記録するダンス動画だ。
同様のチャレンジをTikTok上で見つけ、一緒にやってみないかと後輩を誘い、今年3月にスタートした。
始めは3人。
次第にダンス仲間は増え、「最後はできるだけの人数を集めたかった」と大勢の選手たちでフォーメーションを組んだ。
計30回の投稿で、総再生回数はなんと1400万回超え。※2024年9月20日時点
「バズったらアンチコメントもあると思うのですが、嬉しいことにアンチ(コメント)がこなかった。嬉しいです」
コメント欄には「関東在住だけど、天理を応援したくなった」「自分の子どもは天理に行かせたい」とポジティブな言葉がならんだことも嬉しかった。
「天理に対して、世間の人たちに良いイメージを持っていただけたことがプラスになりました」と喜ぶ。
一方で今年度の春季トーナメントでは、4位に沈んだ天理大学。
思うような結果が伴わず、練習もハードになった。
それも全ては、かつてテレビで見た全国優勝を自らの手で掴み獲るため。
「昨年は大学選手権準決勝で敗れベスト4。今年は自分たちの代、懸ける想いも変わります。今年こそは優勝を狙いたいです」
2024ムロオ関西大学ラグビーAリーグは、9月22日に開幕を迎える。