「そうか、俺、今日の早慶戦にやっぱり出られないんだ」慶應義塾大学主将・中山大暉が流した、ひとしずく|主務・山際毅雅の葛藤

中山大暉。

慶應義塾體育會蹴球部第125代主将の姿が、第101回早慶戦のピッチにはなかった。

前節での脳震盪が影響し、この日の試合はメンバー外。

ウォーミングアップを側で見つめ、試合中はウォーターとして一番近くで、仲間を支えた。

キックオフの笛が鳴る、少し前。

選手が入場し、整列した仲間の姿を目にした中山キャプテンは、しずかに涙を零した。

慶應義塾塾歌を斉唱するうちにどんどんと涙は溢れ、一筋の跡がほほを伝う。

中山キャプテンは言う。

「絶対に泣くものか、と決めていた」と。

戦いに挑む選手たちが奮い立っている中で、キャプテンが泣いていてもしょうがない。

絶対に泣きたくない。

指をつねったり、涙を止めるため様々なことを試したり。

だが、どうしても「最後になるかもしれない早慶戦に出たかった」という思いは溢れ出る。

「今季キャプテンになった自分にとって、メインスタンドを見て塾歌を歌うことが、一番自分を奮い立たせていたものでした」

だからこそこの日、4年生の早慶戦という舞台でメインスタンドを背にし、黒黄ジャージーをまとった仲間を目の前にすれば、改めて悔しさは込み上げた。

「そうか、俺、今日の早慶戦にやっぱり出られないんだ」

現実を突きつけられた。

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試合中は、フィフティーンとともにインゴールで円陣を作り、言葉を掛け続けた中山キャプテン。

この1週間、仲間に伝え続けた「とにかく後悔を残さないでほしい」という思いを繰り返す。

「支えてくれる家族や同期、先輩や後輩たち。誰かのためにプレーすることは、あると思うんです。だけどやっぱり最後は、自分のためにプレーしてほしかった。あんなにも大観衆の前でプレーできる機会って、人生でそう訪れません。マインドセットがうまくいかなかった結果、後悔が残る試合をしてしまったらもったいない。だからとにかくポジティブに、前向きに頑張ってほしい、とずっと伝え続けてきました」

だから何度も何度も「出し切る」「前で」の言葉が、タイトに組まれたハドルから響いた。


「よっしゃー、4年!」と叫んだのは、途中出場の4年生・冨永万作選手。「スタメンとして出られない悔しい想いもあった。だから絶対に盛り上げようと思っていました」

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正直に言えば、試合を終えた今だって、早慶戦に出たかったという思いは消えていない。

だが4年生で早慶戦に出ないからこそ知り得た感情もまた、多くあった。

1年時から対抗戦全試合に出場してきた中山キャプテン。メンバー外になった経験が、これまで1試合もなかった。

慶應義塾大学では、対抗戦に入ると、メンバー外の4年生がメンバー入りした選手に向けて手紙を書く文化がある。

「いつもそれを、当たり前のように受け取っていました。でも今回、自分が本当に想いを伝えたい人間に対して手紙を書く、という経験を初めてして。大学選手権に向けて、もう一つ飛躍しないといけないこの時期にこの経験ができたことは、自分自身を成長させてくれたとすごく感じます」

もう一つ、初めて『ノンメンバー』としての時間を過ごす中で、気付けた想いがある。

「メンバー外の選手と一緒にこの1週間過ごしたからこそ、黒黄ジャージーを着ることは自分が思っている何十倍も名誉なこと」なのだ、と。

黒黄ジャージーを着るために、何回も努力をしている仲間がいること。

だけど何回も、その夢が叶わなくてメンバー落ちしている仲間がいること。

それでもまた、その次の試合に出場することをモチベーションに何回も何回も頑張り続ける仲間がいること。

「これまで僕は、キャプテンとして当たり前のように、ずっと偉そうに試合中はプレーして。試合前は、試合に出ることが当たり前のようにチームを鼓舞してきました。でも、そういったメンバーの気持ちを考えを汲み取らないといけないんだと、それが主将としてできることなんだと、今回感じたので。すごく良い経験ができたな、と今はポジティブに考えられています」

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大学卒業後は、一般企業へと就職予定の中山キャプテン。

小学3年生で始めたラグビーも、慶應義塾大学でのラストゲームとともに終わりを迎える。

残された日々を、中山大暉として。

「後悔のないプレーをしたいです。それでも絶対、後悔はするんです(笑)やっぱりラグビーしたかったな、あの時こうしておけばよかった、と、きっと思うんだろうと思います。だからそれを、最大限減らしたいですね。あの時あれやっといて良かったな、ああいう経験ができて良かったな、と、慶應でのラグビー人生を振り返った時に、後悔よりもポジティブな思い出が残るように。残り2か月間、プレー出来たらなと思います」

そして、第125代主将として誓う。

「早慶戦では思うような結果は出ませんでした。それでも過去、対抗戦4位から日本一になった代もあると、先日OBから聞きました。『慶應が大学選手権でベスト4以上に行くときって、案外対抗戦そんなに上手くいっていないんだぞ』と、いろんなOBの方からおっしゃって頂いています。ここが、慶應として一番の勝負どころ。次戦・日本体育大学戦からは復帰予定です。キャプテンとして、チームのために愚直さを、泥臭いラグビーをやり続けて、大学選手権でふたたび早慶戦ができるように。そして主将として、佐藤健次にリベンジできるように。モチベーションマックスでやっていきたい!というのが、今の主将としての思いです」

試合後、早慶両主将は手を合わせ、再会を誓った。

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