準決勝 深谷v浦和【第100回全国高等学校ラグビーフットボール大会埼玉県予選】

試合展開

深谷:水色ジャージ、浦和:紺ジャージ

この舞台にたどり着くことが想像できない春だった。新型コロナが世界中に蔓延し、大小問わずいくつものスポーツ大会が中止になる中で、高校ラグビーの全国大会が行われる保証はなかった。

もし、大会がなくなったらーーー。

花園の開催可否が不透明な頃、浦和の3年生たちは「受験に専念したほうが良いのではないか」と考えていた。甲子園のように代替大会になったとしたら、部活を引退し受験勉強に専念しよう。そう考える選手も少なくなかったという。

だからこそ、熊谷ラグビー場のAグラウンドに立つ瞬間は嬉しさがこみ上げた。

入場時、涙を流した浦和・山際キャプテン。「部歌を歌ったら、これまでの3年間、そして新チーム始まってからの1年のことを思い出した。あっという間だったな、でも濃かったな、と思ったら熱いものが込み上げてきた。このチームで勝ちたい、と思った。」

 

対する深谷は、長年に渡ってAグラウンドの常連校。戦い方を知っている。3回戦で活躍したウイングの牧野選手は怪我で出場できないが、選手層でカバーする。

 

前半は、取っては取られ、取られては取り返す展開に。一進一退の攻防が続いた。

そんな中、ゴールポスト中央に決めたトライのコンバージョンゴールを、浦和が外す。拮抗した試合展開で、この2点が後々響かなければ良いが、果たして。前半を、12-17と浦和の5点リードで折り返す。

試合後半になると、ジリジリと深谷がペースを掴み始める。敵陣深い所でラックを積み重ねながらFWでトライを奪えば、大外を10番・井下選手が駆け抜け独走トライ。「セットプレーから展開される、バックス陣のアタックに注目してほしい」という深谷・山田監督の言葉通り、敵陣でのオプションが豊富だった。後半25分には1番・大森成真選手のトライで、24-33と9点差に広げる。

浦和、万事休すか。

しかし誰も焦ってはいないのが、前年度覇者・浦和。三宅部長からも「大丈夫、まだ2トライ(のチャンス)あるよ!」と声が飛ぶ。

その言葉通り、後半28分には10番のキックパスが浦和を援護するかのようなバウンドを見せる。11番・小平悠祐選手が走り込んだ先でキャッチしトライ、31-33と2点差に迫った。

浦和陣から響く「絶対きてる!ここ取ろう、ぜったい!」「我慢比べだよ」の声。ベンチからは「相手にボールを渡すな」との指示がでた。

勝負の後半アディッショナルタイム。

浦和はキックオフボールをキャッチすると、堅実にボールを前に運んだ。焦って早急に展開することなく、FWでゴリゴリと。自分たちの強みを知っている。そして相手陣22mに差し掛かった頃、得意の「リモール」作戦に打って出た。

ゴールポスト正面でモールを組み、進む。一気に前に進む。会場に響く、悲鳴。

このまま、インゴールまで進むか、と思われた。

が。数メートル先で、モールが崩れる。なぜか。深谷は、浦和が得意とするリモール対策を練っていたのだ。

結局、得意の形でボールを運べなくなった浦和は、ラックを作り続ける作戦に切り替えた。ジリジリと前に進む。ジリジリと。時間にして数分、いや数十秒か。でも現地の肌感覚としては、もっと長く感じたのが正直な所。

笛が吹かれたのは、果たして何フェーズ目だろうか。レフェリーの手は、深谷サイドが上がっていたーーー。

天を仰ぐ、浦和フィフティーン。2年越しのリベンジならず。2年連続花園出場を、叶えることができなかった。

 

***

最後は、1コンバージョンの差。

だけど誰もキッカーを責める人はいないし、全員が「あの時ああしていれば」と振り返る。僅かな差が、大きな差。これが高校ラグビーなのだ。

「最後のプレーに絡みたかった」と、スタンドオフの安藤選手は大粒の涙を流しながら語り出した。モールが崩れた後、「いつもだったら『ボールを渡せ』と呼んでいた場面」だという。だが、なぜかあの時だけは呼べなかった。もしもあの時、ボールを呼んでいれば違う結果になったかもしれないーーー。

試合前日、試合メンバーにジャージが手渡される儀式・通称『ジャージプレゼンテーション』では涙を流した熱い男。きっとこの後悔が、これからのラグビー人生に活かされるはずだ。

最後に、笑って言ってくれた。「大学では、めっちゃ俺オレなプレーヤーになるかもしれないですよ。」義理人情に厚い彼は、お世話になった先輩を追って国立大学への進学を希望する。新たな場所でのラグビー人生にも、大いに期待したい。

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