準決勝 慶應志木v昌平【第100回全国高等学校ラグビーフットボール大会埼玉県予選】

試合展開

慶應志木:黄黒ジャージ、昌平:緑ジャージ

3回戦から空いた3週間の使い方に最も特徴が出ていたのは、この2校だったかもしれない。

まず昌平高校は、毎週末に練習試合を重ねた。川越高校にはじまり、浦和高校、そして川越東といずれも勝利を収める。特に11月に入ってから行った川越東戦では、怪我防止のため30分1本勝負も、春の王者相手に7-0と零封。気持ちの良い準備をすることができた。

一方の慶應志木は、新型コロナ対策のため、例年行っていた系列校との練習試合ができなかった。そこで頼ったのが、慶応義塾大学OBが集まるクラブチーム「ハーキュリーズ」。今年2月には全国クラブ大会で日本一に輝いた強豪チームだ。

キーマンである10番・石垣選手は、2018年度慶大キャプテンの古田京選手から直々に指導を受ける。試合の捉え方やプレーの組み立て方に始まり、キックの選択肢まで。身近な、だけど憧れる大人に伝授してもらった技を武器に、昌平に挑む。

 

昌平ボールでキックオフすると、高く蹴り上げられたボールを慶應志木はお見合いしてしまう。緊張していたのだろう。最初のプレーで、昌平へ簡単にボールを渡してしまった。

Aシードチームがその隙を逃すわけはなく、試合開始1分で8番・小沼勇貴選手がトライ。2年生ながら慶應志木の司令塔を務めた石垣選手は「序盤に自分たちのミスから流れを崩してしまい、なかなか慶應志木らしいプレーができなくなった」と振り返る。

緊張か、それとも昌平の迫力に圧倒されたか。試合開始10分は特に、これまでの3戦で見せてきた慶應志木らしいプレーが影を潜めていた。

前半を、0-12と昌平リードで折り返す。

 

後半に入ると、昌平の1番・染谷爽輔選手が左足を痛めて負傷退場する。ようやくスクラムが安定してきただけに、昌平にとっては不安材料だ。

その直後、慶應志木19番・仁科聡史選手がラインアウトモールからトライを奪う。5-12、慶應志木の反撃の狼煙が上がった。

気持ちは伝播する。

フォワードの頑張りに呼応するかのように、慶應志木のバックス陣も息を吹き返した。15番・齋藤選手が「あと数メートルでトライされてしまう大ピンチ」という場面で、相手を刈り取るようなタックルを見舞う。「チャンスに掛ける思いで、ぶつかっていった」というが、あの瞬間、流れはまさしく慶應志木に傾いた。

しかし。「実際に肌を合わせてみたら、ゲームの組み立て以前に個々の強さを実感した。」と齋藤選手が言うように、ラストクオーターの時間帯になると昌平が地力をみせ始める。

後半21分には昌平5番・水野泰治選手がラインアウトモールからトライ。同37分には、6番・山口大悟選手がダメ押しのトライ。

ベンチから響く「慶應、最後まで諦めんな!」という声もむなしく、そのままノーサイド。試合終わってみれば5-26と、3トライの差がついた。

慶應志木のスーパー2年生・石垣選手は言う。「来年、この地でリベンジを果たせるよう1年間練習を積んでいきたい。」

 

***

昌平には、心強い応援が響いた。会場に入ることを許された3年生の保護者たちが、チャンスの場面には三拍子の拍手で後押しをしてくれた。

コロナ禍で声を出せないからこそ、拍手で子どもたちを応援する。昌平の黒埼慎之介キャプテン(12番)は「心強かった」と話せば、監督も「選手たちの心にも残ったのではないか。有難いですね」と語った。

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