80分の物語
HISTORY of MUNAKATA SANIX Blues
難しい80分だった。
難しい1週間だった。
先制トライこそ奪ったものの、前半21分に2つ目のトライを許すと、そこからずっと追いかける展開が続いた。
スクラムでペナルティを奪っても、2つ後のフェーズでボールを失ってしまう。
なかなかボールをキープできない。
なかなかエリアを広げることができない。
敵陣5mまで攻め込んでも、ゲートオフサイドで陣地を戻されてしまう。
HIAの一時交代で22番・王授榮選手(弟)が加わるとき、手を合わせた2番・王鏡聞選手(兄)。古巣相手にファーストトライを決めた
後半4分からは、数的優位に立ったことでワイドに展開するプレーも見られたサニックス陣。
左サイドでラインアウトを投入すると、大きく逆サイドに飛ばしパス。近鉄の選手たちを走らせる。
だが、タックルを受けると堪らずノットリリースザボールの反則を取られてしまう。前半同様、ボールを繋ぎ続けることができない。
それでも後半31分にはマイボールスクラムでフリーキックを獲得すると、20番・鶴岡怜志選手がタップキックからそのまま持ち込んでトライ。
トップリーグチームの意地として。残り9分で、3点差まで迫った。
しかし、逆転することは叶わずノーサイド。
試合後、会場への挨拶を終えると、選手・スタッフが一つの大きなハドルを組んだ。
長い時間、おそらく5分以上、輪は崩れなかった。暫く経った後、静かに円陣が解かれると、仲間と抱き合いながら頬を濡らすサニックスの面々。
耳には、同じタイミングで円陣を解いた近鉄ライナーズの、喜びの声が届いていたはずだ。
シーズンが終わるチームと、1週間活動する時間が増えたチームと。
宗像サニックスブルース、最後のトップリーグに幕を下ろした。
***
先週初め、チーム活動についての報道があった。その件について、試合後の記者会見で語られた選手たちの言葉をお届けする。
※外国人選手の英語はほぼ選手の発言通り、日本語訳については記者会見時のチーム通訳様の発言を基本としています
福坪龍一郎キャプテン
ご存知の通りニュースがあり、週の初めは各選手がチームとの面談を重ねました。各選手考えることがあって。オフフィールドですごく考えていたと思います。
水曜から練習が始まりましたが、試合が始まれば目の前のことに集中できるから大丈夫だ、と伝えてこの一週間準備をしてきました。実際、ゲームが始まれば目の前のことに集中し戦えたことは良かったと思っています。
正直、今後チームがどのような方向に行くか僕たちもはっきり分かりませんが、サニックスのラグビーチームはラグビーをしている選手にとって夢のあるチームだと思うので。そこは変わらず、夢のあるチームであり続けると思います。
ジェームス・ムーア選手
Well, obviously, we’re very disappointed to hear the news. we all really love playing for Sanix, we all love playing together. There’s a great fan base down there, and this is really disappointing for everyone involved. We’re disappointed and a little bit of upset. For a lot of our players, we’re not in a position to say what we’re doing next year, but I feel you guys will find out shortly.
報道を知り、とても残念な気持ちでした。サニックスはファンを大事にする素晴らしいチームです。今回記事が出たことによって、たくさんの方が残念な気持ちになったと思います。今後の自分の方向については、のちに情報があると思いますので、今ここでは控えさせて頂きます。
カーン・ヘスケス選手
For myself, this has been my 11th season playing for Sanix, so I spent probably the best part of the week pretty much grieving, as I had lost a family member… it’s kind of given me a lot, it’s given me family, a life, and I’m thankful for everything. And I’m not sure what the future holds but… just thank you to everybody out there for the support.
自分としては今年11シーズン目。サニックスとしてたくさんのことを学ばせて頂き、たくさんのファミリーと思える人たちと関わらせて頂きました。そのファミリーを失ってしまうことは残念な気持ちですし、サニックスは自分にとって人生の全てです。今週は寂しい気持ちでいっぱいでした。
ヘスケス選手は、時折言葉を詰まらせながら気持ちを述べた。写真は「it’s given me family, a life, and I’m thankful for everything.」と話した後、ムーア選手がヘスケス選手の背中に手を回した時のもの
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His story of Tatsuya Fujita
藤井達哉、21歳。
トップリーグの最年少トライ記録保持者だ。
昨シーズンの開幕戦でトップリーグデビューを果たすと、その2戦後には19歳と10ヵ月でトライを決めた若きスクラムハーフ。
前半11分、ラックから6番ジェームス・ムーア選手が抜け出すと、フォローに走っていた2番・王鏡聞選手にパス。そのままポール真下にトライしたが、その真後ろには更なるフォローに藤井選手が入っていた。
身長165㎝、体重65㎏と小柄な体格で、グラウンドを縦横無尽に走り回る姿が印象的だ。
マイボールスクラムを押すと、藤井選手は塊の真後ろで手を叩きFWを鼓舞する。
スペースを見つけると、ラックから持ち出しそのまま数十メートルのゲインを見せる。
甘いマスクとは裏腹なアグレッシブなプレースタイルは、この日、多くのラグビーファンを魅了した。
試合後。客席へ挨拶をしに回る中、涙が止まらなくなった藤井選手。
最後まで深く頭を下げ続けたその胸に、何を思うか。
まだ、トップリーグ2シーズン目。
これから続くHis Storyを、楽しみにしたい。
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