2022年度第6回TIDユースキャンプ(高校日本代表候補合宿)が2月4日(土)~6日(月)に日本大学アスレティックパーク稲城で行われ、42名の候補生がセレクションを受けた。
2月4日(土)に集合した選手たちはフィットネステストを経て、同日午後から早速2グループに分かれトレーニングを開始。
5日(日)には20分×3本のセレクションマッチを行い、レッドジャージ(赤ビブス)がグレージャージ(緑ビブス)に「ボコボコにされた(松沼寛治選手、東海大大阪仰星)」という。
今合宿で42名から26名まで絞り込み、高校日本代表が決定。国内での強化合宿を経て、来月U19アイルランド代表との2つのテストマッチに挑む。
世界とは
高校日本代表として、4年ぶりとなる海外遠征。
「世界と戦う、世界を意識して、と言ってもその『世界がどういう所か』を印象付けることから始まります。」
そう話すは、高校(U19) 日本代表監督・髙橋智也監督(一関工業高等学校)だ。
コロナ禍に突入し3年目。ユース世代を束ねるコーチ陣の想いは、みな同じだった。
「中学の卒業式がなくなり、高校の入学式も行われなかった世代の子たち。なんとか今年こそは遠征にこぎつけたい、とスタッフみんなが思っていました。」
もちろん、スタッフ陣のノウハウにも影響のあったこの3年間。
だが昨年は国内でエキシビジョンマッチを行うなど、出来うる限りのことを積み重ねてきたことが、4年ぶりの海外遠征に辛うじて繋がったと振り返る。
「これまでのように、4泊も5泊も泊まって合宿をするわけにもいかない。まずは無事に現地に行く、というハードルです。飛行機に乗って、ダブリンに無事に着くこと。」
3年経ってもなお、壁は厚く高い。
5日に行われたセレクションマッチでは2チームに分けたが、敢えてキャプテンを指定せず、自主性を見守った。
「日本人が強みとする低さと速さで、的を絞らせないアタック、立ち上がってのディフェンスをしていきたいと思います。」
2023年3月。久しぶりに、ユース世代の日本代表が海を渡る。
2人のキャプテン。認め合うライバル
世代を代表する2人のプレイヤーがいる。
大川虎拓郎選手(東福岡)と松沼寛治選手(東海大大阪仰星)。
ポジションはともにFL/NO.8。キャプテンとして花園の土を踏み、互いに高校3年間で全国優勝した経験を持つ。
向かって左が大川選手。右が松沼選手
松沼選手は、大川選手のことを「ずっとすごい選手だと思っていた。頑張って追いつきたい存在」だと打ち明ける。
「面識もそこまでなかったのですが、この合宿を通して一緒にラグビーができた。ブロンコもめっちゃ早かったです。」
その大川選手もまた、改めて松沼選手の人間性は素晴らしいと舌を巻く。「言葉が凄いんです。でもこの合宿では、チームが分かれてしまったので敵同士。あまり話す機会もなかったので、できれば一緒のチームでやりたかった。」
ともに高校日本代表入りが叶えば、初めて同じチームでプレーすることになる。
今代表におけるセレクションのポリシーは、爆発できるか否か。ディフェンスで前に出てタックルできる選手が最低条件だと告げられていた。
だから松沼選手は、2日目に行われたセレクションマッチで「求められている『爆発』を、誰よりも強度高くし続けること。誰よりも体を張って、運動量でチームに貢献すること」を意識して挑んだ。
一方の大川選手は、プレーに参加する回数を増やすことにこだわった。「ボールタッチは少なかったのですが、2番目のセキュリティの部分を意識しました。」
コロナ禍で海外のチームと試合をする経験も、日本代表活動もなかった世代。
大川選手は「今の高校3年生たちが特に憧れていた舞台が高校日本代表」だと口にする。
だからこそ「もし代表に選ばれたら、しっかりと準備をして絶対アイルランドに勝ちたい」と闘志を燃やせば、松沼選手も「選ばれたら、まずは日本を代表する選手としての自覚と誇りを持つこと。全国の高校生が憧れる、目標とする存在に値する行動を日頃からしていくこと。その上で、目標であるビートアイルランドに貢献できる選手になりたい」と誓った。
ライバルであり、互いを高め合う仲間として。
次なるステージへと、階段を上っていく。
観客としての花園
全ての高校生ラグビープレーヤーが憧れる舞台、花園。
最終学年の今年、その場に立たずとも高校日本代表候補に選ばれた選手がいる。
桐蔭学園の矢崎由高選手(WTB/FB)と、関西学院の大塚壮二郎選手(HO)だ。
芦屋ラグビースクール出身の大塚選手。自身の強みは運動量だと認識する。何回もタックルに入ることができるタフさを武器に、高校日本代表候補まで上り詰めた。
「花園に出てないからどう、ということはない。代表に選ばれたら、体の大きいアイルランドを相手に、ひるまず体をバチバチ当てていきたい」と意気込む。
一方、1年次には花園優勝経験もある矢崎選手。残念ながら今年は神奈川県大会で東海大相模に敗れ、3年連続の花園出場は叶わなかった。
だから今年は、一人のラグビーファンとして。中学生以来久しぶりに、観客として花園を観に行ったという。
「準々決勝から全部観に行きました。行く前は『嫌やなぁ、ちょっと行かんとこうかな』とも思ったのですが、行ったら楽しかったです。同じ世代が出ているということは意識せず、『花園』として楽しみました。」
準々決勝は、会場で伊藤龍之介選手(國學院栃木)と出くわし、田中景翔選手(常翔学園)と3人で仲良く観戦したそう。
「同じ吹田ラグビースクール出身の選手たちもたくさん出ていたので、応援していました。藤井達哉(東福岡)があんなに強くなっていることにびっくりしたし、高本とわ(東福岡)もセブンズで怪我して、無理やなと思っていたんですけどなんとか復活して。(報徳学園・村田)大和なんかは1年間通して、僕に色々と報徳のことを聞いてきていたんですよ。だから僕も『(伊藤)利江人がランナーだから、こうしたら?』というアドバイスを少ししていて。決勝戦でビッグゲインした時には鳥肌が立ちました。」
仲間の活躍を、素直に喜んだ。
そんな仲間たちと迎えた、今回の高校日本代表セレクション合宿。
「周りのレベルが高いので、自分から与えるものよりも受け取るものの方が多い。すごく成長になっています」と頬を緩める。
今年度桐蔭学園ではスタンドオフでプレーしたが、今代表ではフルバックを予定。「10番って受け手を探すじゃないですか。だから、そんな時に後ろの選手たちがどんな声掛けしてくれたら嬉しい、どこにポジショニングしてくれたら嬉しい、ということが分かったことは勉強になりました。」
10番の気持ちを理解した上で、15番としての在り方を進化させている。
だが、矢崎選手とて代表に選ばれる確証はない。
選抜大会後に左肩を手術し、花園県予選直前には右の後十字靭帯を負傷。怪我が重なり、今年度の公式戦出場は神奈川県大会の決勝戦1試合に留まった。自身が置かれている状況を、冷静に理解する。
「これで代表に選んでもらったら申し訳ないという気持ちと、一方これで選ばれなかったら終わりだな、ラグビー選手として廃れていくな、という気持ちがあります。」
だからこそ「選ばれたい。結構ちゃんと、選ばれたいです」と胸の内を明かした。
高校日本代表入りを狙う選手たち
前田卓耶選手(PR1、報徳学園)
「強みはセットプレー。体の大きいアイルランドに対して、低さとスピードで対抗して勝ちたい。」
石橋チューカ選手(LO、報徳学園)
「花園では、最高の仲間と最後までやりきれて良かった。大学に入って、対戦相手として戦えたら面白い。」
竹之下仁吾選手(WTB/FB、報徳学園)
1月7日に花園決勝戦が終わった翌日、東京へ。9日朝に日本を出発し、フィジーでのセブンズトーナメントに出場してきた。タフなスケジュールを楽しんでこなす。
海老澤琥珀選手(WTB/FB、報徳学園)
「選出されたら全力出してアイルランドを倒したいと思います。ボールを持った回数分トライします!」
田中景翔選手(SH、常翔学園)
花園2回戦で敗戦後、準々決勝を桐蔭学園・矢崎選手、國學院栃木・伊藤選手らとともに観戦した。「早く負けてしまった分、これまで戦ってきた選手たちには頑張って欲しいという気持ちで見ていました。(2回戦の相手だった尾道・檜山蒼介選手とは)大学が一緒なので『大学に行ってもよろしく』と言われました。」