2月11日に幕を開けた、2022(令和4)年度 第23回関東高等学校ラグビーフットボール新人大会。
大会2日目となった12日には準々決勝4試合が行われ、勝ち上がった4チームは関東地区代表として第24回全国高等学校選抜ラグビーフットボール大会への出場権を手にした。
第1試合
桐蔭学園×昌平
桐蔭学園、昌平を圧倒す。
桐蔭の全てのスキルが、昌平を上回った。
ファーストトライは前半3分。一度はグランディングできずゴールラインドロップアウトになるも、蹴り返されたボールをそのままグラウンド中央で切り込み1番・伊吹勇吾選手がトライを決める。
「FW勝ってる!走ったら勝てる!」
桐蔭陣から、声が飛ぶ。
続く2トライ目はノーホイッスルトライ。
タックルを受けても倒れず、ラックになる前にボールを繋ぐと最後は11番・田中健想選手が落ち着いてトライを決めた。
圧巻はスクラムだった。ファーストスクラムが組まれる前、桐蔭の選手たちからは「相手スクラム自信あるよ!」と声が掛かる。
この日初めて迎えるセットプレー。
昌平9番・高橋汰廊選手がボールを投入すると、その瞬間に桐蔭のバックス陣は一斉に「GO!」と叫んだ。その合図に併せて、桐蔭のFW8人は一気に足を動かす。
何とかボールを掻き出した昌平は、しかしすぐにプレッシャーを受けノックオン。すかさずボールを拾い上げた桐蔭は、そのまま15番・吉田晃己選手が走り切った。
そのトライ後、FWとバックスとが話をしながら自陣へと戻る。12番・白井瑛人選手は両手を組み合い、細部を詰めた。どうやら、このスクラムに満足はしていないらしい。
すると次の昌平ボールスクラムで、会場からどよめきが起こる。
ボールが投入された瞬間に掛かる、桐蔭バックスの掛け声は変わらない。しかし今度は、その合図をもとに足を掻くFW8人の16脚がぴたりと揃った。
一瞬にして、ボールは桐蔭8番・城央祐キャプテンの足元へ。
すぐさまオープンサイドに開き切った後、内に振り戻した先でボールを受けた12番・白井選手がステップを踏みディフェンスを交わせば、トライ。
前半15分にして5トライ目を決めた。
今季、桐蔭学園の主将を務めるはNo.8城キャプテン。FWへの強い思いを口にする。
「昨年は全然スクラムを押せなかった。ラグビーはフォワードが強くないと勝てない。『俺たちはそういうチームを目指そう』ということで、徹底してプロップと長い時間スクラムを組んできました。」
自分たちで掲げた目標は、1試合で2本のスクラムターンオーバー。この試合、前半のうちにそれを達成してしまう。
「ターンオーバーができなかったら、ランがある。こだわっています。」
今季桐蔭が掲げたスローガンは、漢字一文字で『徹』。
「去年、神奈川県大会の決勝戦で自分たちは不甲斐ない試合をしました。自分たちのやりたかったことを貫き通すことができなかった、徹底できなかったんです。戦術的にも徹底できていなかったし、徹底するだけの実力もなかった。だから今年は、自分たちのやりたいことをしっかりと試合で発揮できるように。徹底して、チームとして貫き通していこう、という意味で『徹』を掲げました。」
だからこそ、どれだけリードを奪っても攻撃の手を一切緩めなかった桐蔭。
最後まで100%を徹底し、試合終了した時にはスコアボードに『111』の数字が並んだ。
藤原秀之監督は言う。
「新チームになってやってきたことは、ボールをキャッチすること。それだけです。キャッチして、パスをする。戦術はまだ、これからです。」
その意について、城キャプテンも補足した。
「戦術的なことは一切やっていません。体を当てて、前に出たら繋ぐ。それだけをやっています。」
ディフェンスも近場の所だけ、そこだけを徹底しているのだという。
まだまだ序章。
桐蔭学園のラグビーはこれから、桐蔭学園らしいラグビーへと進化を始める。
***
前半だけで10トライ。後半にも7トライ。昌平は、60分間で計17トライを浴びた。
昨季の花園でも活躍した主力選手たちが数名、出場叶わず。苦しい懐事情の中迎えた一戦ではあったが、それでも試合後、選手たちはなかなか声を発することができなかった。
「自分たちの力不足です。」
横山健人キャプテンは、絞り出した。
「技術というよりも、相手の徹底している様を感じました。このゾーンでは何をする、ターンオーバーしたら何をする。自分たちにも決まり事はありますが、それを僕たちはやらせてもらえなかった。桐蔭学園さんは全員が意思統一していたと感じます。」
次から次へと迫りくる圧力に、頭が回り切らなかった。次に何をするか、というよりもその場その場のボールキープを優先せざるを得なかったのだという。
後藤慶悟監督も「あんなにスクラムを押されたのは初めて」と語った。そして繰り返した「有難い」の言葉。
「これがきっと、全国優勝候補レベル。そういうチームと本気の戦いができたこと、早い段階で体をぶつけられたことが有難いです」と振り返る。
もちろん、選手たちのことを思うと悲痛だった。
「体も痛いし、きっと心も痛いと思う。だけどこれを乗り越えないと、成長はできない。シード校を倒して花園で正月を迎えるためにも、このコンタクトレベルを新人戦で味わえたことは間違いなく大きな財産です。」
越えなければならない壁を体で体験した、この一戦を絶対に肥やしとしなければならない。
「必ずこの経験を活かします。」
次は2月18日、茗溪学園と全国選抜大会への出場権を懸けた順位戦に挑む。