茗溪学園
後半3分まで0-10のビハインド。
反撃の狼煙をあげたのは、ドロップゴールだった。
ゴール前まで攻め込んだ所、ゴールポスト正面でボールを後ろに戻せば10番・岡本泰一選手がドロップゴールを蹴り込んだ。
3点を返し、まずは1トライ1ゴール差まで戻す。
だが大分東明の協力なフィジカルを前に、なかなか決定機を生み出せない。
それでもFWで前に出て、バックスで仕留める茗溪学園のラグビーは決して崩さない。
ゴール前までFWが持ち込むと、恐れることなく右に左にとバックスがボールを動かし、機をうかがった。
後半23分。
ゴール目の前でのラックから9番、10番、12番とバックスが繋ぎ、最後は14番・森尾大悟キャプテンが飛び込む。
前半にはシンビンを受け、その間にトライを許していた森尾キャプテン。
「本当に申し訳ない。チームのみんなが助けてくれたとしか言いようがない。」
自らで5点を取り返した。
8-10。大分東明のリードは続くが、差は2点に縮まった。
怖いものはない。
後半29分、一気にゴール前までたどり着くと、またしてもバックスがボールを動かす。
9番から12番、15番、14番と繋げば最後は2番・川村航平選手が押し込んだ。
15-10、掴んだ大逆転勝利。
茗溪学園の選手たちは、歓喜のガッツポーズを繰り返した。
次戦はいよいよ、準々決勝。
対戦相手は、夏の全国7人制大会で同点引き分けだった東福岡に決まった。
「今日よりもハードなゲームになることは間違いない。今日はしっかりとマインドセットを準備して臨めたと思うので、同じように準備をして、勝つ準備をしていきたいと思います。(森尾キャプテン)」
相手はディフェンディングチャンピオン。だが、花園では3勝1敗と勝ち越している相性の良い相手でもある。
茗溪学園のラグビーを、必ずやノーサイドの瞬間まで。
芥川俊英監督
今日同点になるんじゃないかと思っていて(笑)抽選になったら多分次に進めないだろうな、と思っていたので、彼らが勝ち切ってくれ本当に良かったです。
最後のトライシーンは、生徒たちに自信があったのではないかなと。今日は10点差以内の試合と想定していました。ディフェンスには自信があったので、20点以上は取られないと思っていて。その中でどれだけ自分たちが点数を取れるのかという所でした。
前半はなかなか点数を加算できませんでしたが、ドロップゴールで3点を加えたことが一番大きかったなと思います。ドロップゴールを準備していたわけでは全くなく、選手たちの判断です。「そんな選択するんだ」と思いました。僕もびっくりでした。「そっか、点差縮めたんだ」という感覚でしたね。
僕はもう生徒を信じているので、生徒の判断に全て託しています。
ただベスト8を目標にしていたわけではなく、ここが終着点ではありません。彼らの実力からしたらベスト8は当然いけると思っていて、もっと上を目指すために今までやってきました。
これを通過点として、一試合ずつ頑張っていきたいと思います。
大分東明
大分東明4番・嶺和真。
一目でこのチームのキャプテンだと分かる選手。
トライされ、逆転を許した直後の円陣で、魂を震わせた。
「周り見てみろ!俺ら70人背負ってんだって。やり切るよ!」
バックスタンドには、この日ジャージーを着ることができなかった部員が並び、笑顔で声を張り上げた。
「常に応援の声が聞こえていました。応援のおかげで粘ることもできたし、頑張れた。ノンメンバーには感謝しかないです。」
ピッチに立つ15人だけでなく、ジャージーを着る25人だけでもなく。
大分東明の部員全員が、エンジョイラグビーの真骨頂を体現した。
嶺キャプテンは言った。
「部員が70人います。ピッチに立つ15人は、70人分の気持ちを背負って戦っています。以前から『キツい時は、出ていない人たちの顔を思い浮かべて最後まで頑張ろう』という話をしていました。」
最後は5点差を追いかけた。まだ逆転できる点差。
応援を背に「もうひと踏ん張りしよう」と、最後の声を掛けた。
福岡県出身の嶺キャプテン。
「大分東明でラグビーがしたい」と越境した。
大分東明として未だ辿り着いたことのない『ベスト8』をただ一つの目標に歩んできた、キャプテンとしての1年間。
「絶対にベスト8に行ってやろう、という気持ちでした。大分東明高校でラグビーができて、楽しかったです。ベスト8まであと一歩の所まできていたからこそ、本当に悔しいです。」
涙は止まらなかった。
白田誠明監督は言う。
「責任感の塊のような子。彼がいなかったら、こういうチームにはなっていなかったと思います。」
彼がキャプテンで良かったと思っています、の言葉を繰り返すと、白田監督は声を震わせ、涙を流した。
「彼を勝たせてあげられなかったのは、こっちの力不足だなという気持ちでいっぱいです。」
エンジョイラグビーのその先は、来年に託された。
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