80分の物語
キックオフ前
11時30分を過ぎると、会場に到着した選手やコーチたちが思い思いにグラウンドに姿を現した。
会場を見まわし、雰囲気を確認したのは早稲田の面々。ベンチに座って、感触を確かめる。
今日が大学最後の公式戦となる古賀由教選手は、会場をぐるっと一周カメラに収めてから、トラックの上を駆け出した。
そういえば。去年も、同じように早めに会場に出てきて、写真を撮っていたっけ。
最後はスキップをしながらロッカールームへ引き上げた古賀選手
一方の天理サイドも、登録外であろう8人が無線の届き具合を確認しながら、ゆっくりと会場を一周する。
11時50分過ぎ。レフェリー団が会場に姿を現すと、大型ビジョンを背景に集合写真を撮影した。レフェリーにとっても、大学選手権の決勝、しかも国立という舞台で笛を吹けるのは限られた一部の人のみ。ともに試合を作る仲間として、会場の雰囲気を確かめる。
11時52分を回ると、早稲田の丸尾崇真キャプテンがグラウンドレベルに姿を現した。少し前を歩いていた川原レフェリーに声を掛けると、グータッチを交わし、ピッチサイドで少し言葉を交わす。
川原氏と別れた後も、ハーフウェイ付近から一人、ピッチを眺め続けた丸尾キャプテン。何を想い、何を想像しているのか。しばらく佇んだ後、後藤コーチが声を掛けると柔らかい笑みを浮かべた。
12時32分。早稲田の選手たちが、試合前練習のためにピッチへ出てきた。笑みを浮かべる選手もいたが、大半はシュッと引き締まった表情だ。
12時36分。早稲田の全体練習がスタートしたと同時に、天理も競技場内へ姿を現す。
しかしその姿は、早稲田とは何もかもが対照的。早稲田はアップジャージを着ているのに対して、半袖半ズボン。そしてメインスタンド最前列に席を構える仲間たちに、一度振り返って笑顔で拳を上げる。
「仲間のために」という思いが溢れだすその姿だけで、試合前から感極まる。漆黒の旗を振る仲間たちに勝利を誓ってから、ピッチへ駆け出した。
12時42分。早稲田のFW陣が小さく円陣を組み大きな声を上げると、スクラムを組んだ。Aチームが気持ちよく押すと、その横で見ていた相良監督が拍手を送る。
かわって天理も、12時45分。一つの大きな円陣で、気合いを入れる。
12時57分。両校同じタイミングで、ロッカールームに引き上げた。
最後までグラウンドに残っていたのは、早稲田の河瀬諒介選手と吉村紘選手。あらゆる角度から、最後までプレイスキックの感触を確かめていた